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私はまだここに居る。

個人的な話をさせてください。
私は今を生きていません。
過去を生きています。

過去はもうこの手の中にないのに……何故か、私は過去に執着しています。
 
過去に感じた記憶、感情、傷ついた言葉を何度も何度も反芻して、また傷ついていくのです。

私は、いつだって仮面をつけて生きていました。

私はいつだって、笑うことでしか自分を守れませんでした。

いえ、守ってませんね。他人を通したフィルターごと自分を傷つける道具にしたのです。

笑う、わらう、わらえ

心はギリギリの悲鳴をあげてもなお、私は笑い続けました。

そして、ある日ポッキリと折れてしまったのです。

折れた心は元に戻らない。

戻ったように見えてどこか歪なんです。

そして、私は今も尚「過去」の失敗の世界で迷い込んでいます。

出して、出して。苦しい、苦しいと叫びながら

決して立ち止まらず、決して考えず。

ただ、ただ

さまよい続けるのです。

「後悔」という海の中をさまよい、後悔を重ねていきました。

私は、いつになったら気づくのでしょうか。

私は、いつになったら本当の意味で笑えるようになるのでしょうか。

もし、私が人生をこのままで終えてしまうとするならば、私はきっと消えてもなお後悔し続けることでしょう。

ふと、私は立ち止まります。

過去という世界で、後悔の波に溺れながら、疲れてしまいました。

もういいや。もういいよ。と、がむしゃらに動かしていた手足の力を抜きます。

ふわっと体が浮くような感覚になり、私は気づくと、海の中にいませんでした。

ふわりふわりと海を越えて、山を超えます。

さらに、大きな雲を横目に、さらに浮いていきます。

ふわりふわりと。

私はなんだか楽しくなってきて、歌を歌いました。

それは、遠い昔、私が楽しく下校していた無邪気な頃の歌です。

鼻歌交じりで、音程なんて大きく外れている部分もあるのでしょう。

だけど、楽しくて楽しくて

私は口笛を吹いたり、鼻歌交じりで歌ったりと、気づけば名前のない踊りまで。

あぁ、私の過去にも「楽しい」があったんだ。

そう思ったらなんだか、すごく泣きたくなって、すごく笑いたくなります。

なんだか不思議な気持ちです。

笑いながら泣いてしまいたい。

泣きながら笑ってしまいたい。

不思議な不思議な気持ち。


私はどうにでもなれっと、笑いました。そして、泣きました。

笑ったり泣いたり。泣いたり笑ったりと、繰り返していくうち、心の中にロウソクが一本立ったような気持ちになりました。

ロウソクはポッと明かりがついています。

まるで私のことを歓迎するかのような温かさなのです。

心の奥から温かさが芽生えていきます。

ぽっぽっぽっ

ふわふわ、ふわふわり

「私」とは一体なんでしょうか

私ってどんなことをしていたのでしょうか

ふわりふわりとしながら、温かな心の中のロウソクの炎を感じていきます。

ゆらりゆらり
ぽっぽっ

よーく聴いてみてください。
ゆらーりゆらり
ぽーっぽっ

「頑張りすぎだよ」
「もっと楽にしてよ」

 心の中のロウソクは、ゆらゆらと明かりを放ち、囁いていくのです。

「ダメだよ」 
「ちゃんとしなきゃ行けないんだ」

私は自分を追い詰める言葉を沢山重ねました。

力を抜くことが出来ないのです。

それで自分を殺してしまっても。

「君はこのままでいいの?」
「君のほんとうのさいわいは?」

「わたしのほんとうのさいわい?」

ロウソクと私は、いつしか話せるようになっていました。

心の中からロウソクがぽわんと出てきてくれたのです。


ロウソクは、困ったように笑いました。

君は頑張り屋さんだけどとっても頑固だよね

それが君の魅力でもあるから

「頑固」が魅力……?


でもね、覚えていて欲しい

君はもう、かけがえのない人間なんだよ

この世で誰とも同じじゃない

君という大切な存在なんだ

だから、過去を生きるなんて悲しいこと言わないで

今をもっと大事に生きて

僕たちは君を見守っているからーー


ぽこぽこぽこ……
どこだろう、ここ。
きづいたら、私はリビングのテーブルの上で、寝てしまっていたようです。

不思議な夢。

台所を見ると、ケトルの中が温まった音を響かせています。

ここは私の家。
変な夢を見てきたよう……でも、意外と悪くない夢だった。

私はうんと、背伸びをする。 

コロンと転がり落ちたものがあった。そこには、小さな、うんと小さなロウソクがありました。


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