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企業ファンサイト2.0-07

『企業ファンサイト2.0-06』からの続きである。

こんな魅力ある店々が、なぜ間口を広げないのか?
それは彼らが、お客様との信頼関係を守れなくなることを知っているからだ。
「一介の鯛焼き屋、洋食屋、焼き鳥屋、居酒屋、和装小物屋だけれども、きちんと良い仕事をさせてもらいますよ、だからこれ以上、間口を広げたら美味しいもの、きっちりとした製品作りが守れなくなるよ」と。
そんな誇りに満ちた呟きが聞こえてきそうだ。

そして、もう一つ大切な理由がある。
店を拡げれば、シズル感が消える。
sizzleとは本来、肉や魚などを揚げている時のジュージューと音をたたている様の擬音語である。
最近では、映像表現として臨場感のある「新鮮さ」「みずみずしさ」といったニュアンスを表現する言葉としても用いられることが多い。
例えば洋食屋「キラク」のカウンターに座り注文する。
眼の前で繰り広げられるのは料理人の手際の良い手捌きと、ジュージューとビーフカツを揚げる音、そして旨味のある匂いが店内に充満する。
例えば、鯛焼き屋の「柳屋」の列に並んでみるといい。
一枚一枚丁寧に焼く職人のリズミカルな動きと、香ばしい匂いが店内から歩道にまで漂ってくる。
なにも、食べ物だけではない。
和装小物の「高虎」の工房からは、鼓笛隊の小太鼓を打ち鳴らすようなテンポのよいミシン掛けの音が聞こえてくる。
これはすべて、間口が狭い店ゆえに出来ることである。
彼らは、味・音・匂いという目には見えないものも、その一つ一つが大切なブランドの構成要素であることを知っているのだ。
自分らしさ(というブランド)を守れる人とは、出来ることを誇示することではなく、出来ないということに拘泥することではないか。
まさしく、こうした頑なな想いを実現させた事例である。

さらに最近の事例を2つほど紹介したい。
1つ目は、一日100食限定でハンバーグやステーキ丼を提供する京都の「佰食屋」。
ここでは、毎日100人分の食材を仕入れ、誰でも食べに行ける値段で100人に提供するという形に拘り経営をしている。
今回、コロナ禍の影響もあり4店舗を(6月下旬に2店舗閉店)2店舗にして、営業を続けている。
無理やりな拡大をせず、お客様も働くメンバーも、みんなが幸せになれるお店づくりを目指している。
まさしく、この形に拘ることこそが「佰食屋」のブランドなのだろう。
2つ目は、人気があるが後継者難で将来閉店するかもしれない飲食店の料理「絶メシ」(絶滅してしまいそうなメニュー)を提供する東京・新橋の「烏森 絶メシ食堂」。
メニューは群馬県高崎市のからさき食堂の看板メニュー「白いオムライス」(税込み900円)など3品。
白いオムライスはケチャップライスにホワイトソースをかけたもので、約半世紀続く同店で近隣の大学の学生に愛されてきた料理だという。
料理はレシピを教わったり店の許可を得て再現したりしたものを、1食につき売り上げの5%を料理メニューレシピ提供店に還元する仕組みだ。
ほかに松島軒(高崎市)の「黄色いカレー」(900円)と大衆食堂とみ(千葉県木更津市)の「ポークソテーライス」(1500円)を提供する。
絶メシは飲食店の後継者不足問題の解決に向け、高崎市が2017年に「絶メシリスト」を作成したことをきっかけに注目が集まった。
東京・新橋の「烏森 絶メシ食堂」を運営する大久保伸隆社長は「街の個性である個人経営の飲食店を支援したい」としている。
ここでも、ただ単に安く大量に売ればいいという姿ではなく、愛されてきた地域ブランドのメニュー食をなんとか継承していこうとする拘りの連鎖を感じる。

今まさに、このコロナ禍で最も大きな打撃を受けているのが外食業界だろう。
緊急事態宣言は5月25日に全都道府県で解除されたものの、ここにきて再び感染者数が拡大し、客足の戻りは鈍いままである。
こういした状況の中、外食業界では過去に例がないほどの閉店ラッシュが起きている。
国内に487店舗(5月末時点)を展開する居酒屋チェーンのワタミは、「三代目鳥メロ」や「ミライザカ」を中心に2020年内に約65店舗を閉店する方針だ。
一時休業の影響により、ワタミの国内外食事業における既存店売上高は、4月は前年同月比で92.5%減、5月も同92.8%減と10分の1以下に落ち込んだという。
同様にコロナ影響を受けているファミリーレストランなど761店舗(3月末時点)を運営するロイヤルホールディングスは、天丼チェーンの「天丼てんや」など不採算の約70店舗を2021年12月までに閉店する。
九州を地盤とするファミリーレストランチェーンのジョイフルも、直営店の3割にあたる約200店を7月以降に閉店していく。
さらに、店舗営業時間の見直しに着手するチェーンも多い。
「ガスト」や「バーミヤン」を擁するすかいらーくホールディングスは、今後も深夜時間帯の需要が減少するとみて、グループ全店の退店時刻を原則23時半とし、従来より2時間ほど早めた。
その数は、グループ店舗数3269店(5月末時点)のうち、約2600店にのぼる。
幸楽苑ホールディングスも、ロードサイドに構える「幸楽苑」の直営店の多くは24時に営業を終えていたが、7月以降は原則21時に営業が終了する。
郊外店はもともと、深夜の売り上げが大きくなかったうえに、コロナ禍の影響を受けて客足が一層厳しくなったためだ。
これまで外食企業はチェーン展開で店舗数を増やし、規模の拡大を目指すことが最大の目的であった。

東京商工リサーチ情報部の後藤賢治課長は「地元の常連客が通うような、街に根付く飲食店には客が入っている一方で、それほどのこだわりもなく消費者がフラっと入店していたような大手チェーン店は客足が厳しくなっている。大手の外食企業が強い、という印象が変わってきている」と、外食業界を取り巻く環境の変化を指摘する。 (東洋経済 ONLINE 6/13配信より一部引用)

『スターバックス成功物語』ハワード・シュルツ/ドリー・ジョーンズ・ヤング著から引用する。
”スターバックの成功は、全国的なブランドを確立するために広告宣伝費に何百万ドルもかける必要はないことを証明している。巨大な資金をかけなくても一度に一人の顧客、一度に一軒の店舗、一度に一つの市場と向き合っていれば必ず成功する。それどころか、これは顧客の信頼を勝ち取る最善の方法かもしれないのだ。何年もの間、忍耐と自制を重ねていけば、口コミで噂が広まり、地元で評判のブランドを全国的な大ブランドに育て上げていくことができる。しかも、それと同時に個々の顧客や地域との絆も深まるのだ。”

他のチェーン展開店とスターバックスの違いに、ブランドとは何かのヒントがあるように感じている。
それは、あくまで一人のお客様や一つの市場(街)と向き合うことで信頼関係(お客様との約束)を確立してきたことのだ。
ここまで、ブランドについて2回にわたり書いてきたが、まだまだ収まらない。
さらに、次号でもブランドについて考えてみたい。

『企業ファンサイト2.0-08』へつづく。

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