POPでハイセンスなガールミーツガールMovie!『アイスクリームフィーバー』感想
本日公開されたばかりの映画『アイスクリームフィーバー』を観てきた。
ラッキーなことに舞台挨拶付きが取れて、TOHOシネマズ六本木ヒルズへ。このシネコンの中でも最も大きいらしいスクリーン7は、おそらく自分がこれまで訪れた映画館の中で最も広かった。
ポップで可愛い超オシャレ映画
映画は期待以上に素晴らしかった。
勝手な先入観や予告のイメージから、もっとミュージックビデオ的な作品かと思ったらそうではない。しっかりと筋があり、ドラマがあり、感情の起伏と機微が丁寧に散りばめられた映画だった。
そして当初のイメージも裏切らない、それでいて予想を綺麗に超えてくるポップでオシャレで可愛い作品だった。
オシャレ感とか、オシャレっぽい、ではない。「感」とか「ぽい」は付けられない。
容赦なく完全にオシャレ。
このオシャレという言葉が安っぽいニュアンスで伝わるのなら残念で仕方がないとさえ思う。
真摯にオシャレをやりにいっている。その潔さが素晴らしい。だから突き抜けて結果的に「こういうのが好きなんでしょ?」といった迎合を感じない。エセなファッション性じゃない。
目で楽しめて、耳で心地よく、感性が刺激される。
本当に出てくるものすべてが可愛い。
スウェット、眼鏡、紙袋、紙カップ、髪型、バルコニー、どこもかしこも手加減なく手抜きなく手癖でなく、こだわりと愛に満ちていた。すべてのファッションとアイテムを見返したいがためにももう一度観る価値がある。
優(松本まりか)が卓球していたときに着ていた猫のスウェットめちゃくちゃ可愛かったし、小杉湯の番頭だった片桐はいりさんの衣装はどれもパーフェクト(そしてなぜか笑いそうにもなる)
ロケーションもすべてハイセンス。
レトロやトレンドは感じるものの、それは流行りの昭和レトロではない。パブリックにイメージされるトレンドでもない。間違いなく誰かが鮮明に思い出に誇る景色であり、愛を持って訪れていた空間であり、感度の高い人たちの中だけでシェアされていた大切な場所だ。
それは映画鑑賞後の舞台挨拶で、千原徹也監督の話を聞いたら納得がいった。監督が青春を過ごした90年代のリアルな渋谷のオマージュで、良い意味でとても個人的な感性から発露していった映像だったのだ。ウケを前提にした切り貼りの画じゃなかった。
この映画の中にある物語は、きっと誰かが本当に駆け抜けた青春だと信じられる。
言い過ぎたことと、言い足りなかったこと、どちらが後悔するかなと、私は時々考える。
鑑賞後に、思い至ったことがある。
それは、言葉にし切らないと伝わらないと確信があった瞬間の存在。想像力を働かせてあえて言葉にしなかった場面。言葉にしたくてもできなかった心の揺れ。
いずれも沢山あるけれど、選ばなかったほうの道は、そもそも最初から選べなかった道なんだなって。私たちは反射的に言葉を投げてしまったり表情に出してしまったりする。時に本音より、その場にふさわしい言葉を選んでしまう。優しい人ほど、あるいは弱い人ほどそうかもしれない。
本作を観ると、そんな言葉の切れ端や衝動に追われた記憶に触れ直せる。
吉岡里帆× モトーラ世理奈×詩羽(水曜日のカンパネラ)
この女性3人が織りなす形容しがたい恋心には優しく引き寄せられた。デザインの仕事への未練を断ち切れずに生きる菜摘。カチコチに固まっていたアイスが溶け出してクリームが動くように佐保へと心が走り出す彼女はとても愛おしかった。
それに対して微動だにせずに受け止めていた(ように見えた)世保。そんな世保にもまた抱える事情があり、内実が明るみになりつつようやく菜摘の前で笑顔を見せた瞬間は特別だった。
2人が部屋で顔を寄せ合うシーンはドキドキで、舞台挨拶トークでは松本まりかも最も印象的なシーンとして挙げていた。
菜摘の隣でその機微を眺める貴子はチャーミングかつナチュラルで、最高に魅力的な存在。
菜摘、世保、貴子と、3人の背格好のバランス、特に菜摘を軸とした2人との相対性が見ていて飽きなかった。
