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(前編)初受注まで2年。事業転換を経て製造DXのど真ん中に挑むSmart Craftのこれから

初めまして。株式会社Smart Craftで代表をしている浮部(ウキベ)と申します。製造現場のDXをワンストップで実現するSaaSプロダクトを開発しています。
昨日、Smart Craftは1.1億円の資金調達、およびプロダクトリニューアルのリリースを発表しました。

初受注を上げることができたのは、つい最近のこと。2021年の創業から、気づけば丸2年。

「2度のファイナンス」「大きな事業転換」など、様々な出来事・困難がありましたが、ようやくPMFに向け、本格的に事業推進を行なっていくフェーズに向かうことができました。

プロダクトに手応えを感じ始めている今、これまでの道のりを赤裸々に振り返っていきたいと思います。私のnoteを通じて少しでもSmart Craftの事業やカルチャーに興味を持っていただければ幸いです。

もし少しでもSmart Craftで働くことに興味を持っていただけた方はお気軽にご連絡ください!
一緒にモノづくりの未来を変えていきましょう。

「Smart Craft」とは

我々Smart Craftは2021年6月に創業した会社で、製造業、その中でもモノづくりがまさに行われている工場=製造現場にフォーカスしたバーティカルSaaS「Smart Craft」を開発しています。

サービスページURL:https://smartcraft.jp

創業から約1年ほどは、主に町工場などの小規模な製造業向けにペーパレス化や製造データの可視化をするプロダクトを提供しておりましたが、「このままでは使えない」という顧客からのフィードバックをきっかけに、SMB向けのプロダクトをクローズ&Mid~エンタープライズ向けのプロダクトへのリニューアルを決意。製造現場で働く人から「製造現場のDXはこれひとつで十分」と言われるようなオールインワンSaaSの世界観を目指し、取り組んでいます。

最初のコンセプトは「日報のペーパレス化」と「データの見える化」を支援するSaaSプロダクト

「このままでは使えない」というフィードバックを受ける前に話はさかのぼります。

2021年創業時のSmart Craftのコンセプトは、中小製造業向けに「日報のペーパレス化」と「データの見える化」を支援するSaaSプロダクトでした。

なぜそのようなコンセプトだったのか。1つはキーエンス時代の経験や創業前の顧客ヒアリングを経て、製造現場には紙やエクセルといったアナログな業務が残っており、そういった業務のデジタル化ニーズに気づいていたから。もう1つは製造業というマーケット全体を見ても、中小企業の割合は9割以上と顧客ボリュームも大きかったから。

そこで「まずは顕在化している課題解決から取り組み、SMB向けでトラクションを作ってから、エンタープライズに参入しよう」と考えたんです。

それからプロダクトの開発に取りかかり、初期プロダクトのローンチ&資金調達のプレスリリースを出したのが2022年1月のこと。当時は「1年でシリーズAまで持っていこう」と意気込んでいたのが懐かしいです。

「思った以上に本導入が進まない」

無事β版をリリースし、展示会などでつながった企業への提案、顧客へのトライアル導入を順調に進めていました。

しかし、しばらくすると気づいたのです。

(あれ、思った以上に本導入が進まない…?)

なぜ本導入が進まなかったのか。

その原因は、大きく3つありました。

① 推進者の不在

1つ目は、「推進者の不在」です。当時の顧客の多くは従業員数にして100名弱、もっというと10〜30名規模の工場でした。システムの導入推進者の多くは経営層。初回商談で経営層へ提案し、プロダクトに興味を持っていただき「いざトライアル導入」となると、現場を巻き込む必要があります。

しかし、現場で導入をリードしてくれる推進者はなかなか生まれません。日々忙しい経営層からすると、「実際の導入は現場に任せたい」。一方で、日々のモノづくりに追われている現場の方々からすると、「導入を進めている余裕はない」、というのが本音です。

