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セクシャル・マイノリティの声を聞く

 2024年6月16日(日)、ジュンク堂池袋本店で『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシャルのこと』と『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』の出版記念トークイベントに参加した。充実の1時間半だった。書籍だけでは感じ取りにくい、リアルな声やニュアンスに触れることができたと思う。印象に残った点と、そこから考えたことを以下にまとめておく。

※本稿はイベント内容を網羅したものではない。本稿内容に不適切な部分があるとしたら、その責は筆者のみに帰する。

マイノリティとしての連帯の必要性

 Aro/Ace(アロマンティック/アセクシャル・スペクトラム)とトランスジェンダーはもちろん差異もあるけれど、共通点もある。例えば以下のようなもの。

・セクシャリティに関する、時に失礼な質問を何万回もされてきた
 セクシャリティに関する質問に1回答えるだけでも少なくないエネルギーを使うのに、それが延々と続くので疲れ切ってしまう。かといって答えないことも攻撃材料にされてしまう。結果、マイノリティというだけで毎日が「戦い」の連続になってしまう。

・開示したセクシャリティを「誤認じゃないのか」と疑われる
 Aro/Aceもトランスジェンダーも、そのセクシャリティを開示することで相手から「気のせいじゃないのか」「思春期の一時的な迷いじゃないのか」「まだ良い人に出会っていないだけじゃないのか」といった類のことを言われ、開示を無効化されてしまう(その背後にはシスヘテロであることが「正常」だという思い込みがある)。

・セクシャリティについて「ちゃんと」説明しなければならない
 セクシャリティについて開示すると、多くの場合説明を求められる。そして「ちゃんと」説明して、なぜか相手を「納得」させなければならなくなる。しかし皆が皆、自分のセクシャリティを分析的に分かりやすく説明できるわけではないし、そもそもそんな義務はない。立場を入れ替えてみればこの不均衡が分かる。例えば男性として自他ともに疑問なく生きてきた人が「男性であることを証明しろ」と言われることは基本的にない。そのようにシスヘテロの人は自分のセクシャリティを「ちゃんと」説明しなくて済むし、自分のセクシャリティを「誤認じゃないのか」と疑われたりしない。

 しかしマイノリティは日常的に説明を求められたり、疑われたり、「証拠」を求められたりする。シスヘテロの人なら例えば「どうやって自慰するのか」とか「どうやってセックスするのか」とかいった不躾な質問は一般的にされないけれど、マイノリティは「そういう質問をしてもいい存在」と思われやすい。

 それぞれ差異があるマイノリティでも、そうやって理不尽に扱われる点で共通する。その共通点を中心に連帯することで、抗議の声を大きくして行けるかもしれないし、状況を変えていけるかもしれない。いや、変えていかなければならない。

視点のズレ

 Aro/Aceやトランスジェンダーの人々が日常的に直面している困り事、取り組んでいる問題、それらに付随して一般に知らしめたい事柄と、マジョリティが「知りたがる」事柄とのギャップがある。

 例えばトランスジェンダーの人々は専門医療や保険制度、戸籍関連の法制度や就業等で切実に悩むことが多く、故にコミュニティでもそういった情報のやり取りが活発に為される。一方でマジョリティが話題にするのは(し続けるのは)、専ら公衆トイレや公衆浴場の問題だ。それも「ペニスのある男が女性を自認して女性スペースに侵入する」といった、トランスジェンダーの実態と大きく駆け離れたお決まりの話題ばかり。それだけトランスジェンダーの生が無視され、いわゆる「センセーショナルな」存在に貶められているということ。そしてその背景には、昨今勢いを増すトランスヘイトの影響が大きい。

「寛容さをまとった言葉」で攻撃される

 一見寛容で優しげな言葉や態度が、実際はマイノリティを追い詰めて攻撃していることがある。例えば以下のようなもの。

・「みんな違ってみんないい」
 多様性を認めているようだが、マイノリティが置かれている不利な状況を無視している。「みんないい」には「みんな現状のままでいい」という意味があり、現状のマイノリティに対する差別や不十分な法整備、偏見に基づく就業の制限など、ありとあらゆる不都合を「そのままでいい」としてしまう。

・「素朴な疑問ですが」
 マイノリティに向けられる「素朴な疑問」は、その文字列自体は素朴でも、その発想が素朴でなく、むしろ差別的な前提に立っていることがある。例えばAro/Aceの人に「恋愛にも性愛にも興味がないなら結婚はどうするの?」と聞くのは「人はみんな(異性と)恋愛して結婚するもの」という前提に立っており、かつAro/Aceであることを「不幸」とか「異常」とか考えているからだ。

 他にも、マイノリティの存在を初めから想定していない表現や言い回しに、日常の色々なところで遭遇する。例えばうつ病のチェック項目に「異性への関心の減退」がいまだ使われることがあり、そのまま使用するとAro/Aceの人がうつ病と診断されやすくなってしまう。

付記

 「Aro/Aceなのに恋愛感情についてしょっちゅう聞かれる。分からないのに!」という発言には会場からも笑いが漏れた。けれどそこにも深刻な事実誤認や、興味本位な視線があると思う。
 「トランスジェンダーは何故そんなに性別にこだわるの?」というマジョリティからの問いも多いようだが、「いやいや、性別にこだわっているのはあなたたちでしょう?」の一言に尽きる。

 他にも学ぶべきこと、知るべきことが山ほどあり、ここには書ききれない。当該イベントの動画は同年6月24日まで視聴可能なので、興味のある方には視聴をお勧めしたい。


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