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熊にバター(行き場のない掌編集)

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日常と異世界。哀しみとおかしみ。行き場のないことばたちのために。
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#小説

指の音

指の音

階段を上がって真紀の部屋に着いてピンポンを押したら、知らない男の人が出てきてびっくりした。

部屋を間違えた? でも見覚えのある真紀の傘がドアの横に立て掛けてあるし。わたしが言葉を探していると、

「あ、友達だからいいの。ゴメンいま手が離せなくて。奈緒でしょ? 上がって」
と、奥のベランダのほうから真紀の声がするので、友達だからいいというのはわたしのことなのか、男のことなのかどっちだろうと思いなが

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夜の入り口でサボテンは

夜の入り口でサボテンは

「暗くなるのが早くなりましたね」

打ち合わせからの帰り道。まだ明るい時間だったので、いつもは通らない公園の脇道に入ろうとしたところでサボテンに話しかけられた。

しまった、と思った。日没前の明るさが残る時間はサボテンの活動時間なのだ。

サボテンは知人にでも偶然会ったかのように話しかけてきて、不意をつかれた僕は、うっかり「ええ」と返事をしてしまった。

「もうすぐ立冬ですからね」

サボテンはす

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