見出し画像

あの時の、私の支えだった曲#思い出の曲

編集部が、この「#思い出の曲」というお題を出しているのに気が付きました。別の話題で書こうと思っていたのですが、この季節のせいか、乗っかってみることにしました。たまには、良いですよね。


**********************************

2011年3月11日2時46分。

地震に気が付いて、l消してあったラジオをつけると、鳴り響いてきた緊急地震速報のあの嫌な音。

「な、なにぃ??!!」

私の叫び声が聴こえたかのように、それまで小さかった揺れが、一気に大きくなった。突き上げるような縦揺れの後の、長くて強い横揺れ。私が経験したことのない激しい地震だ。押し入れに入れてある布団が落ちる。干してあるインコたちの食器が落ちる。地震で、物が落ちるのも初めて経験した。

何より、この揺れでかごにいる愛鳥たちが、泣き叫ぶ。当たり前だ。彼らには、逃げ場がない。
だが、当時、それぞれのグループに、”ボス”がいた。彼らは、私たち飼い主よりも人望があり、ボスが騒がない限り、多くの子たちが、恐怖に耐えてくれる。ボスたちがいてくれて、私の力不足を十二分にカバーしてくれたのだ。恐ろしかっただろうに、叫びたかっただろうに、ボスたちは、揺れに耐えて、騒がなかった。それを観て、ほかの子たちの多くも、フリーズしてくれたのだった。おかげで、当時46羽いたインコたちで、けがをしたのは、3羽だった。奇跡に近い。けがも重症ではなかったし、誰もショック死しなかったのだから。

ただ、厄介だったのが、これまた経験したことのない、執拗な余震だった。これには参った。それまで、どういう時であっても、必ず深く眠れていた私が、すっかり不眠症になった。わずかな揺れを感じたら、もういけない。飛び起きて、インコたちに「フリーズして!」と声をかける。インコたちも、あの頃は、揺れにかなり敏感になっていたように覚えている。

そうした私が、あの頃、支えにしていたのが、ブラームスの作品。「弦楽六重奏曲第1番」の第2楽章、だった。これは、映画でもよく使われている曲で、人気も高い。私自身、大好きな作品でもある。

ただ、この作品が支えになったのは、私が意図したからではなかった。東日本大震災が発生した日の夜から、余震が起こる中、愛鳥たちの世話をしていたら、口ずさんでいたのだった。

理由は、今もわからない。何故、この曲になったのかすら、私自身にもわからない。あまりにも、日々ハードリピートするので、私も何度も、別の好きな曲を口ずさんでみたりもした。エルガーの「威風堂々」第一番とか、ピアソラの「リベルタンゴ」とか。或いは、バッハの「主よ人の望みの喜びよ」とか。けれど、気が付いたら、やはり、ブラームスに戻ってしまっている。

やがて、無駄な抵抗をあきらめた私は、自然に出てくるブラームスを口ずさみ、余震におびえる愛鳥たちに声をかけてなだめながら、日々を過ごすようになった。

この「弦楽六重奏曲第1番」の第2楽章は、始まりは、とても悲劇的なのだけれど、やがて穏やかで満ち足りた風景に変わる。再び悲劇的な様相が戻って来るけれど、それらはだんだんに収まってゆき、やがて、小さな希望の光を見出す。

私は、そういう風にイメージしている。旋律もロマンティックで官能的な要素もある。この第2楽章の前後の楽章は、生命力にあふれ、生き生きとしているので、余計個性が際立つ。信頼している音楽家の演奏でぜひ聴いてみたいと切望しているけれど、まだ実現していない。

あの時。ひたすら愛鳥たちとともに、このブラームスを口ずさんで、恐怖を耐え忍んだ数か月。意図せず選んだこの曲で、私は日々の平穏の回復を祈り続けていたのだろうと思う。東北だったり、ほかの被災地のことをも祈っていたなどと、きれいごとは言わない。そうした余裕は、その時の私にはなかった。
ただ、自分が大切な存在とともに、大きな恐怖を体験したという経験が、やがて、はるかに甚大な被災をされた方々に思いをはせる原点になったことは、間違いない。

震災から数年、しんどい時に(地震とは関係なく)、この曲を聴いたり口ずさんだりすることが続いた。大事な曲として、私の中で、特別視する傾向もあった。だが、今。そうしたことが、なくなっていることに気づいた。好きな作品であることに変わりはないが、以前ほどの思い入れがないのだ。

東日本大震災から11年たって、私の中で記憶が風化しているのだろうか? 
残念ながら、そういう側面もあるとは思う。仙台にも4年ほど行けていないし、今年は、最愛のオーケストラ・仙台フィルハーモニー管弦楽団も聴けないで終わりそうだ。少なからず、感覚の鈍麻みたいなものがあることは認めざるを得ない。

それでも。私は、来年からは仙台詣でを復活させたいと切望しているし、千葉響が最愛の存在になったわけでもない。改めて、自分に何ができるのか、真剣に考える時期が来ているのだと考えている。

私が新しい一歩踏み出した時、頭に流れてくるのは、あるいは、自然に口ずさむのは、誰の曲だろうか?

**********************************

「思い出の曲」と聴いて、このブラームスが一番に浮かんだので、書くことにしました。
あの時、私をサポートしてくれたボスたちのほとんどが、この数年で、天国に帰っています。もうあんな大災害はごめんこうむりたいのですが、もし不測の事態が発生した時、無事乗り切れるのかなぁ、と、これを書きつつ、心もとない思いもしたことです。そういう不安が、よろしくないことを引き寄せちゃうかもしれませんね。深呼吸して、落ち着きましょうか。

今夜も冷え込みそうです。皆様、くれぐれも暖かくして、良い夜を、ご自愛くださいね💕💛


この記事が参加している募集

#思い出の曲

11,339件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?