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『黒炎の王と星を視る娘〜街中の星たち〜』

前作:『黒炎の王と星を視る娘〜星の子供たち〜』

関連作:『黒炎の王と星を視る娘』、『黒炎の王と星を視る娘』後日談


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 レイ・ランドルフ・ローランドに恋人がいると知った時の驚きようをどう表現しよう?
入院中の萎びたオレンジことカイル・キーンは車椅子の上で大層驚いた。
ペンキをこぼしたような真っ青な海色の髪をしていて瞳がマゼンタの悪魔は、身動きが取れない人間の病室に押しかけて平然とお前の魂を食ってやると言った。そんな奴に恋人がいるのか? カイル・キーンは目の前で腕を組んで並ぶ年若い男女を開いた口でずっと見るしかなかった。
「……誰?」
アンジェラ・エヴァンズが真っ先に声を出した。アンジェラとカイルの接点はレイだけであり、その接点が気まぐれで恋人を連れて来なければ二人は出会うことはなかった。
「カイル・キーン。超能力者だよ」
「ふーん」
髪と揃いの黒い睫毛は長く、目鼻立ちが整いながらも素っ気ないアンジェラはカイルに興味を持たない。
「……アンタ恋人いたのか」
「いるよ。可愛いでしょう? あげないけど」
「横恋慕なんかするかよ」
「そう?」
恋人アンジェラの髪に口付け、レイ・ランドルフ・ローランドは近くのコーヒースタンドで買って来たであろうカフェオレをカイルに差し出す。
「自販機の薄いコーヒーじゃなさそうだ」
「デイヴィットの知り合いの店のさ。美味しいよ。あげる」
「アンタがタダで差し入れを?」
「この後シュークリームを持ったデイヴィットが来る」
「あっそ」
レイは元超能力者カイルにカフェオレをしっかり持たせると恋人と共に病室を出て行く。
ほんの数十秒、ほとんど入れ違いに黒髪のデイヴィットが病室へ来た。もちろんシュークリームの袋を持って。
「よぉ、オレンジ」
「……オレンジじゃない。甥っ子が来たぞ」
「知ってる。ちょっと散歩しよう」

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