これが、トライアルが思うように進まない原因の一つでした。

② 現場のインフラの未整備

2つ目は、「現場のインフラの未整備」です。製造業では近年「DX」が大きなトレンドですが、実際の製造現場を見ると、ソフトウェアを利用するためのモバイル端末(タブレットやスマートフォン等)やネットワーク環境(Wi-Fi等)がないといったことが往々にしてあります。つまり、SaaSなどのシステムを導入するインフラ環境が整っていないのです。これが大きな導入課題でした。

特に中小企業ではこの傾向は顕著で、むしろモバイル端末やネットワーク環境が整っている企業の方が珍しいです。仮にSmart CraftのようなSaaSを導入したいとなっても、その前段階でタブレットやWi-Fi環境の構築に伴うイニシャルコストがかかってしまい、結果、トータルの費用を考えると導入を諦めざるを得ない、といったことが多くありました。バーティカルSaaSを中小企業向けに提供しているスタートアップでは、この辺りが導入障壁になることはよくあるのではないでしょうか。

③ プロダクトの競争優位性の欠如

そして3つ目は、「プロダクトの競争優位性の欠如」です。当時のSmart Craftは「製造現場の帳票のペーパレス化・見える化を簡単に実現」という非常にシンプルなコンセプトだったため、アナログな業務がまだまだ多い製造現場にとってはニーズを捉えたものでした。

東京ビッグサイトで行われた展示会

しかし、展示会などに出る中で新たな課題を突きつけられます。「Smart Craftならではの強みは何か」という問いに、クリアに答えられなくなっていたのです。

起業当初は、製造現場のペーパレス化や見える化を「SaaS」というビジネスモデルで実現することで、既存サービスとの差別化を図ろうとしていましたが、2022年段階では同様のクラウドサービスは想像以上に多く存在していました。そのため、競合サービスと比較された際に差別化ができず失注するケースもありました。

この時、スタートアップにおける明確な競争優位性=バリュープロポジションの必要性を身に染みるほど感じました。

顧客から想定外のフィードバック

当時のプロダクトのメイン顧客は中小企業でしたが、展示会などを通じて中堅企業や上場企業からお引き合いもいただいていました。しかし本導入がなかなか進まないことを受けてプロダクトの転換を考え始めていたタイミングにつき、せっかく「買いたい」と言ってくださっても断らざるを得ないため、顧客のさらなる拡大をストップしていました。

そしてある日、トライアル導入を進めていた顧客のうちの1社といつも通り商談を進める中で、こんなことを言われました。

「これはあまり製造現場の業務にフィットしていない。このままではウチは使えない」

導入ハードルはあるものの、ニーズを捉えていると考えていた我々にとって、まさかのフィードバックでした。

浮き彫りになった「プロダクト課題」

結論から言うと、当時のSmart Craftは「ペーパレス化する」と言いながら、製造した”後”のデータの記録をデジタル化するのみで、生産の”前”や”中”の管理などは一切考慮に入れられていなかったのです。

「製造現場の業務は製造実績を帳票に記録する前に、生産計画を立て、生産中には工程管理や稼働管理を行なっている。製造データというのは、製造前〜製造中〜製造後まで繋がっていないと意味がない

とフィードバックを受け、ようやくプロダクトの課題に気がつきました

中堅〜大手の製造業では”生産管理システム”や”ERP”といった基幹システムが本社管理レイヤーに存在し、そのシステムによって、現場への指示出しと実績の吸い上げを行なっているのが一般的です(上記スライドの計画層を参考)。中堅〜大企業に導入するためには、そういった上位の基幹システムの存在を考慮に入れ、正しく業務フローにフィットさせる必要があります。

