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【楽曲感想】BE:FIRST『Bye-Good-Bye』

今回は、以前記事の中で取り上げたボーイバンド、BE:FIRSTの楽曲の中で(どの曲もお気に入りですが)1曲特に好きな楽曲があるので、その楽曲について「(筆者自身が)何故その曲が好きなのか」について書いてみようと思います。

フェスやライブの感想も参加した方の数だけあるように、今回の記事の内容もその一つ(※楽曲の捉え方は聴いた人の数だけある)なので、「そんな風に聴く人もいるんだな」程度に参考にしていただければ幸いです。


①コード進行の基本は「Just the Two of Us進行」の一部であること

「Just the Two of Us進行」とは

『Just the Two of Us』は、グローヴァー・ワシントン・ジュニアがソウル界のレジェンド歌手ビル・ウィザースをゲストボーカルに迎え発表した楽曲である。

ただし、筆者が初めてこの楽曲に触れたのは原曲の方ではなく、当時大ファンだった久保田利伸のカバーの方だった。久保田氏がレゲエ系に傾倒していた時期のカバー楽曲で、裏打ちで刻むキーボードの和音のリズムはレゲエそのものである。ベースラインが刻むリズムもブラックミュージック由来である。

当時、久保田利伸カバー版を初めて聴いた時、申し訳ないのだが久保田氏とキャロン・ウィーラーの歌声以上に(※もちろん2人の歌声も素晴らしいのだが)裏で響く冷涼なシンセパッドの音と楽曲の持つ哀愁感の方の虜になってしまった。それから、久保田版『Just the Two of Us』を何度も、数百回繰り返し聴いていた。そのうち聴くだけでは物足りなくなり、音楽の才能に長けた友人に協力してもらい耳コピ後シンセサイザーに打ち込みをし、さらに歌の上手い友人にも協力してもらい、カラオケ音源で何度もデュエットした(筆者はキャロン・ウィーラー担当)。間違いなく筆者の青春の1ページだった。

そんなことがあり、自身の音楽人生において『Just the Two of Us』があまりにも特別すぎて、「Just the Two of Us進行」を一部でも持つ楽曲に耳とカラダが反応する人になってしまった。『Just the Two of Us』という楽曲は、自身のその後の音楽的嗜好を決定づけてしまった、ある種罪深い楽曲なのである。

「Just the Two of Us進行」とは以下の構造のコード進行である。

ⅣM7→Ⅲ7→Ⅵm7→Vm7→I7

最初の3つのコード進行は、いわゆる「436進行」と言われるもので、このキーワードで検索すればわんさか代表曲が出てくる。

筆者を虜にしたこのコード進行が「Just the Two of Us進行」と呼ばれ分析されているのも少し前に知ったのだが、さらにはここから派生した可能性があるとの理由でこのコード進行は今や「丸サ進行(※椎名林檎『丸ノ内サディスティック』由来)」としても知られているらしい。

ただし筆者にとって、コード進行や一つひとつのコードの響きは、あくまでも絵画やファッションなどにとっての「色味」に過ぎない。「Just the Two of Us進行」は、筆者がぱっと見て(聴いて)「好きな色」なのである。「好きな色」だから、聴いた瞬間「あーーー好き!このコード進行(響き・色味)やっぱたまんねえなー!」となる、ただそれだけである。上記引用記事にも記載があるように、「Just the Two of Us進行」だから誰にとっても名曲だということもないし、「Just the Two of Us進行」を使えば名曲が作れるわけでもない。絵画やファッションも、ただただ色彩感だけでなく、タッチやデザインなどといった他の要素とベースの色彩感が織りなすものが魅力なのである。それと同じように、現代ポップスにおいても、コード進行という色味をベースに、歌詞・メロディ・歌唱・アレンジ・音響効果・宣伝・ジャケットデザイン・衣装・MVなど、視覚聴覚などから得られる情報全てを各個人が自由に感じることによって評価できるものと思っている。

『Bye-Good-Bye』の楽曲構成

ではBE:FIRSTの『Bye-Good-Bye』はどのような楽曲構成になっているのか。

J-POP的な構成に当てはめれば、

<1番>
①Aメロ→A’メロ(メロディに変化を持たせたパート)
②Bメロ
③サビ
④間奏(ラップパート)
<2番>
①Aメロ
②Bメロ
③サビ

となる。「Just the Two of Us進行」の一部である「436進行」はこの①Aメロと③サビに用いられている。あとは、メロディやアレンジ上で響かせる和音にテンションなどを乗せて変化させ、聴く人を飽きさせない構成となっている。

『Bye-Good-Bye』のトラックメーカーはChaki Zulu氏。筆者的にはAwich楽曲等でおなじみの方だ。

なお余談であるが、ヒップホップシーンなどで活躍するトラックメーカーは、コード感を理解した上で制作する方と、経験により自身の音楽的感性を磨き、その方法論で楽曲制作する方に分かれる印象があるが、前者の代表がChaki Zulu氏、後者はTRILL DYNASTY氏とも言えるかもしれない。

