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暗殺者の眼差し④

ドスッ!ドスッ!

男の右足がわたしの脇腹、太もも、おしりに突き刺さるたびに鈍い音が響く。

そしてアスファルトの上を転がるわたしの身体には小さな砂利がからまっていく。


見あげた闇の中の男は、駐車場の小さな照明で照らされて般若のような形相に見えた。一心不乱にわたしに蹴りを入れ続けている。


痛い……。図星だからってムキになってまじでださいな、こいつ。


蹴られながら痛みを感じても、敵意だけは失わなかった。なんで一方的にやられなければならないのかと頭にきていたし、非力な女にしか強く出れないこの男の人間性にほとほとウンザリしていたからだ。

男が強気で出てくるのはいつもわたしの前だけ。車のチームのメンバーの前ではヘラヘラしていて、特に意見したり主張したりもできないことをわたしは知っていた。

つまりは自分より弱いと見下しているわたしにだけ暴力を奮ったり、思ったことを正面からぶつけられるんだ。

完全にナメられてることに腹が立つ。

だから、そんな器の小さい男の思考は全てお見通しなんだと、男に思い知らせてやりたかった。

黙ってやられるほど弱くもないし、わたしは男が思うほど馬鹿じゃない。お前より下でもない。 

馬鹿はお前だ。


一瞬のスキをついて身体を捻り、男の足もとを蹴り返した。

今だ。


男が一瞬よろけて怯んだ瞬間、わたしは通路にエンジンがかかったまま放置されていた自分の車に飛び乗り駐車場を脱出した。

男は何か叫んでいた。


蹴られていた下腹部がジンジンするけど、そんなことは大した問題ではない。今は男から逃げ出して身を守る事が第1優先。 

あのままエスカレートしていたら命に関わるかもしれない。


ハンドルを握りながらルームミラーで後方を確認すると、男の車が追いかけて来たのが見えた。

やっぱり来た。すごい執着心。  ここまでくると関心してしまう。


そのあとすぐに、タイミングよく男の車が赤信号で停車した。

ラッキーだ。今のうちに距離を稼がないと。


身体も痛いし、家に帰って休みたい。

男はもちろんわたしの家の所在地を知っている。今は男の視界から逃れられたけれど、このあときっとわたしの家まで来るはずだ。鉢合わせにならないように屋内に入らなければ。

運転しながら回らない頭でこの後のことを考えていた。

わたしの家は少し奥まったところにあり、とある交差点を越えてから1本で家までたどり着く。 

現在地からその交差点までの道のりは二方向からのルートがある。

普段使っているルートから男はうちに向かって来るだろうと予測して、わたしはもう一方向からのルートで交差点まで向かった。


わたしの方が先に交差点までたどり着けたようだ。

住宅街の中の交差点は静かだった。交差点のすぐ近くにちょうど車が一台隠せるだけの窪んだスペースがあったので、わたしはそこに車を停め、エンジンを切って様子を見ることにした。



つづく。





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