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櫻井稔著作『データとデザイン』の感想とイベントレポ


はじめに

こんにちは、ファンタラクティブデザイナーの朝妻です。
今回は、Takramの櫻井稔さん著作の“データとデザイン”という本を読んだので、その感想と刊行イベントのレポートを記事にしたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/dp/4802512686
(なぜか埋め込みがうまく表示されないですがAmazonリンクです)

“データとデザイン”は、デザインファームTakramの櫻井稔さんによって執筆された書籍です。
櫻井さんは、のちほど紹介するイベントにも登壇する統計家の西内哲さんとデータを扱うプロジェクトを共にすることが多く、彼も今回の書籍にも深く関わっているそうです。

読んで欲しい人

データを活用した新規事業の担当者、AIを自社プロダクトに導入することを検討している方、そしてデータをシステムからUXのプロセスに落とし込むデザイナーやエンジニア、とくに我々のような管理系のWebアプリケーションのUX,UIを専門とする方も非常に参考になる本だと思います。

本の概要

この本の背景として、櫻井さんは「生活の中で大量に生み出されるデータを記録し続けた結果、人々の消費はますます複雑になっている」と述べています。TikTokのが興味のある動画を勝手に出してくれたり、お店の混雑状況を予測してくれたり、最近ではAIが画像の識別をしてくれたりなど…。デザイナーは、このような生活者の複雑な消費活動を可能にするために、膨大なデータを適切に整理し、表現し、意味のある情報として浸透させていく必要がある。というのが大筋です。

内容は大きく2部で構成されており、「1部:データのためのデザイン」と「2部:デザインのためのデータ」となってます。

「1部:データのためのデザイン」では、データをどうデザインすべきかについて書かれています。データをいかに分かりやすく表現すべきか、またただ分かりやすくするだけでなくそのデータからどういった示唆が得られるのか、さらにそこからどういったアクションをユーザーがとらなければならないのかまで徹底的に考察しています。Takramのプロジェクト「RESAS Prototype」の事例でどういった工夫がされているかや、人工知能のデザインで話題としてよく上がる責任や信頼についても触れています。

「2部:デザインのためのデータ」では、データをいかに人間の生活に浸透できるかについて言及しています。データが身近になってきた社会において、ユーザーがいかに違和感なく、抵抗感なく、継続的にデータに触れられるようにすべきか。生活にデータが浸透されているものとされていないものの違いや、なぜ人はデータを活用できないのかなどを述べた後、データ活用を具体的にプロダクトに落とし込むUXプロセスまで触れています。

本の感想

ここからは、特に私自身が面白いと思った内容を抜粋して紹介していきます。

複雑なデータから導かれる結果への理解度を高める方法

複雑な計算ロジックで示された結果の場合、ユーザーはどういうロジックでその結果が出ているかわからないので鵜呑みにできない、という課題があると思います。この課題に対し著者は「メンタルモデルの一致」が重要と述べています。どうすればユーザーにとって理解しやすいものになるか、馴染みやすいものになるかをいくつかの事例を出しながら解説しており、デザイナーにとっては「なるほど!」と思わせてくれるものが非常に多かったです。

AIに対する責任と信頼

自動車や医療の領域にAIが介入すると、責任についての話は必ずついてくると思います。著者は、AIの責任範囲をうまく調整し人々の生活に浸透できた事例として、スマートスピーカーのAlexaを挙げており、その戦略をわかりやすく図解にしてくれています。また、AIが信頼されるデザインとは何か、についても多くの成功事例を出しており、それぞれの成功した理由の分析がとても面白かったです。

データを扱うプロダクトのUXプロセス

UXプロセスの大枠においては、アジャイルで仮説検証しまくって作ろうぜ、みたいな感じで我々が普段取り組んでいるような方法と大きくは変わらない印象でしたが、膨大なデータを取り扱うプロジェクトならではの壁や工夫が新しい知見でした。結局このデータから何を知りたいのかを考える上でのデータを分析するコツや、ユーザーにプロダクトを浸透させるためのデータ表示の工夫など、テクニカルな話だったりThe UXみたいな泥臭い話もあって興味深かったです。

