109 春のおやつでやさしい気持ちに
透明な雨が止んだら、すっかり春らしくなってきました。
気がついたら3月。またひとつ、節目の月がやってきました。
年度末ということでばたばたとすることも多いのですが、人と話すときはひと呼吸おいてやさしい言葉選びをしたいものです。
小学生のころ、校長先生がお話しされたことで印象的だったことがあります。
「口から毒を吐くか、花を出すか」
これは、人に対してどんな言葉をかけるか、ということだったと思います。
毒を吐けば、相手は苦しみます。花を出せば、相手は笑顔になります。
言葉は自分で選べるものなので、何を出すか考えてから話しましょうね。
そんな内容だったと思います。
私はときおり、このお話について考えます。
例えば、相手の気持ちを汲み取ってやさしい言葉をかけることができたとき。
または、だれかにほっとするような言葉をかけてもらったとき。
そんなときはふっと心が軽くなります。
相手の気持ちが明るくなったと思ったら、言葉をかけた方もうれしくなります。
また、うっかり相手を傷つけてしまったとき。
謝っても、一度出た言葉をおさめることはなかなかできません。
こういう時は、毒が相手を蝕みつづけることもあります。
そして、そんな言葉を出してしまった方にも口の中に毒が残っているかのような苦々しい気持ちが残ります。時に言われた方よりも苦しみ続けることもあります。
話し言葉は目に見えないものですが、その分心に響くものでもあると思います。
------------------------------
先月、小学生のころの校長先生にお会いする機会がありました。
私が小学校を卒業してずいぶんと経ちますが、先生はお変わりなく背筋もしゃんと伸びていました。子どもたちをあたたかく見守りながらも、叱るべきときにはきちんと叱ってくださる素晴らしい先生でした。
久しぶりの再会でうれしくなって、ついたくさんお話しました。
その際に「口から毒を吐くか、花を出すか」のお話も話題にあがりました。
すると、先生はこんなことをおっしゃいました。
そうそう、あの朝礼でお話したことね。あのときのふむさんをとってもよく覚えているわ。その日の休憩時間に、あなたは花壇に水をあげている私のところへ来て、こう言ったわ。
「先生、お口からお花をいつも出すためには、お花を食べた方がいいのかしら」
って。私はもうびっくりしてね。あなたはとても真剣な顔で、私が大切に育てているパンジーを今にも食べそうだったのよ。ふふふ。
でも、そのときあなたは周りの人を苦しめるようなことを言いたくないと強く思っていたのよね。だから、人を傷つけない方法を聞きにきたのね。私は「人を傷つけるようなことは言わないようにしましょう」ということしか話さなくて、具体的にどうしたらいいのか言わなかったものね。それを思うとなんだかじーんとしちゃったの。
先生はひらひらと笑いながら言います。
小学校二年生くらいの私がそんなおばかさんなことを言っていたとは…、と恥ずかしくなりながらも、笑ってしまいました。そして、かなり昔のことであるにもかかわらず、そしてたくさんいる子どもたちの一人である私の言葉(私自身も忘れてしまっている言葉)を今も覚えていてくださる先生のあたたかさに、私もじーんとしました。
先生はひと呼吸置いて
「あなたが今日会いに来てくれると聞いて、そのことを思い出したの。それでね、食べられるお花を用意したのよ」
とおっしゃいました。
いたずらっぽく笑って取り出した箱の中には、きれいなピンク色の桜もちが並んでいます。
「おいしいものを食べたら、しあわせになるでしょう?そうしたら、きっと言葉もやさしいものを選べるわ。あなたが花を食べようとしたのは、あながち間違っていなかったかもしれないわね」
先生はそうおっしゃって煎茶をいれてくださいました。
窓から見える青空は、青を残してわずかにかすむ美しい春の空でした。
------------------------------
やさしい言葉を使うのはそんなにむずかしいことではないのかもしれません。
相手のことを思い、相手との会話を思い、相手との時間を慈しむ。
そしてときどき、おいしいものを食べて。
そうすれば、忙しい毎日でも春のようにあたたかな気持ちでいられるような気がします。
今月もがんばりましょ。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
-----------------------------
今日のイラスト
久しぶりの食いしんぼうイラストです。
------------------------------
Twitterもしています。
ゆるゆるとプチふむふむともくもくをつぶやいています。
写真やnoteで紹介したイラスト、ときどきおはようイラストも載せています。
ぜひ遊びに来てくださいね。
アカウント名:@fumu_moku
URL:https://twitter.com/fumu_moku
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?