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年齢が関係ない仕事

縁があって80代後半の女性のケイさん(仮称)に髪を切ってもらう機会を得た。

ケイさんは認知症を発症している。

さらにご主人様は体調不良で今は
店には立っていらっしゃらないから
ひとりでなさっている。

だからぱっと見は雑然とした店内。
でも未だ馴染のお客様が来店され、
客の立場でも時にゴミ出しやら買い物も
手伝われているからなぜだろうとずっと思っていた。

人づてに
お弟子さんはたくさんいらっしゃるそうで、
実際そのお弟子さんが切ったケイさんの髪を
まじまじ見ると
「その辺の洒落た店よりうまいのではないか」
「お弟子さんがこれだけ上手なら、先生であるケイさんならどうなんだろうか」
と興味が湧き、お願いした。

ケイさんは短期記憶が乏しくなり始めた。

髪を切る散髪道具以外の
小道具の置いてある場所が一定しなかったり
わからなくなるため、
その次にそれを探すのが一苦労。
よって捜し物が見つからないと
ケイさんの捜索が始まる、と見たり
聞いたりしている。

しかし、実際に座ってみると
座る場所周辺から鏡へは長年の「体が覚えている」記憶が発揮されて、他の店と変わらない空間状況になっているから不思議だ。

ケイさんは
店に同僚がいたらある場所が聞けるのに、と
すまなそうにおっしゃる。

だからこの店に切りに来る客は皆
それでもよいという客ばかりだ。

ケイさんは理容師と美容師の資格を持ち、
地元では当時1、2を争う店(理容、別の入口で美容をやっている店)で長年修行なさった。
修行は先生が用意された場にお弟子さんの
住み込みもあったそう。
当時の修行中のお話からは、かなり大変だったのが推測される。

ケイさんのご主人も理容師で、
現役時代には地元の理容技術の先生
として勉強会を行い、
理容店を経営なさっていた。
またその傍ら
保護司としても長年ご尽力なさった。
更生させるために理容技術を仕込んだり、
時にお弟子さんと住み込みの場に
住まわせたり。。

今はまた違うようだけど、一昔前は
商売として店を存続させるために
腕のよい理容師同士が先生の勧めで
恋愛結婚より見合い結婚を
することが多かったそう。

ケイさんはその店の奥様として
ご主人様のお父様も理容師だったから
認められ、ご主人様にケイさんとの見合い結婚を勧めたしたそう。
ケイさんは技術も厳しい修行生活も
経験なさったところがご主人様や
そのご家族に一番気に入られたと話す。
お子さんはふたりできたが
嫁業より仕事を優先できたとおっしゃる。

だからケイさんは
根っから髪を切るのがお好きで、
髪切りには筋金入りの根性があると改めて
知った。

理容に定年はないそうで、切れば切るほど
上手くなるから止めないとおっしゃる。

私からしたら体は80後半ですよ、と思う。

その手つきは本当に
年齢を感じさせない丁寧さと
慣れ、が様子からわかる。
仕事中のケイさんはいつもより
明らかに楽しそうで
カタカナ用語もバンバン出て
嬉しそうだった。

私にはその様子が羨ましく尊敬に値する。

終わると
料金やレジの使い方がわからない、と
ご主人に確認に行かれる
いつものケイさんになっていた。


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