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049 髪を束ねて

自分のすきなところはなんですか?
と訊かれる機会がありました。

なかなかむずかしい質問です。
まじめにこつこつと仕事(あるいは自分がやると決めたこと)をするところ、と言いたいけれど、なまけちゃう日もあります。そういう日はナマケモノも真っ青になるくらい、動きません。おそらく、万歩計を付けていたら、一日五十歩くらいしか歩いていないんじゃないかしら。この答えはボツ。

料理ができるところ、と言いたいけれど、最初忙殺されてちっとも作っていません。今作ると大失敗してしまう可能性もあります。この答えはボツ。

ピアノを弾くのは好きだけれど、決して上手なわけではないし、前向きな考え方をする方だと思うけれど、落ち込んでしまうととことん自己嫌悪に苛まれます。怒りっぽくはないけれど、その時はぼんやりとしていて後から「よく考えたら失礼な話だなぁ」と憤ることもあります。

うーん…自分の好きなところ…。
良いところとか得意なこととは別よね…。

しばらく考えていたら、(相手の方は辛抱強い方でした)ぴかっと思いつきました。
私は、父譲りのちょっと個性的な耳が気に入っています。

こんな感じ。

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ふっくらとした形の耳を持つ方が多い中で、私の耳は上部がぺこりと斜めになっている形なのです。これは生まれつきもった形のようで、父の耳とまったく同じ形です。

私は、このぺこり耳がお気に入りで、ショートカットのときもロングヘアーのときも、いつも髪を耳にかけて耳を出していました。

それをお伝えすると、相手は吹き出してしまいました。
「待ったかいがありました」
と言ってくつくつと笑っています。


笑われるとは思っていなかった私が、「変だったかな」としょんぼりとしてきたところへ
「いや、いいんですよ。だからいつも髪を束ねているんですね」
と言ってくださいました。
「たしかにかわいらしい耳ですね」
とも。
私はすっかり得意になりました。

見た目と能力ともに自信のない私でも、この耳は誇れるかも、と思えました。


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それほど意識したことはありませんでしたが、たしかに、私はよく耳を出しています。
今は鎖骨くらいの髪の長さで、ほぼ毎日ヘアアレンジをして仕事に行きます。
編み込みをして束ねたり、くるりんぱをしたり。
編み込みの仕方も気分によってロープ編みにしたり、三つ編みにしたり。
学生のころからやっているので、手が慣れていて大体どのアレンジも三分〜五分でできます。

春夏は髪全体をくくってすっきりと、秋冬はハーフアップにすることが多いように思います。耳を出すことで、顔まわりがすっきりとして見える気もします。


アレンジをしながら、幼いころ、父が機嫌の良いときにいつも耳を褒めてくれたことを思い出します。

「おんなじ形だな。いい形だ。よしよし」
そう言ってくれたあと、必ずこう言います。
「他のひとよりも耳が少ないんだから、よく聴くんだよ」


よく聴くこと。
耳の形が関係あるのかどうかはわかりませんが、実際私が持っている耳は少し聞こえにくい時があるようです。
図書館にいたころ、リクエストされた本の書名をよく聞き間違えていましたし(『星やどりの声』を『牛やもりの恋』と聞き間違えてしまったときは閉口しました)、今も相手のお名前を聞き間違えてしまいます。よく聞こえなくて、もう一度言ってもらうことも多々あります。

その度に申し訳ないなぁ、と思いますし、耳の性能の悪さに情けなくなることもあります。
しかし、随分前に上司からこういう言葉をいただいたことがあります。

「君は頭ごなしに決めつけないところがいいよね。相手に寄り添って、きちんと話を聞いている。だから信頼されるんだね」

聞こえにくい耳を持っているからこそ(おまけに考えるのも遅いから)、どんなことでも真剣に聴けるのかな、と思います。聞こえにくいことの良いところを上司の言葉のおかげで発見できました。

おそらく、父が言っていた「よく聴く」とは、こういうことでもあるんだろうな、と思います。

私は「聴く」という言葉が好きです。「聞く」ではなく「聴く」。これは、耳にプラスして目と心がくっついてできた字です。ひとがせっかく何かを伝えようとお話ししてくださっているのであれば、耳と目と心を向けて最後まで聴きます。少々不備のある耳でもきちんと傾ければ、相手の気持ちをキャッチすることができるはずです。


私は今日も髪を束ねて仕事に行きます。
ぽんこつだけれど、ちょっと自信のある耳を出して。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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おまけ
仕事の日は基本的にストレートですが、ふわふわに巻いても素敵です。

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