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我、日に我が身を三省す

今みたいにネットの環境も整っていなかったから、会社の昼休みはこれといって娯楽のない時代だった。激務が続く日々は、のんびりテレビを観たり昼寝をしている人がほとんどで、落ち着きなく身体を動かしているのは僕ら若い世代ばかりだった。
だいたいの連中は屋上でソフトボールに興じている。女子社員はそれを眺めながらおしゃべりをしている感じだ。僕の場合、基本的には自分のデスクで過ごすのだが、人の声も煩わしい時なんかは弁当を買って近所の公園で過ごしていたりした。今日は天気がよいので昼休みいっぱい本を読んで会社に戻るところだった。

会社まであと十数秒というところで、結構な勢いのソフトボールが屋上のフェンスを越えて落下してきた。僕の鼻先わずか1mほどの処へ。危うく直撃するところだったじゃないか。歩行者に当たったらどうするのだ。僕はバウンドしたボールをキャッチすると、逡巡しながらもそれをジャケットのポケットにしまい込んだ。
1~2分経過して、同僚のウエノくんが青い顔をして走ってきた。
「ボ、ボール見なかったか?」

僕を驚かせた仕置きをくらえこの愚か者。
「ド派手な音がしてどこかへ転がっていったぞ。ちなみに部長のマウンテンバイクのライトがぶっ壊れている。見ろ。」
青い顔が更に青くなった。

屋上でソフトボールをやっていてボールが落下したことを正直に話し謝罪するのか、ライトを壊したことを謝罪するのか、あるいはふたつとも隠し通すのかさあどうする。
意外にもウエノくんはその後直ちに部長の元へ事情を説明にいったらしい。すべてを包み隠さず。当然ながら色んな方角から叱られていたという。

部長の自転車のライトは、実は夫婦喧嘩の末に奥さんから園芸用のスコップで叩きのめされたのだと言うことを、僕は部長から聞かされていた。
そりゃ色んな方角から不機嫌だよな。

僕はポケットのボールをそっと屋上に戻してあげる優しい同僚だった。


#ゆるく生きよう #コント部 #エッセイ #僕なりの幸福論  #毎日note #会社の昼休み  #自分 

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