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なぜ、あの飲食店本を読みたくなるのか(その1)ライターが飲食店をやりたくなるとき

いきなり自分の話をしてしまってあれなのだけど、僕は寄り道が多い。

好きだから仕方ない。寄り道が。最短ルートで行けるわかりやすい道が見えていても、あえて、全然ちがう見えない道にすっと入っていってしまう。習性。

自分でもなんでだろうと思わないでもない。「仕事」の場面ではそれが許されないことのほうが多いのだけど、それでもやっぱり寄り道したくなる。

こんなふうに仕事を進めればすんなりできる。わかってても違うところを通りたくなるのだ。

実務的な作業でもそうだし、リアルに歩く道も、あるいはもっと大きな意味での生き方という道でも。

ライター、ものかきの世界でも、こんなメディアにこんなことを書いていけばもっと売れる(いろんな意味で)というのがチラチラしたりもする。でもなぁ。なんか気が乗らないのだ。

その代りに、こんな飲食店をこんなふうにやってみたらどうなんだろうな。そんなことをふと考えたりする。なんなら、いろいろ計算までしてみたり。

ちょっとまて、だ。ライターの仕事と関係なくないか。

うん。関係ない。直接には。でももっと大きな意味、たとえば自分のメディアとしての飲食店、あるいは飲食も関係する場としてライターと組み合わせて「デザイン」できないかみたいなことを考えたりもする。どれも自分がずっと好きでずっと考えていられることだからだ。

こんなこと書くと「飲食をなめてんの?」と思われるかもしれないんだけど。

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そうなのだ。今までnoteにも書いたことなかったけれど、自分の中のどこかには「飲食店」への親密感がある。

そういう意味では、bar bossaの林さんの新刊『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』はジョーカー本かもしれない。

これまで僕も何冊か飲食店オーナー、フード系の企業創業者の本を担当して書かせてもらったけど、共通してるのはどの人も「人間み」がすごくある。

他の業種のオーナー、経営者はどこか組織の空気レイヤーを外すように意識しながら話さないと人間みのある「言葉」が出てこないことが多いのだけど、飲食の世界の人はそのままなのだ。そこがいつもいいなと、思う。

そして、同じ飲食店をしている仲間たちへの想いが強い。なんなんだろうね、あの独特の感じ。愛って呼んでもいいんじゃないか。

正直、たまにうらやましい。あまり何かをうらやましいと思わないタイプの人間なんだけど、人間みと人同士の想いの強さはいいなと思ってしまう。

林さんの話の端々にも、やはり「飲食店の人たちの人間み」がいろいろあった。

飲食店経営者とかオーナーは、すごくお互いの店のことを気にかけている。それがふしぎだったのだけど、実際そうなのだという。

「お互い、横のつながりはすごくありますよね。いろんなお店で修業したり、そこで重なりがあったりするから自然に」

やっぱりそうなのだ。

「情報交換すごくします。売り上げの話も、今度こんな商品出したらすごく売れ始めたたとか。最近、こういう傾向だからこんなふうにしたらいよとか」

他のお店にアドバイスまでする。それってライバルだし、敵に塩を送るみたいな話にならないんだろうか。

「街の問題もあるかもですね。恵比寿で儲かってる店の話を聞いても、僕、渋谷なので再現性ってあんまりないんですよ。ちょっと商圏がちがう。重ならないから」

たしかに、それはあるかもしれない。街がちがえば同じ飲食店でも直接的な利害関係があるようでないのだ。飲食店は物理的に動かせない立地がついてまわる。そのためにお互いの店を行き来しながら情報交換することもできるのだ。

ライターでそれができるんだろうか。そもそもお互いに(書籍ライターだと特に)あまり交流ってないし、今こういう仕事やっていてとか、お互いにこうするといいよって話もまあいろんな絡みがあってしづらい。

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林さんは今回の新刊のベースになったインタビューで、いろんなタイプ(お店をやることになった動機も経験も)の飲食店オーナー、経営者の飲食店経営と生き方の話を取材されている。

その中で、何か今の時代にうまくいってる店の共通点を探ろうとしたという。

「いつも成功する人って何がちがうんだろうと思うけど、ほんと人それぞれなんですよね。毎回、何か法則ってあるんじゃないかって考えるんですけど」

僕も経験上思うけど、飲食店オーナーや経営者の話はみんなそれぞれちがう。横のつながりも大きくて情報交換もおそらく他の業界より多いのに、じゃあ、みんな同じような成功パターンを持つかというと、まるでそんなこともない。そこがまたふしぎだし面白い。

「今回の本も、出てくれた人の特性はばらばら。まったく飲食経験のなかった人から、がっちり修業してきた人、定年退職してこの世界に入った人、それぞれです」

本の中では、こういう人のこういうやり方が成功するみたいなことは書かれてない。

これが“ビジネス書”なら、必ず一つひとつの成功店について「この店の成功の秘訣」が太字で書かれていたり、項目の終わりにまとめられている。のだけど、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』ではそれがない。

正解は書かれていないのだ。

たとえば、お店の回転率を上げるという命題に対しても、あるオーナーは「長居するお客様にお声掛けする」し、別のオーナーは「そういうお客様もいる」と意に介さない。どちらが正解でもなく、どちらのお店も成功している。

「そこも面白くて、僕もそんなにばらけると思わなかった」

林さんもあらためて、飲食の世界に成功法則はあるようでないんだと感じたそうだ。

そういう話も妙に安心する。成功法則がなくてもうまくいく人はうまくいく世界。やっぱり人間っぽい。

こんなふうに話を聞きはじめると、飲食業ってもしかしたらどんなタイプ(僕みたいなのも)の人間でも可能性があるんじゃないかという気がしてくる。

そして実際、さらに林さんへの新刊インタビューをする中で「その気」になりそうな話が出てきたのだ。

(つづく)→第2回