イベントに参加しました

『データとデザイン』刊行記念トークイベント 「未来を創り出す、人とデータのつなぎかた」 櫻井稔(Takram / デザインエンジニア)×西内啓(統計家)@ SPBS TORANOMONに参加してきました。
自分が登壇するわけではないのにビクビクしながら虎ノ門のでかいビルに入館。(でかいビルって緊張するよね)受付でオシャレなミックスナッツとスムージーが入ってそうな紙パックの水をもらいました。
会場には櫻井さんと西内さん、司会進行のTakramの矢野さんがいらっしゃいました。トークイベントのスケジュールは約1時間半で、前半の1時間はあらかじめ用意されていたスライドに沿って櫻井さんと西内さんが対談し、後半30分で質疑応答がありました。
スライドは、本の内容の要点を簡潔にまとめたものになっており、当時のプロジェクトの大変だった話やどういった思考で進めていくのかを織り交ぜながら対談されていたので、現場よりのリアリティのある話を聞くことができました。
ここでは特に面白かった話を2つピックアップします。

1つ目。「なぜデータは使われなくなるのか」というテーマの中で、その原因の一つとしてデータを管理できるようにしたのはいいけど結局やること増えちゃったよね、という話がありました。
データを扱う上での理想のあり方として「Do less get more」という言葉、つまりデータを活用することで既存の何かをしなくて良くなることが重要と述べていました。これはデータの話に限らず新規事業やUIを考える上でも非常に重要なことだけど、やっていくうちに見落としがちだよなぁ、と改めて思わせてくれる話でした。

2つ目。データを生活に浸透させるための手法として、レトロフィット(違うものだけど知ってると思わせること)の重要性を述べてました。質疑応答で参加者が似ているものを探すコツについて聞いており、その回答が面白かったです。
タンジェントスクラプチャーと呼ばれる手法で、たとえば「コップに対して、コップと呼ばないでどう呼ぶかを言語化してみる」のような感じで、その名を呼ばずにその事柄について説明するゲームです。
これをすることで頭が柔らかくなり思いもしないものとものが繋がるらしいです。なるほど確かに、これは弊社のデザハピでもやってみたいなと思いました。

質問してみた

せっかくお金と時間をはたいて参加したので、思い切って質問してみました。本の中で、データをデザインする上で複雑さとシンプルさのバランスが大事といった内容があったので、Takramさんではどのようにそのバランスを考えているのかを質問しました。本当はもっとたくさん説明してくださったのですが、会話形式で要約して紹介します。

櫻井さん「まず複雑とシンプルのレンジがあることを認めて、そのレンジの幅を知る。次に、シンプルがどこまで行けば限界シンプルなのかを知り、複雑はどこまでだったらユーザーに触らせてよいかを知る。最後にどうやってそこの間を行き来できる状態にしてあげるかを考える。それの1つが例えばリモコンパカパカモデル。」

西内さん「パレートの法則をもとに、80%の人が使う機能とそうでない機能をリモコンの面と裏で分けるといいかもしれない。結局は相手によって違うので、どういう人たちに向けてなのかってところをうまくバランスを取る話だと思います。」

櫻井さん「機能を減らす時にはユーザーテストをします。ちなみに、ユーザーテストはリサーチ会社に頼まないでください。実際に自分でテストをやってみると、これはすごく使いやすかったですって言いながら、全然使いやすそうじゃないみたいなこと、結構あるんですよ。そういった言葉だけを残すと、実は使いやすかったですだけになっちゃう。裏には全然使いにくいみたいな手の動き、 こっちが想定してた100倍使いにくい動きをしてたみたいなこと結構あるので、そういったところはしっかりと見てあげてください。」

私の質問のためにこんなに時間と知識を与えてくださるのか、、と感謝の気持ちでいっぱいで質問して本当によかったです。首がもげるくらい頷きました。

名刺もらいました

イベント終了後、精一杯の力を振り絞り、櫻井さんに声をかけてみました。そして戦利品として名刺をいただきました。本の裏表紙にサインも書いてもらおうと思いましたが、さすがに勇気が出ませんでした。

おわりに

冒頭で申したような読んで欲しい人には非常に参考になる本だと思います。今後のデザイナーのあるべき姿について考えさせられる本なので、ぜひ読んでみてください。

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