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人生や家族の「こうあるべき」を爽かに否定してくれる、ノア・バームバック映画が好き

「フランシス・ハ」という作品でノア・バームバック監督にはまって以来、「好きな監督リスト」に1列が増えた。

少し余談だが、映画を監督や、脚本家などの軸で探すようになったのは、学生の時に通った渋谷TSUTAYAの配列のおかげだ。キューブリックやコッポラ、黒澤・・などの巨匠はもちろん、ジャームッシュ、デビットリンチ、ヴェンダース・・などのインデペンデント系監督まで隅から隅まで素晴らしい作品がここにはあった。

バームバック監督の代表的な作品といえば、「フランシス・ハ」、「ヤング・アダルト・ニューヨーク」「イカとクジラ」「マイヤーウィッツ家の人々」などだ。
最新だとNeflixオリジナルで配信されている「マリッジストーリー」はアカデミー賞にノミネートされて話題になっていたし、実際にとても面白かった。

どの作品にも共通して、特別な何かが起こる作品というより日常や人生で必ずだれもが経験するようなドラマをテーマに描いている。

「家族」や「世代間」の描写が多いものの、よくある感動ストーリーになることは決してなく、「世知辛さ」を皮肉っぽく、かつ現実路線で描くのが得意な監督のようだ。

バームバックといえば、会話でみせる作品ということでも有名だ。
新作「マリッジストーリー」では主演のアダム・ドライバーと、スカーレットヨハンソンの演技が本当に素晴らしかった。

監督のニューヨークへの愛をいちいち感じるところや、会話劇である点は「ウディ・アレン」を思い出すし、家族の描写が多いところは「ウェス・アンダーソン」を彷彿とさせる。(実際にイカとクジラにはウェスが製作で携わっていたよう)

もちろん、ストーリーだけでなく、全編通して感じる、センスの良さや、どこか洗練された雰囲気も好きな理由だ。音楽のセレクト(デビットボウイを多用している感じ)も大好き。

さまざまな立場での視点や相違、感情の重なりが非常に繊細に描かれているから、誰もが自分に重ねてしまう瞬間がある。

「大人」と「子供」もしくは、「若者」と「若者ではない者」「夫」と「妻」、など様々な立場の人生をのぞき見ることができる。

そしてどの人生に対しても正解や不正解がない。それこそが彼の作品の最も、好きなところだ。

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」では、
40代のかつて若者だった夫婦が、もう若者ではないと突きつけられる瞬間」の痛々しさを垣間見てしまう。
30代半ばになり、若者ではなくなってきた私には、かなりぐさぐさ刺さる作品だったがコミカルさも含めて皮肉的で、ブラックユーモアも満載。バームバックらしくちょっと刺々しい作品だ。主演の、40代のベン・スティラーと20代のアダム・ドライバーの関係性や会話がとても面白い。

一方、ニューヨークでダンサーになる夢を諦めきれずに自堕落に暮らす28歳フランシスの話、「フランシス・ハ」。彼女は無鉄砲で、自信家であるわりに優柔不断。そのくせ、頑固であきらめが悪いといったような若いがゆえの痛々しい面や、20代後半ぐらいに感じる「けだるさ」が全編を通して漂ってくる。
この作品では、夢を諦めきれないフランシスが紆余曲折の末、良い意味で大人になり自身の居場所や生きていく術を見出していく。

「マリッジ・ストーリー」に至っては、ある夫婦が、様々な理由から離婚するまでの過程をただただ描いた作品だ。夫婦あるいは親子間の愛情と、自分自身のキャリアや人生、この両方との向き合い方について深く考えさせられる。

バームバックは、「努力の末の成功」や「家族であれば愛し合うべき」
などといった人生における綺麗事のような文脈は、ほとんどない。

だからこそ、様々な挫折や失敗に対して寛容的であるし、親子や夫婦など人の関係性に「正解がない」ことを受容してくれているような気がするのだ。

私自身、30代中盤となり、今がきっと「自分の生き方を自分で受容し、また他者との距離を見直していく」時期なのだと感じているから、より共感するポイントが多いのかもしれない。

彼の作品からはなぜだかそうしたテーマを一貫して感じている。

ああ、こうして書いていたらまた映画を観たくなってきた。

どの作品も、不思議と何度か観たくなるし
観るたびに、新しい感情が湧き上がってくる。

毎回、(まるで私のように)大人になりきれない大人たちが、「あなたの人生も間違いではないよ」と教えてくれる気がしているのだ。

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