エンタープライズを狙うためには、根本からプロダクトを見直す必要があると悟りました。

事業転換を決意し、プロダクトをゼロから作り直すことに

「これから自分たちはどのような山を登るべきか」をゼロベースで考え直さざるを得なくなり、この時は相当悩みました。昨年(2022年)のGW頃でした。

我々の持っていたオプションは以下の3つでした。
1)SMB向けにプロダクトを提供・販売にフォーカス(シリーズA以降でエンプラ向けに別プロダクトを開発)
2)SMB向けにプロダクトを提供しながら、Mid~エンタープライズ向けのプロダクトも同時開発
3)SMB向けのプロダクトをクローズし、Mid~エンタープライズ向けのプロダクトにリニューアルを実施

当初考えていた選択肢は、1)や2)の選択肢でした。β版から提供後数ヶ月が経っており、トライアル企業の内複数社から「Smart Craftを正式に購入したい」といった声も出てきていたからです。

しかし、最終的に選んだのは、3)SMB向けのプロダクトをクローズし、Mid~エンタープライズ向けのプロダクトにリニューアルを実施、の選択肢でした。

なぜ事業転換?

なぜそのような意思決定を行なったのか。

「ARR100億円を目指したい」

1つはこれでした。SaaS事業にチャレンジするなら絶対に到達したいという思いがありました。ARR100億円もあくまで通過点の1つに過ぎませんが、それでもARR100億円の事業は産業へのインパクトも大きく、素晴らしい成果だと思っています。
仮にSMB向けのプロダクトでACV100万円だとすると、ARR100億円達成には1万社以上必要という計算になるため、SLG(Sales Led Growth)のモデルでは時間がかかり過ぎます。
従って、バーティカルSaaSで100億円を目指すためには、どこかのタイミングでエンタープライズにプロダクトを提供していく必要があります(もちろんSMBで100億円を目指せる例も一部あります)。高単価で付加価値のあるプロダクトを作り、ARR100億円まで急成長していきたいと考えました。

「明確な競争優位性=バリュープロポジションを見出だせた」

これが2つ目の理由です。PMFの達成、及びPMF後の急成長を実現するには明確なバリュープロジションが必要です。これが当時のプロダクトではクリアに言い切れませんでした。
しかし、事業転換にあたり改めてマーケットの構造を正しく理解し、Smart Craftのポジショニングを考えた時に、明快に言語化することができました(単に顧客セグメントをピボットしただけでなく、それに伴うペインポイントや提供する機能/価値、及び競合/代替品も改めて再定義し直しました)。
これを明快に言語化できた時、「これだ!」と胸が高鳴ったのを覚えています。

「業界のスタンダード / 後世に残るような偉大な事業を作りたい」

最後はやはりなんといってもこれです。
スタートアップというのは自分ひとりではなく、仲間やその他ステークホルダーを巻き込んで事業を作っていくもの。多くの人の人生の貴重な時間を投下して一つの事業に向き合うのだから、なんとしても世の中に大きなインパクトを残したい、関わってくれた人には最高の景色を見せたい。そう思っています。
そしてSmart Craftはモノづくり産業というグローバルでも最大級のマーケットで、そのど真ん中である製造現場のDXに正面から挑んでいます
「自分たちのプロダクトが業界の未来を変革しうるか?」「大きなインパクトを残せる偉大な事業になるのか?」を自問自答し、事業転換によってその可能性はグッと高まると確信しました。


……と少し長くなりましたが、以上が私が意思決定した際に考えたことです。

プロダクトチームのメンバーとSmart Craftの未来について議論をする中で出てきた「SMBとエンプラでは求められる機能要望が大きく異なり、両者のニーズを満たすことが難しい。やるならどちらかにフォーカスすべき」という声も踏まえ、総合的に勘案し、最後はリスク覚悟で事業転換の意思決定をしました。

この決断は創業以来最も大きな意思決定でしたが、今となってはこの意思決定をして本当に良かったと思っています。

覚悟、方向性は決まりました。

しかし、この時既に残キャッシュは半年程度。

ここからプロダクトのリニューアルに向けて動きました。

続きは後編で・・・

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