BE:FIRSTのプロデューサーであるSKY-HI氏がどれだけコード進行を意識して『Bye-Good-Bye』の制作を進めたか、それは分からないが、SKY-HI氏関連の楽曲にも「Just the Two of Us進行」を彷彿させる楽曲がいくつかあり、当然のように筆者のお気に入りである。

②フレーズが生む波と、フレーズに馴染む歌詞

フレーズの反復が生み出す、不思議な「波」

『Bye-Good-Bye』の楽曲の持つ魅力の一つに「Aメロにおける、あるフレーズをいち単位としたときの、そのペーストが生み出す効果」というものがあると個人的には感じている。

この「あるフレーズのいち単位」というのが以下のリズム・フレーズである。

このリズムをペーストして横に繋げていくと、サインカーブのように、規則性を持った「波」のようなフレーズになる。

このフレーズに、リリックをある程度意味の通る文節に区切ってメロディに乗せると以下のようになる。

ペーストの便宜上休符は残っているが、実際歌い手は休符をほぼ取らず続けて歌唱している。

規則性を持った「波」のフレーズ上に長さの違う文節を重ねているのがご理解いただけるだろうか。

規則性のある「波」のようなフレーズに、不規則な長さの文節の「歌詞」を重ねることで、「波」に「波」を重ねた時のような、不思議なうねりを生み出しているような気がしてならない。

また、あるリズムをひと単位に反復を繰り返すことにより、聞き手にテーマを強く印象づけたり恍惚感を感じさせるといった手法は古くはクラシック音楽でも用いられている。ベートーヴェンの交響曲第五番『運命』の冒頭の動機あたりが有名だろうか。

そんな効果を持つ「反復」に、「波」の重複による「うねり」が加わることで、冒頭のAメロには陶酔感を促す効果が生まれていると思う。その一発目のフレーズを、人柄は芯と強さがありながら温和でしなやか、声質は優しさと柔らかさがあるLEOが担当するのはとてもよい采配だと個人的には感じている。もちろん、そのあとのフレーズをそれまで「ラップ担当」のイメージが強かったSOTAが引き継ぐことも含めて、よいパート割だと思う。ラップパートにおけるSOTAのフロウも彼自身のダンスのように相変わらず力強い。

文字の詰まったリリックがうまくメロディに乗る理由

『Bye-Good-Bye』はサビ以外のパートの歌詞がかなり「詰まって」いると感じている。メロディに対する文字数が多い印象なのだ。

それが何故なのかを考察したときに、日本語の持つリズムの特徴に秘訣があるのではと感じた。

日本語教育能力検定試験にも出題されることがある、「音節」と「モーラ」の概念から、まずは日本語の持つリズムの特徴を考えてみる。

<1番Bメロ>

「もう行かなきゃだって」

基本は1文字1拍なので、その法則に乗っ取って分けると以下のようになる。
「も/う/い/か/な/き/ゃ/だ/っ/て」

しかし、拗音(「ゃ」「ゅ」「ょ」)は、前の音と一緒になって1拍(1モーラ)なので、それを踏まえると以下のように分けられる。
「も/う/い/か/な/きゃ/だ/っ/て」

さらに、長音(「ー」)・促音(「っ」)・撥音(「ん」)は、この文字だけで1拍(1モーラ)分の長さを持つ。

また、《子音+母音》+母音の太文字の部分は二重母音として一音節とみなす場合がある。特に古典文法におけるイ音便やウ音便の名残からか、後ろの母音がイ・ウだった場合に起こりやすいと考えられる。

特に自分自身で口を動かして相性がよいと感じたのが(口の中の形と動きが大きく関わってくるので、音声学等が大いに関連してくるはずであるが、文献は確認できていない)、以下の二重母音。
「アイ」「エイ」「オイ」
「アウ」「イウ」「エウ」「オウ」
は特に母音同士の相性がよい。また、「オウ」に関しては、文化庁のHPによると「オ列の長音をめぐる問題」として、「「おお」と書く場合と、「おう」と書く場合と両様の書き方の可能性があって、「現代かなづかい」では「おう」と書くのが原則になっている。」とある。つまり、「オウ」は実際の発音では長音「オー」に限りなく近く発音される。

そして、促音・撥音・二重母音の後ろの母音などは、前の文字と比べて、発音上少し引いたり跳ねたりするため、音が若干弱くなったり消えたりする傾向がある。

歌詞は『Bye-Good-Bye』より引用

上記内容をメロディに当てはめると以下のようになる。

このパートを担当しているのは最年少、高校1年生のRYUHEI。歌の雰囲気を作り出すのが抜群に上手く、とても最年少とは思えない。各Bメロのフレーズが脚韻で整えられている効果も大きいのだが、フレーズの持つ緩急と表現力で聞く人の心を揺さぶってくる。

