表参_30_のコピー

表参道パンダストリート

表参道の交差点脇に壊れたパンダが立っている。

血を流しながら竹を食べていて、なぜか僕はその対処をすぐ近くのビルの会議室で話し合ってる。

ケガだとしたら病院に連れて行かないといけない。だけどパンダ外来がどこでやっているのかわからない。

それでも竹を食べているのだから、大丈夫なんじゃないかと誰かが言う。

いや、そういうことじゃないだろう。ちっとも話が進まないので、僕は会議室を出てパンダの様子を見に行く。

相変わらず血が止まらないのに竹を食べることはやめない。

行き交う人のほとんどはパンダに目もくれないけれど、インバウンドの観光客だけが血を流しながら竹を食べるパンダに、何か叫びながらスマホを構えたり、隣に並んで自撮りしてる

よく見ると、パンダの動きが変だ。左腕だけを壊れたロボットのように上下させながら竹を食べているのだ。

いったいどうしたものなのか。

         ***

ふと、ビルを見上げると、さっきまでパンダの対処を話し合っていたはずの会議室の窓から蛍光色のモビールが垂れ下がり、どこかの国の食堂になっている。

仕方ない。もう帰ってもいいんだなと思って立ち去ろうとすると、ビーチパラソルをもった作業服姿の老人がすとすととパンダのところにやって来て、僕に「駄目だよ、こいつに竹あげちゃ」と言う。

え、あ、べつに僕が竹をあげたわけじゃないんだけどな。僕がもごもごしているあいだに、老人は僕の顔も見ずにパンダから竹を奪い取ると、あんなにせわしなく上下していたパンダの動きが止まる。

老人は竹の代わりに、ビーチパラソルをパンダに持たせてパンダと一緒に雑踏の中に消えて行く。

ああ、東京だなと僕は思う。