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商人日記 2021年4~6月

太平洋のそばにある高豊中学校で、自分の仕事について語る 「ビジネスパーク」に参加して参りました。 私のタイトルは「社長になろう!」でしたが、 今回も心を開いて中学生に向き合うことを心掛けました。 まずは、社長の心の中をのぞいてみようと、「社長は悩む人だ」と投げかけました。 それが私の実感でもあり、周りにいる知り合いの社長からも察せられるものでした。 しかし、悩むからこそ、人の受け売りではない、自分自身の判断ができる。自分らしくなれる。 そして、悩みが深くなると、太平洋の海に出掛けることを紹介しました。 昨年は、NHK朝ドラ「エール」の主題歌が流れる背景で、毎回ここの海が放映されていました。 この海の向こうにある、ガダルカナル島、サイパン島、硫黄島、 ペリリュー島、テニアン島、ブーゲンビル島、アッツ島・・・ 潮風とともに聞こえてくる声がある。私の名を呼んで「よっちゃん、頑張れ!」 戦地で散った先人たちの苦悩を思えば、自分のことなど、ほんの小さなことだと分かります。 今年も、その海岸近くでは、そんな声が具現化したように笹百合の花が優しく咲いていました。 2021年6月18日

当店には週に1回ヤクルトレディさんが職域販売で訪問してくれます。 レディさんたちは、地域の見守り活動に参加されるなど社会貢献も積極的に行っています。 また、女性が働きやすい環境を作るために、社内に保育所を整備。 最近では地方自治体とも提携した子育て支援活動もされています。 そこの社長さんは当店のお客様でもあり、豊橋商工会議所の議員仲間でもあり、 折にふれさまざまご指導を頂いています。 先日も「おもいやっこステーション」の取り組みをご紹介頂きました。 おもいやっことは、「おもいやり」「分かちあう」「思い合い」を表す郷土の方言で 「みんなが少しずつお互いを想い合い、支え合える地域に」との想いを込めているとのこと。 具体的に、そこでお買い物するとポイントが溜まり、そのポイントが 社会問題解決に取り組む団体に寄付される。 公共性の高い活動をされている社長さんに敬意を表するとともに、 本日もレディさんが「うちの社長はいい人で、私たちにも気さくに話しかけてくれるんですよ。」 社長さんの自慢話が聞こえて来て、何だか自分事のように嬉しくなりました。 2021年6月4日

新緑の香嵐渓にある三州足助屋敷を訪れました。そこに掲げられていた言葉に目が留まりました。 「ここの手仕事は民芸でも伝統工芸でもない。自分の生活に必要なものは自分でつくる 健(したた)かな山の生活が甦っただけなのだ。土から離れ手足を使わなくなった現代生活が 慈しみを忘れ、いかに貧しいものか考えてみたいものだ。」 ホームページには誕生物語があり、 「観光とは、訪れる人々との交流の中で、地域色豊かな文化遺産を公開し、保存・継承しつつ、 地場産業に育て、所得を得ると同時に、地元の民度を引きたて、愛郷心を高めるものだ。」 そこでは、昔ながらの道具を展示するだけではなく、職人による実演があり、またそれを体験することまでできる。 しかも、機織り、藍染め、紙漉き、かご作り、わら細工、竹細工、木工など多様であり、 それぞれに職人が常駐している。そして開業40周年を迎えて、このスタイルがずっと続いてきたことに 民度の高さとともに、愛郷心を強く感じました。 白いハンカチを藍で染めながら、自分の内に眠っていた慈しむ心が呼び覚まされたようでした。 2021年5月27日

東証一部上場を果たして、海外まで外食産業を展開させて地元で活躍する大先輩は、 7度目の年男を迎えて今年の年賀状で「年寄りなりに必死に頑張っている」 このコロナ禍で、多くの従業員を抱えて、測り知れないご苦労があると想像できますが、 年始の商工会議所の年賀会では、真っ先に会場に駆けつけておられました。 そして、あの年賀状の言葉が五か月後の今日じわじわと響いて参りました。 「昔はどろくさいのが嫌い 必死にやっているなんて絶対に言わない 涼しい顔をして 成功したいのでした 今は正直に自分を、正直に自分の心の底を全部出しちゃえ 『恥ずかしくないぞ』の心意気です」 真摯に生きる大先輩らしい表現ですが、 「必死に若づくりしていると皆から思われている私です」とユーモアも忘れません。 そんな言葉に向き合うと、「もっと心を出そうぜ!」と響いて参ります。 かたや、自分のへんなこだわりが見えてくるようでもあります。 年賀状の最後は、次の言葉で締めていました。「今年も心の底 全部出しちゃうぞ!必死に」 私も大先輩にならって、心の底全部出しちゃうぞ!必死に。 2021年5月15日

橋田壽賀子さんは、夫の岩崎嘉一さんのことを語っていました。 「亡くなる前に『不倫と人殺しの話は絶対書くな!』と言われたんです。私はそれを守ってきました。」 そんな橋田さんのドラマに数多く出演した石坂浩二さんが市川崑監督のことを語っていました。 「自分の考えを捨てろ!自分らしさなんて大したことはないんだよ。」 石坂さんは「監督に出会う前は、演技に対して明確な答えがみつけられず、先輩たちから受ける助言もバラバラで、 悩むこともありました。でも自分の考えを捨てて、監督の言う通り演技する中で役者の仕事というのは明快になって、 それがいまの自分につながっている。」それが、探偵の金田一耕助でした。 本来の自分とは、他者との豊かな関係性の中で立ち現れるのでしょう。 その点で、自分の殻に閉じこもってはならない。 そんな関係性をなくすのが、不倫であり人殺しなのかもしれません。 橋田さんの追悼番組では、石坂さんが司会をされて、 「おしん」家族の泉ピン子さん、伊東四朗さん、小林綾子さんが追悼していました。 橋田さんと役者との豊かな関係性を垣間見ることができました。 2021年5月3日

