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一瞬の夏

あっというまに都会は肌寒くなった。

ビル風がマスク越しに頰をなでつける。自然に背筋が縮こまる。

ちょっと前まで、毎日、30度を超える暑さと重い湿気に耐えていたのに。じっとしているだけで額に浮かぶ汗を拭いながら。

あのまばゆい夏の日差しが、いまとなっては懐かしい。

真夏のど真ん中にいた時は、暑くて暑くて嫌で嫌で仕方なかったのに。いつになったら夏は終わってくれるんだろうって、ずっと願っていたのに。

あの夏が恋しい。あの太陽の自己主張が。

人って、ないものねだりだ。

長く、長ーく感じた季節が、過ぎ去ってしまえば、ほんの一瞬の輝きに思えてくる。

そう、過ぎ去ってしまえば、全ては一瞬なんだ。

全ては儚く、尊い一瞬なんだ。

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