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パオロ・コニェッティ、アラスカへ

 ミラノで生まれ育った青年が、ものを書き、ドキュメンタリーを撮り始める。
 幼少の頃、夏を過ごした山へ、半ば都会と喧騒から逃げるようにして移り住み、そこで書いた初めての長編小説が、イタリアで最も権威ある文学賞ストレーガ賞の栄誉に炎耀く」。喜ばしいはずの賞はしかし、都会の喧騒を、心の安寧を得たはずの標高1800メートルの山の中へと誘い込むことになる。
 『帰れない山』(”Otto Montagne”)で一躍、イタリア全国のみならず世界で知られるようになったパオロ・コニェッティ(Paolo Cognetti)が、自らの創作の原点とするアメリカの偉大なる作家たち、ヘミングウェイやレイモンド・カーヴァー、ソロー、ジャック・ロンドン、ハーマン・メルヴィル、クリストファー・マッキャンドレスの足跡を求めて、アラスカへの旅に出る。
 友人でイラストレーターのニコラ・マグリンとともに。ドキュメンタリーを、撮る側であったコニェッティが被写体としてレンズの向こうにいる。憧れの作家らも、旅をする彼らも男性ばかり、圧倒的な大自然に挑む「男のロマン」と言ってしまうと月並みだし、前時代的かもしれない。だが確かに、ほかではありえない確かな「美」が存在する。

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 『パオロ・コニェッティ 大いなる北の夢たち』(Paolo Cognetti. Sogni di Grande Nord)というドキュメンタリー映画が、諸宗教対話映画祭なる映画祭で上映されることを知り、先日見に行った。雨の中、急ぎ足で向かったというのに、10分経っても15分経っても一向に始まる気配がない。いい加減痺れを切らしたところへ、急に観客がどどっと増えたと思ったら、関係者に導かれてコニェッティ本人が入ってきた。近くの書店で新刊のプロモーションがあり、そこから駆けつけたという。普段は山にこもって滅多にこうした機会に出てくることもないという彼だが、実は日本語翻訳版『帰れない山』(新潮社)が出た直後の2018年11月に、日本にも来たことがある。その時と変わらぬ、山男っぽいネルのチェックのシャツというラフな姿で、この作品にかけた思いを語った。

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 お恥ずかしながら、彼が追い求めたアメリカの男たちの作品を、実はほとんどと言っていいほど読んでいない。作品を知っていれば、もっと共感し、ぐっとその世界に入り込むことができるに違いない。だから知らないことが非常に残念ではあったものの、同時に、雄大な自然と、パオロ自身の心の機微、男同士の会話、とその追い求める対象がたとえわからなくても存分にその世界を体感できるドキュメンタリーだった。

Paolo Cognetti. Sogni di Grande Nord.
Regia: Dario Acocella
Durata 82’
Documentario, Italia, 2020
https://www.tertiomillenniofilmfest.org/film/paolo-cognetti-sogni-di-grande-nord/

#映画 #諸宗教対話映画祭 #エッセイ #パオロコニェッティ #ローマ

 

12.01.2021


 


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