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余命一年のスタリオン / 石田衣良

物語で登場人物の死を扱うことは難しいですよね。
主要な登場人物に死が訪れる、または死を匂わせるだけでその作品に嫌悪感を抱く人は意外に多いように感じます。ああ、またそのパターンかと。
あの嫌悪感はなんなんでしょう…。


語弊を招く言い方ではありますが、僕の中でも許せる死と許せない死があります。
例えば漫画でいえばタッチは、死あってこその名作だと感じる。100日後に死ぬワニ、あれはまあ許せた。鬼滅の刃、ちょっと解せない。風夏、ありえない!!!!!というような感じで。


けっこう深掘りできそうなテーマだと思うので今後授業でも扱ってみようかなと思えてきました。「物語における登場人物の死」、関連しそうな研究があったらご教示いただきたいです!


さて、僕の中で「死を物語る小説」として強く印象に残っている作品が、石田衣良さんの『余命一年のスタリオン』です。題の時点で毛嫌いする人が多そうな気もします。しかもこの題なのにお涙頂戴系でもないので、マーケティング的には……なのかもしれません。笑


お話への想像を邪魔しない程度であらすじを書くと「性に奔放な2枚目半俳優が、がんで余命宣告を受けたら…」という感じのお話です。文庫で上下巻となっていますが非常に読み進めやすいと思います。


僕はそこそこの石田衣良ファンです。大学受験の時、たっぷり勉強しようと意気揚々図書館へ行ったのに、気づけば開館時間から閉館時間までずっと石田衣良作品を読み耽っていたこともありました。題材選び、転がし方、そして語り方。どれもまさに「好み」なんです。


本作では特にその語り方が凄くいいと思います。死や性といったテーマについて軽やかに語る。でもちゃんとエモーショナルでもある。この辺のバランス感覚がたいへん研ぎ澄まされています。


一方で男女の社会的役割という観点で言えばだいぶ恣意的な作品だなとも思います。なので描かれているものがまさに《善》だ!とか《美》だ!とかいうのではなくて、「たしかにそういう考え方もあるよな、カッコいい!素晴らしい!だけど…うーん…。」と悶々としながら読むのに適した小説かなとおもいます。繰り返しますが、お涙頂戴系ではないです。(このテーマで涙活してすっきりしたい方は本屋大賞2位の『ライオンのおやつ』とかの方がいいのではないでしょうか。)


レビューを見たら、大概の女性読者が「あかねのことは好きになれない」と言っていたのがおもしろかったです。ぜひ「あかね」という人物についての感想合戦をしたい。(僕は「遊び続けた男性が嫁に取りたい女性像とはまさにこれ!」を体現したキャラだと思っています。)


個人的には非常に映画化・ドラマ化向きな話だと思っているのですが、全く動きがないのでやらないのでしょうね。『美丘』よりよっぽどいいと思うのに…。もしそんな動きが出たらまた周囲に宣伝して回ることにします。


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