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ローマで地下探検にハマる。カタコンベの日

 「ヨーロッパ文化遺産の日」に「FAI(Fondo per l’Ambiente Italiano, イタリア環境基金)の日」など、イタリアには年にいくつか、ふだんは非公開の文化・歴史遺産などが特別に公開される日がある。たいていは無料で、しかもガイドつきで見学できることもあり人気が高く、昨今は予約を取るのがなかなか困難なのだが、それだけ多くの人の関心も高いということだろう。
 さすがローマというべきか、それに加えて先日、なんと「カタコンベの日」があった。
 カタコンベ(複数形。単数形はカタコンバ)とは、ローマ時代、主に紀元後以降に作られた地下墓地のこと。帝国の拡大とともに都市ローマの人口もどんどん増えていたこと、また、町の中に墓地を作ることを禁じられていたため城壁の外側に埋葬する必要があったこと、さらにもともとローマ人は遺体を火葬していたのが、復活を信じるキリスト教の普及により土葬になったためにより多くのスペースを必要としたことで発展した。掘りやすく崩れにくいという絶妙な地質を利用して、細長い廊下からいくつも枝分かれし、そこからさらに分岐し・・・と、ありの巣のように地下に展開、現在わかっているだけでもローマ市内だけで60カ所以上ある。
 そのうち普通に見学できるところは、数カ所に限られる。

 カタコンベは、キリスト教徒の墓地、とざっくり説明されていることが多いが、実際は、キリスト教という新しい宗教が、ローマ帝国でまずは宗教のひとつとして認められ、やがて国教に制定される以前から作られていたため、初期の頃は他の宗教を信じる人々の墓地と混在していた。また、異教として迫害を受けていた頃、すなわち地上=現世ではキリスト教信仰を公にできなかった人々の墓地もある。その多くは表向きにはわからないようにその信仰をそっと表していることがあり、初期キリスト教美術の原点として重要な歴史遺産でもある。
 年に1回の「カタコンベの日」で、特別公開!無料!人数ももちろん限定!!!発表からまもなく、オンラインの予約サイトでみるみるうちに完売マークがついてしまう中、かろうじてなんとか、2カ所、ゲットした。

 1つめは、「パン屋の墓」(Regione dei Fornai)。・・・争奪戦の中、ともかく取れるものを取ったのだが、我ながら自分らしい選択に苦笑する。ふだん観光客も見学が可能な「ドミティッラのカタコンバ」の一部にあたるが、その入り口とは違うところから地下へ。
 細長い廊下に沿って、壁に細長い長方形の壁龕が並ぶ。これは、ロクルスと呼ばれる最も簡素なお墓で、布に包まれた遺体を納め、蓋をする、というもの。
 ときおり、半円形の窪みも見られる。アルコソリウムと呼ばれる、経済的に余裕のある人々のお墓で、半円形の壁、アーチ部に漆喰を塗り、絵や模様が描かれている。その中や下には複数のロクルスがある場合が多い。その細い廊下から、ちょっとした小部屋に出ることがある。これはクビクルムと呼ばれる。円形または多角形のプランで、部屋の中央部に向き合うように半円形のアルコソリウムが作られ、それぞれのアルコソリウムから壁、天井まで絵や模様が描かれている。これは裕福な家族のための墓室とされる。
 今回見学したのは、このクビクルムの1つで、まず、半球型、すなわち丸天井の部屋に入ると全方向にかなりの部分の絵が残されているのに息を飲む。球体と直方体の組みあわせにより生じるさまざまな面には、玉座のキリスト像や旧約聖書のエピソードに加え、入り口正面の中央に、パン焼き職人の立ち姿のほか、円形の壁をぐるりと囲むようにして、小麦からパンができるまでの一連の仕事の様子が描かれている。
 パン屋さんの一家というよりはおそらく、パン屋組合などによる共同墓所と考えられているらしい。

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(写真は以下のサイトより拝借)

http://www.catacombeditalia.va/content/archeologiasacra/it.html

 もう1つは、「ヴィーニャ・キアラヴィリオのカタコンバ」(Catacomba di Vigna Chiaraviglio)。「サン・カッリストのカタコンバ」の敷地内から案内されたのだが、構造上はすぐ近くに入り口がある「サン・セバスティアーノのカタコンバ」の端っこにあたるらしい。4世紀中盤に作られたこの墓地は、1920年代に発見された。きれいに絵や文字が残るアルコソリウムがいくつかあるのだが、圧巻は、埋葬されたある夫婦とその息子の肖像画くっきりと描かれているところ。さらにその正面には、(パッと見は柔道着で取り組みをしているようにも見える・・・)聖パウルス(パオロ)と聖ペトロ(ピエトロ)が肩を寄せ合い、抱擁している。

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(写真は以下のサイトより拝借)

http://www.catacombeditalia.va/content/archeologiasacra/it.html

 ひどい閉所恐怖症のために、地下の極細通路のカタコンベはこれまで躊躇してあまり見てこなかったのだが、今回入って見たら案外大丈夫だった。これはもっともっと見なくちゃソンソン。特別公開・無料はこの日だけ、来年もまた楽しみだけど、とりあえず公開されているカタコンベを、少しずつ回ってみよう。

 *カタコンベ内はいずれも撮影禁止のため、内部の写真は公式サイトから拝借しました。

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26.10.2021


 


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