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恋するシンドロームと中国アレルギー(2)

日中合作映画『空海(中国題:妖猫傳)』の日本上映が日本語吹替版のみということから始まる話。

中華圏では旧正月にもなる現在、日本のシネコンには2本の中華電影が公開されています。ひとつはジョン・ウー監督が大阪ロケを敢行した香港・中国合作の『マンハント』、もうひとつは夢枕獏の『沙門空海、唐の国にて鬼と宴す』を原作に、チェン・カイコーが染谷将太と黄軒(ホアン・シュエン)主演で撮った日中合作『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』。
マンハントは近日blogに感想を書きますが、ここでは空海で起こったある問題を取り上げます。

『空海』の日本語吹替版のキャストが発表された今年の初め頃から「日本公開版は字幕版がないらしい」という情報がネットに上がってきました。(blog「マダム・チャンの日記」参照)
中華圏の映画が日本語吹替で上映されるのも、最近は珍しくなくなりました。ただ、地方のシネコンでは吹替版オンリーでも、主要都市では必ず字幕版が上映されていました。我が地元でもここしばらくのジャッキー・チェン主演の中国映画は吹替版で来ましたし、『ミラクル7号』『カンフーダンク!』『西遊記 はじまりのはじまり』(これは字幕版とのW上映で嬉しかった)もそうでした。だけど、全国拡大上映の中国映画で都市部でも字幕版がないなんて、今まで聞いたことがありません。

染谷くんは中国語の台詞も頑張って覚えたと言っていましたが、実は中国公開にあたっては、彼の声は中国の声優によって吹き替えられ、日本語訛りの中国語がごく自然に再現されていて、現地でも高評価だったそうです。
(日本人だけでなく、香港人で北京語も話せるアンディ・ラウやトニー・レオンも、中国大陸の映画に出演するとやはり現地の声優によって吹き替えられてしまいます。非北京語ネイティヴがそういう処置になるようですが、それも大多数ではないのですよね)そもそも中国大陸では、劇場上映作でも吹替になるそうですが、それは広大な大陸ならではの事情からでしょう。
しかし、日本では昔から劇場上映の洋画は基本的に字幕メインで公開されています。それはハリウッドだけじゃなく、フランスやイタリア映画でも同じですし、80年代からは中国や香港、そして台湾の映画も字幕で上映されたのです。個人的な話になりますが、中国語専攻で言語習得に苦労していた私も、中国や台湾の映画を観ることで字幕のお陰で言語的にも興味をもつことも出来ました。
空海はシニア層の観客が多いとのことですが、昔から中国映画はシニア層がよく観ていました。もちろん字幕でです。そういうことを知っているので、いくら「シニア層は字幕を読むのが大変だから吹替版にした」という言い訳がなされたとしても、きっと腑に落ちないでしょう。

そういえば、昨年日本で公開された韓国のトレインスリラー映画『釜山行き』は、『新感染 ファイナルエクスプレス』という邦題がつけられ、チラシには韓国の名が見当たらなかったことで、韓国及びアジア映画ファンの間では「韓国というと一般的にネガティヴイメージで見られてしまうから、韓国を全面に出さなかったのか」というような意見がありました。ここしばらく嫌韓という風潮があり、それは以前なら韓国映画にも影響を及ぼさなかったのに、時代の変化でそうなってしまったのかと考えると残念なことでした。実際、私もこの邦題は好きではなかったのですが、一般映画ファン的には昨年のベスト邦題と評価されているようなので、意見には個人差はあります。(あ、映画はとても面白かったです)
それと同じように、嫌中というか、中国アレルギーのような風潮もやはりどこかであり、制作自体はそうでなくても、中国というと敬遠されるのではないかというような、いわゆる「忖度」が日本側で働いてしまい、せっかくの日中合作、せっかくの中国の巨匠の作品であるのにもかかわらず、中国公開版とは音楽も音声も差し替えた版になってしまったのかもしれません。「日中合作だけど“邦画”に仕立てられた」というようなtweetを見かけましたが、中国色を薄めるためと考えたら日本人であってもいい気持ちはしません。

確かに私は中華映画好きですが、どうしても政治的な部分やその戦略、そして現在の香港や台湾との関係を見ると、中国という国に対する見方が厳しくなってしまいます。ほんとうに残念なことなのですが。
(もちろん、娯楽と政治は分離して見ようとしていますが、いくら自分がそう心がけていても、日本の一部のネットワーカーはそのようには見てくれませんし、それに文句をつけても倍にして言われます。それも影響していると思われます)
それでも中国からは面白い映画は出てきていますし、旧正月のヒット作にも日本人俳優や日本人スタッフが関わる作品もあるので、制作の面では問題はないだろうし、今後も本格的な日中合作が増えていくことも予想されて、それはそれで喜ばしいです。でも、いざ日本で上映されるときにはどうなってしまうのか。そんな余計な心配を今後させられてしまうくらい、今回の空海吹替問題では、日本のどこかにあり、自分の中にもある「中国アレルギー」を感じさせられてしまいました。

ただ純粋な映画ファンとして願うことはひとつ。
日本でこのような合作を行う場合、今回のケースを「成功」とは思わず、どうしたら誰にでも納得できる形で公開できるかということを日本側にはよく考えてほしいということです。ベストは吹替版と字幕版の二本立て。
これ以上あれこれいじって、昔からの中華映画好きを失望させると当然離れていきますし、せっかくの可能性が潰えてしまい、日本の映画界はますますガラパゴスするのではないかということも心配です。
変な心配したくないです。日本で、安心して日本語字幕て、中華映画が観たいのです。

とりとめもありませんが、この話題はこれまでとします。
次のnoteはもう少し早めにUPしたいです。

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