また、1音に3文字が詰まるケースも見られる。Aメロの「鼓動した」の下記部分である。

「鼓動した」
「Ko・Do・u・Si・Ta」

歌詞は『Bye-Good-Bye』より引用

「ou」は二重母音かつ「オー」に限りなく近い発音になる。また、自分で口を動かして実験してみた結果、子音の「s」「z」「m」「n」の4つは単語の前後に接続しやすく、かつ母音が弱くなる(脱落手前になる→子音が残る)傾向がある。

そのため、「こ/どうし/た」のように歌っても違和感が少ないように思われる。このパートのMANATOの歌声は、メロディが下降する様子がまるで葉っぱから水滴が滴るがごとく美しく、筆者のお気に入りのパートである。

また、サビの「スタートライン」は英単語で表現すると「startline」、英語の音節で「start/line」であり、サビ冒頭のフレーズを担当しているJUNONはその点を意識して英語の発音に近い形で歌唱しているように感じる。「終わない」ではなく「終わない」なのも、ここまで書いてきた説に基づいて考えると、メロディにはめ込んだ時の印象(カッコよさ)が全く違うからだと考えられる。JUNON担当のサビはどこまでも伸びていくような歌唱で、様々なメディアや街中で流れてた時にこの歌声を聴いたたくさんの人が引き込まれていったことだろうと思う。

言葉が詰まるのにメロディにしっかり乗っており、かつ歌い手がそれを上手く歌いこなしてるという点では、サビ一歩手前のRYOKI(1番)とSHUNTO(2番)が歌うパートが秀逸だ。

「1,2 Step 振り絞って歌う」-歌詞は『Bye-Good-Bye』より引用

メロディ的には8分音符を刻んでいる、これまで述べてきた日本語の特徴の点でも歌詞がメロディにうまく当てはまるという理屈も分かる。しかし、魅力的に歌うことができるかどうかは別問題だ。筆者は高校3年間クラシック音楽の発声を訓練されてきたが、リズム感が壊滅的にない。そのため上記フレーズを何度歌ってもカッコよくならない。ロボットが歌っているようなぎこちなさになってしまうのだ。RYOKIとSHUNTOはエッジの効いた声質からラップを担当することも多い。オーディションを経て体にリズム感が染み込んでいるのだろう。そのリズム感も、自分自身の声質の持つメリットも、歌の節回しも、時に思い切りのよいボーカルも、時に力を抜くファルセットもシーンによって使い分けて歌を魅力的に相手に届けることができるという点で、その才能がとてもうらやましいメンバー達である。

なお、SKY-HI氏の書くリリックはAAA時代のものも含めて長い間見てきているため脚韻等はすぐに気づくのだが、正直ここまでリリックがメロディにうまく乗る理由を考えてみたのは初めてだった。筆者が音楽鑑賞の際コード進行等の音楽面を優先しすぎるがゆえに気づけなかった、『Bye-Good-Bye』という楽曲がきっかけとなって初めて歌詞とメロディの関係に興味を持つことができたということなのだと思う。

西洋音楽が輸入された当時から、先人達によりメロディに日本語の歌詞をつける(or歌詞にメロディをつける)技巧は精錬され続けている。そして時は経ち、特にヒップホップにおいては「日本語はラップに合わない」と言われ続けながらも、母音をあえて脱落させ違和感をなくす、フロウを工夫する、日本語そのものを研究するなどの努力を重ねて日本のラップは進化を続けている。『Bye-Good-Bye』のリリックの見事さもその延長線上にあるということなのではないかと個人的には思っている。

ラッパ我リヤのフロウには七連符という概念もあるらしい。独特すぎて筆者にはどうなっているかももはや分からない。

ポチョムキンの『80BARZ』の、畳みかけまくってリスナーをぶん殴ってくるようなフロウとリリックは凄すぎて思わず笑ってしまった。

ここまで筆者自身が『Bye-Good-Bye』が好きな理由を述べてみた。なお、その分メンバーの持つ魅力についてはあまり触れられなかったが、その点に関してはよい記事が世の中にたくさん存在しているので、そちらを読んでいただければと思う。どの記事も素敵な記事だ。

なお、茨城県民としては、2周年を迎えたSKY-HI氏主宰の事務所「BMSG」が 行った音楽フェス「BMSG FES’22」にてTRILL DYNASTY氏(北茨城市出身)が手掛けた楽曲が発表されたとのこと、それらの楽曲もファンの皆さんには大好評だったと聞いているのでとても嬉しく思っている。SKY-HI氏はもちろん、BE:FIRSTやBMSG所属のアーティストを来年のLuckyFes等で見ることができたら個人的に面白そうだなと思うので、この繋がりで実現してくれたらと願っている。


音楽についての記事を書く…とプロフィールに書いている割にあまり音楽について書けてないな、と思ったので今回はこのような内容にしてみました!

LuckyFesの記事をアップする合間に、また機会があればこういった記事にも挑戦してみようと思います。


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