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元発電所博物館、現代アートのようなチェントラーレ・モンテマルティーニ

 この週末、ローマでG20サミット会談が開催された。
 メイン会場こそ中心街からやや離れたコンヴェンションセンターだが、日中、会議中の首脳らの配偶者のみなさまは、コロッセオにフォロ・ロマーノ、ヴァチカン美術館のシスティーナ礼拝堂など観光コースを満喫されたよう。夜の、大統領府での晩餐会の前に首脳らも全員で、テルメ・ディオクレツィアーノを見学。また2日めは、トレヴィの泉で一斉にコインを投げてローマ再訪を願うなど、イタリア側のフォトジェニックな歓待(・・・ほぼ観光プロモーション的な)も余念がない。
 金曜日に、バイデン米大統領をはじめとするVIPが到着し始めてからというもの、終日ヘリの音が絶えない上に、地上も地下も終日超厳戒態勢、おまけにさまざまなデモも予定されているというので、街中には寄らず、なるべく人混みを避けてひっそりと過ごしている。

 ローマといえば、なんといっても一に古代遺跡、二にバチカンのサン・ピエトロ大聖堂や美術館やを含むバロック美術・建築が目白押しなのだが、地味ながらに中世もあれば、近現代も、そしてもちろん産業革命以降の産業遺産もある。

 ローマの南、メインの観光地から少し外れたオスティエンセ地区にあるチェントラーレ・モンテマルティーニ博物館は、1912年に蒸気発電所として設立され、1963年にそのお役目を終えた後長らく放置されていたが、1997年よりローマ市の博物館群の1つとして生まれ変わった。
 工場というよりは、学校か何かのような入り口から入ると、他の多くの博物館とは異なる「鉄」の匂いにハッとする。そして迎え打つのは、白い大理石の彫像(のかけら)と、黒色の大きなタンク。真っ黒のボンベだのポンプだの(正しい用語不明)の前に白の大理石の石棺だの彫像だのが並ぶ中を通って、階段で上階へ上がると、その全容が明らかになる。大きな体育館のような空間に、蒸気機関が(これでもおそらく一部なのだろうと思われるが)そのまま残され、その中に、ローマの十八番、大理石の彫刻群が並べられている。

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 20世紀の鉄の機械と、紀元前後の大理石の彫像と。2000年近い時を経て、材質も目的も全く違う、だがどちらも人の手によって作り出された2者が、どちらもお互いに媚びることなく毅然と、だがお互いを尊重するように共に独特の空間を作り出している。何か、それ自体が大きな現代アートのようでもある。
 ガラスのショーケースなどの少ない、広々とした空間で自由気ままに見学しているのは、案外小さなお子さん連れが多いことに気づく。説明プレートを確認しながら彫像を1つ1つ眺めている人もいれば、大きな機械を見上げている親子もいる。地元の家族ならば、おじいさん・・・いやひいおじいさんやもっと前だろうか、ここで働いていたという人もいるだろう。

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 世界の主要国や新興国で構成されたG20で、ホスト国イタリアが掲げた第一の課題は、地球温暖化対策だった。1世紀前に、新しい時代の幕開けとして生まれた化石燃料による発電所は、わずか半世紀でお役御免となり、新しいエネルギーを模索する今世紀にやがてその仕組み自体、思っているよりも早くあっというまに忘れ去られていくのかもしれない。2000年前の彫像のように、2000年後にこの機会が珍重されるのかどうかはわからないけれど、少なくともこんな形で「楽しむ」ことができるのはおもしろい。
 観光客でごったがえす中心地からちょっと離れて、のんびりいつもと違うローマを楽しめるスポット、展示作品も多すぎず少なすぎず、ちょうどいい。

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チェントラーレ・モンテマルティーニ博物館
Centrale Montemartini
http://www.centralemontemartini.org

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10.31.2021

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