見出し画像

ローマの夜、「トスカ」


 愛のために罪を冒した歌姫トスカが、目の前で愛する人の命を奪われ、絶望のためサンタンジェロ城から身投げする。ローマで初演され、ローマを舞台にしたあまりにもローマらしいこの作品を、ようやくここローマで見ることができた。

画像1

 初めての劇場だから早めに行こうと思っていたのに、そんな時に限って地下鉄がちっともやって来ない。ようやく開演15分前に劇場にかけつけると、入り口には長い列。チケットの他に、グリーンパス(ワクチン接種証明)、検温もあるため、どうしても時間がかかるのは仕方がない。なんとか開演時間前に滑り込むことができて、まずはほっとした。

画像2

 私と同じようなミーハーな外国人も多いのだろうと思ったが、この時期、しかも平日とあってほとんどが地元の人だったよう。数日前にミラノ・スカラ座のシーズン開幕の様子が報道されていたが、イタリア大統領から文化相夫妻や市長夫妻、ファッション・デザイナーのジョルジョ・アルマーニ氏が自らのデザインしたドレスに身を包むにたくさんの芸能人らと次々にカメラに収まる、といった豪華な映像がまだ脳裏に残っていたので、それに比べると質素とまではいかないものの、少しおしゃれしたごく普通の人々が慣れない通路をうろうろし、やがて座席を埋めるところは、むしろほっとするくらいだった。

 1幕出だしの、金管があまりにももたついてハラハラしたけれど、段々と体が温まるのか、徐々に調子を取り戻し、2幕、3幕と全体に尻上がりにノッてきて、ぐんぐんよくなっていくのもなんだかローマというかイタリアらしい。流れる運命に翻弄される彼らの感情をぐわわーっと盛り上げ、トスカらしさを存分に引き出していた。3幕で、処刑を前にしたカヴァラドッシがトスカへの愛を歌う「星はきらめき」でアンコールがかかると、オーケストラも観客の興奮に応え、うねるようにドラマチックな音楽を最後まで鳴らし続けたのだった。

画像3

 荒唐無稽だろうがなんだろうが、わかりやすくて音楽の美しい、イタリア・オペラはやっぱり大好き。衣装や舞台美術も、オーソドックスな、つまりちゃんとカステル・サンタンジェロ(サンタンジェロ城)がドーンと(描かれて)いるのが嬉しい。毎日のように眺めているカステル・サンタンジェロが、120年前のオペラのそんな現場になっているのだからおもしろい。当のカステル・サンタンジェロは、飛び降りるのに向いた構造とはあまり思えないのだけれど・・・。

 映画もそうだけど、舞台は一度見るとまた見たくなる。次は同じローマ・オペラ座で、これまたクリスマス時期定番のバレエ「くるみ割り人形」かな。

Tosca
指揮 Paolo Arrivabeni
監督 Alessandro Talevi
合唱指揮 ROBERTO GABBIANI
美術 ADOLF HOHENSTEIN(CARLO SAVIより)
衣装 ADOLF HOHENSTEIN(ANNA BIAGIOTTIより)
照明 VINICIO CHELI
 
配役
Floria Tosca SAIOA HERNÁNDEZ
Mario Cavaradossi VITTORIO GRIGO
Barone Scarpia ROBERTO FRONTALI
Sagrestano ROBERTO ABBONDANZA
Cesare Angelotti LUCIANO LEONI 
Spoletta SAVERIO FIORE
Sciarrone LEO PAUL CHIAROT
Un carceriere FABIO TINALLI
Un pastorello CAROLA FINOTTI
 
ローマ・オペラ座管弦楽団および合唱団

https://www.operaroma.it/spettacoli/tosca-8/

#オペラ #ローマオペラ座 #エッセイ #トスカ #ローマ 
12.18.21


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?