アカデミー賞を受賞した「ノマドランド」を鑑賞して来ました。 中国出身のクロエ・ジャオ監督は、キャンピングカーで放浪する米国人女性の日常を赤裸々に描いていました。 現代人の生活に抗う逞しさ。悲しみを分かち合う友情の素晴らしさ。 それは自分らしくありたいと渇望すること、あるいは自分に正直であること。 監督自身の正直であろうとする態度が映画に投影されていたようです。 2013年の米国でのインタビューで、10代に過ごした中国ではうそが溢れていたと発言。 中国ではこの作品は上映中止、アカデミー賞受賞も報じられませんでした。 かたや、香港の民主活動家の周庭さんが昨年5月のオンラインセミナーで発言していました。 「私たちは命をかけて闘っています。将来には不安しかありません。来年、私は生きているでしょうか。 人権、民主主義、自由を空気のように思ってよいのでしょうか。なくなると分かるのです。その価値が。」 今日の日本では、「空気のように思う」無自覚なあり方が、人生の停滞を招いていないか。 これらの女性たちの叫びを、生きる糧としたいです。 2021年4月29日

餃子を焼くフライパンをお探しの方から電話でご相談を頂きました。 その後、お隣の静岡県からご来店下さいました。 「梅湯」と書かれたティーシャツをお召しで、銭湯活動家という肩書の 湊三次郎君のお父様であることが分かりました。 三次郎君は、当社近くにある人参湯という銭湯を復活させた若干三十代の若者です。 その人参湯で発行している「にんじん新聞」には 「日本から姿を消してゆく銭湯をなんとか存続させようともがいている集まりです。」 この「もがいている」という言葉に強く心を打たれました。 いつか三次郎君にお会いしたいと思っていた矢先に、お父様がお客様という形でご来店下さいました。 廃業寸前の京都の花街にあった「梅湯」を脱サラして二十四歳で継承。 それから銭湯活動家としての歩みが始まり、今月豊橋の閉店した人参湯にまで進出。 そんな飽くなき挑戦を続ける息子さんを見守るお父様にも興味を持ちました。 お父様の電話から始まった買物ぶりを拝見していて、息子さん同様で、真摯に挑戦されているご様子でした。 私も、三次郎君とお父様に負けずに、もがいて参りたいです。 2021年4月24日

どうしたら従業員が生き生きと働けるのか。その就業環境を作るのが商人の仕事です。 かたや、パワーハラスメント防止措置が、来年4月より事業主の義務となります。 パワーハラスメントとは、「優越的な関係を背景とした言動であって、 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されます。 特に、経営が厳しい時こそ、人件費等の経費を切り詰めようとします。 その結果、従業員の就業環境は、厳しいものとなりがちです。 その中で、会社を存続させなければなりません。 さらに、従業員が輝いてこそ、顧客に対してベストパフォーマンスを実現できます。 そのため、従業員にも状況を率直に伝えて、状況認識を共有してもらことは必要です。 従業員は、対等な人格を持つ心強き味方であり、苦楽をともにするカンパニーです。 ですから、日頃からコミュニケーションを良くとりあい、信頼関係を醸成しておくことが大切です。 そして、その状況の原因および責任は、商人自身にあるとすべきです。 その商人の覚悟こそ、良い就業環境につながる土台だと思います。 2021年4月19日

総額表示を通じて、商人にとって、税とは何かを考えました。 消費税として、販売価格10%の金額を顧客より預かり、後日それを納める。 その点では、税務代行をしています。 そのため、どのように税を徴収するか、どのように税を使うのかに関心を持つ必要があります。 それは、国や地方の財政および政治に目を光らせること。 明治の初年に地租改正が実施されます。並行して国会が開設されて参政権が付与されて参りました。 税を納めるからこそ、国が成り立ち、権利が付与されます。 ところが、代表者に丸投げして、商人は税に不平をこぼすばかりで、政治に無関心になっていないか。 ただ、政治に対して深入りおよび癒着することは要警戒です。 しかし、政治とは離れず、政治との適切な距離感を見定める必要があります。 そして、さざまな経済団体等を通じて物申すこと。そこに商工会議所の存在意義があります。 本来、税務署員ではなく税を納める人こそ、税を啓発する立場にあるように思います。 公僕を養っているのは、税を納める人たちであり、それが主権者たる所以です。 そして、それを先導するのが商人です。 2021年4月5日

この四月より消費税を含めた総額表示の義務化で、値付け作業に従事していました。 改めて、商人にとって価格とは何か。 通常は、メーカーが原材料費等のコストを勘案した希望小売価格、定価を提示してくれます。 その定価には、商人の利益を確保することが考慮されています。 その時、商人は、顧客とメーカーとの間にあって、どちらにも納得してもらう価格を決める立ち位置にあります。 いくら品質が良好でも、高額であってはなりません。 逆に、いくら値ごろ感があっても、品質やサービス等が劣っていてもなりません。 加えて、商人は、自店の従業員に報酬を与えなければなりません。 その点では、顧客が納得される上限を見定めることが肝要です。 顧客が喜び、メーカーが喜び、従業員も喜ぶための価格を設定する。 その点で、過度な安売りとは、結果としてメーカーを取り巻く業界全体が疲弊してしまい、従業員を長く養うことができません。 その意味では、常にバランス感覚が問われていて、それが価格に反映されることが分かります。 値付けとは、顧客、メーカー、従業員の三者と向き合うことでした。 2021年4月3日