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032 ある休日のはなし

理由を説明したら長くなってしまうのだけど、私は木曜日が好きです。
幼いころから好きで、毎週木曜日はたいていごきげんでした。

たとえ仕事の日でも木曜日はなんだかうれしくて、たまたまお休みをいただいたりしたら、それはそれはうきうきになります。そんなある木曜日がお休みだった日のお話。

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朝起きたら、水を飲んで伸びをします。
透明にきらめく水を体にめぐらせたら、なんだかすっきり。いい日になりそうです。
いただきもののクッキーを食べて元気いっぱい。
着替えてかんたんにお化粧をして読みかけの本をもって外に出ました。

大きな公園か川の近くか迷って公園に行きました。
思っていたよりも気温が高く、風もあまりなくてすぐに汗をかいてしまいました。
でも、木や草はまだ生き生きとしているし、空があかるくて気持ちの良い日でした。

公園に黄色い帽子をかぶった子どもたちがいて、「スクランブルエッグ!」とさけんでいました。
スクランブルエッグ?
そういう遊びをしているのかと思いましたが(だってみんな頭が黄色いし)、結局のところ、よくわかりませんでした。ぎょっとしたのが、私もたまたま黄色いカーディガンを着ていたこと(まさかね)。

そのあと、近所の気になっていたカフェに行ってみました。
カウンターとテーブル席がふたつあるだけの小さなお店です。
店内ではレコードがかかっていました。お店の人は初老の男性ひとりでした。
窓が開いていて気持ちが良かったので、カウンターの窓際の席に座りました。

コーヒーの匂いは大好きなのに飲めないので、ダージリンティーと生チョコをお願いしました。
おじさんがことことと用意する音を聞きながら、読みかけの本を出しました。
村上春樹さんの初期の短編集です。
栞がはさんであるところを開いたら、「午後の最後の芝生」という作品でした。

この短編集自体は、その時はじめて読むのですが、「午後の最後の芝生」だけは他の本にも収録されていたので、読んだことのある作品でした。そのため、なんだかとてもなつかしくなりました。久しぶりに知り合いに会う気持ち。何年かぶりに帰ってきた感じ。そうそう、こんな風だった。作中に出てくる男の子も大学生だし、私がこのお話を読んだのも大学生のころでした。

大学生。
とても自由で、ゆらゆらとなんとなく不安で、でもとびきり楽しかった日々。
私は毎日図書館に行っていました。本を読んだり、古い映画を見たり、調べものをしたり。
そこで梶井基次郎や有島武郎や尾崎紅葉を読みました。
モームやチャーホフやカフカを読みました。
枕ことば辞典や王朝語辞典を使って何か調べたり、和漢三才図会をながめたりしていました。
西洋美術史や天文学にもふれました。
なにも定まっていない、不安定で自由な日々。

ことり、と音がしてお店のおじさんがダージリンティーと生チョコを出してくれました。
紅茶は香りも味もしっかりとしていてわずかな苦味がおいしく、チョコレートは甘くてやわらかくて風味豊かでした。

「午後の最後の芝生」を読んだあと、少し目を閉じてレコードを聴きました。
なんて曲だろう。村上さんならわかりそう。

お店から出たら、少しだけ涼しくなっていました。
良いお休みだったな、と思いました。
たいしたことはしていないけれど、ごきげんで良い日でした。
公園の土も緑のにおいがする空気も橋もレコードも甘いチョコレートも。
みんな味方になってくれている気がしました。


今回も最後まで読んだくださって、ありがとうございました。

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おまけ-写真小話

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こちらは、休日の朝に食べたクッキー。
職場の方の手作りだそうです。
ほろほろっとやわらかくて、しっかり甘い素朴なクッキーでした。

私はクッキーやチョコレートといった甘いものが好きで、クッキーをくださった職場の方曰く「甘いものを見たときにふにゃっと笑顔になるからつい与えたくなる」そうです。

与えるって…。
でも、やっぱりうれしいので、そのときもふにゃふにゃと笑ってしまうのでした。

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