吉澤嘉代子の音楽が美しく流れるなか、菜摘と世保が渋谷川沿いをおそらく渋谷ストリームに向かってスケボーするシーンは何度でも反芻したくなる。数年前にあの川沿いにあるレモネード専門店に行ったことがあった。インスタ映えスポットとしても有名だったんだけど、さっき調べたらなんと閉店(!)していた…
吉岡里帆は『ハケンアニメ!』も凄まじく良かったけれど、本作でもまた好きになった。彼女が本質的に持つ誠実さが、今回の役柄にも見事に調和していて、同じ女性である世保に魅了されていく過程にも違和感がなかった。思い悩む姿も、真っ直ぐにほとばしっていく姿も、どちらも似合う役者さん。
水曜日のカンパネラの詩羽ちゃんは映画初出演とは思えないほど堂々たる存在感。
確実に本作の世界観の構築に大きく貢献していた。ありのままに近いのもしれないけど、芝居だろうと素だろうと、どっちにしたって超絶キュート。表現力に関してはアーティストとしてすでに存分に発揮しているから自在性を感じた。アイスクリーム屋のユニフォームも似合うし、ジャルジャルの後藤さんと見せた領収書のくだりにはやられた。スイカを抱えて夜道を歩くシーンも、まるで妖精が地球を運んでるみたいだった。
(舞台挨拶で喋ってるのを聞いたらなんかもうギャル!って感じでそれもまた可愛かった)
コムアイとの同じ作品共演実現も胸熱!
松本まりか×南琴奈
ひとりの男をめぐる関係性だった姉の姪を前にして複雑な胸の内を秘めていた優は、人間味が誰よりもあって素敵だった。会社での顔、銭湯で見せる顔、姪の前での顔、それぞれ絶妙に違って、本来人間ってそうだよなと腑に落ちる。
まりかさんは個人的にも大好きな役者さんなんだけれど、インタビューやSNSで見せる彼女の飾らず溢れ出る人間味も大好きなので、優の人間味が徐々に募ってきちんと生きているのが伝わってきたとき、やっぱり間違いない!と感じた。
人間関係は基本的には反射で、目の前に立つ人や身を置く環境によって引き出される素顔は異なる。優は劇中で誰よりも横断的にあらゆる表情を見せてくれた。
優との会話で大人びた雰囲気を放つも、だんだんとその年齢らしい幼さや弱さを滲ませる南琴奈演じた美和も良かった。彼女もまた詩羽と同様に本作が映画デビューとは思えないほどスクリーンに映える。
優と美和、最後に2人が辿り着いた結末、銭湯で優が美和にしたアクションは幸福の象徴だった。
(ちなみに高円寺の小杉湯は先日たまたま近くを散歩する機会があり、看板を写真に撮っていた)
この作品をこんなふうにまとめ上げた千原監督の、既成の映画観にとらわれない自由な映像作りは恐るべし…(ご本人もカメオ出演していた)
地元がロケ地になっていた!
映画では地元山梨の富士吉田市がロケーションに使われていた。
それこそ富士吉田市という地名は、劇中に登場していたし、富士急バスのバス停とか月江寺の商店街とか西裏のレトロ街とか見知ったスポットは見逃さなかった。
松本まりか×安達祐実のシーンはおそらく「西裏」というエリアで撮影されている。
西裏はかつて関東屈指の歓楽街として栄えた場所で、今でも多くの飲み屋が軒を連ねる。西裏は全盛期、映画館が6つも(!)あったらしい。
今では当時のスナック跡地が残っていたり、リノベーションされたお洒落カフェがあったりと、観光客を呼び集める昭和レトロ堪能スポットとなっている。何より富士山が綺麗に見える街なので一度行ってみてほしい。
あの夏、たった一度の夕立に
本作の原案となった川上未映子の作品も好きで今でも大切にその書籍の多くを持っている。
そういえば昔、下北沢のB & Bというコンセプト書店が出来たばかりの頃、川上未映子とハーゲンダッツがコラボレーションしたイベントに行ったことがあった。
店内で参加者全員がアイスクリームを一緒に食べるという素敵イベントで、こんなところから今日の映画にまで繋がるなんて人生って最高だな!と思った。
この映画を観終わると、新しい出会いや変化を探しに出かけたくなる。駆け出したくなる。
というか、駆け出そう。
世界に1万3千もあるという核兵器が放たれる前に。
この夏、たった一度の夕立のような出会いを。
サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います