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『アダムズ・アップル』

人生の中盤に差し掛かりつつある、少し道を誤ったビジュアル的にも冴えない中年男女達が主な登場人物です。更生施設兼協会には、補導役兼牧師のイヴァンを筆頭に仮出所者のアダム達3人という、牧師含めて相当に迷える仔羊達で溢れます。
 哀れな仔羊達は、更生して人生を再出発できるのでしょうか。
 神の奇跡でも起きない限り無理なんじゃないの?って思いながら見ました。

原題『Adams æbler』(2005年公開)
邦題『アダムズ・アップル』(2019年公開)
監督/脚本 アナス・トマス・イェンセン
イヴァン/マッツ・ミケルセン
アダム/ウルリク・トムセン
グナー/ニコラス・ブロー
カリド/アリ・カジム
サラ/パプリカ・スティーン
コルベア医師/オーレ・テストロップ
ものすごく大雑把なあらすじ
 デンマークの田舎の更生施設を兼ねたイヴァンの協会に、更生の一環でネオナチで凶悪なアダムがやって来ました。
 イヴァンはアダムに協会で過ごす間の目標について尋ねると、アダムはその場しのぎに協会の庭の林檎の木の林檎で「アップルケーキをつくる」と答えます。
 ある日、全く更生する気配のない入居者達がいる協会に、障害児の可能性が高い子供を身籠ったサラが悩みを打ち明けに訪ねてきます。出産を躊躇っているサラにイヴァンは自分の子供も同じ状況だったが今は元気で走り回っていると告げるのでした。
 イヴァンの息子は脳性麻痺で動けないのですが、アダムは言葉と暴力でイヴァンに不幸な真実を認めさせようとし続けた結果、イヴァンは耳から血を流して倒れます。
 後日アダムはコルベア医師から、イヴァンは悲劇的な人生経験から不幸な真実を目の当たりにすると脳の腫瘍が破裂し耳から出血することを聞き出します。
 イヴァンの話とだいぶ様子が違い、息子のクリストファーが脳性麻痺で動くことも出来ず車椅子に座りっぱなしの状態を見たサラはイヴァンの嘘を責めます。
 ついに腫瘍によりイヴァンの余命がわずかとなったことをコルベア医師から知らされたアダムは、イヴァンを気の毒に思いアップルケーキを作ることを決意するのですが・・・。

物語の序盤から登場する『ヨブ記』とは?

 物語の序盤から、落としても落としても「ヨブ記」のページを開く聖書が度々登場します。 
 とても意図的で超自然的な力の存在を象徴しています。
  デンマーク国教会(ルーテル派)があって、恐らく人口の大半がキリスト教徒であろうデンマークの更生施設兼協会の物語なので、仏教と馴染みが深い日本人の私からすると、作品に対してデンマーク人とはニュアンスの違う印象を抱いて観賞しているかもしれません。ルーテル派はプロテスタントなのでイヴァンは牧師さんなんですね。
 

「ヨブ記」ですが旧約聖書のお話で、ヨブは住民の中でも義のある人物で、多くの家族と財産を持ち、神に信頼される信仰心の持ち主です。 しかしサタンは神に、ヨブの信仰心は利益に期待してるからで財産を失えば神を呪うだろうと指摘するのです。神はサタンにヨブの命以外を奪うことを認めます。 死ぬ以外に解決方法を見いだせないほど災難に追い詰められる義の人ヨブですが、罪を犯したことも無いのに因果応報を疑がう友人達との議論の末に神の声が天から聞こえてきたのでした。
 ヨブは神を疑うことをやめ信仰心を取り戻し、苦難から解放され神からより多くの財産と家族と長寿を得ました。
 ・・・というような内容のようです。

  信仰とは、罪を犯さず良いことを行えば良い報いがあるというものではないんだなぁと思いました。
 それにしたって申し分ない人を災難に合わせて信仰心を試すなんて、神はなんて酷いことをするのだろうと私は思ってしまうのですが。
 「ヨブ記」と『アダムズ・アップル』を通して、姿形は見えないけど神がいる事を前提(信仰)とした現実の世界で、ヨブのように罪人でもないのに不条理に不公平に災難に遭い続けることに対して、キリスト教徒の人たちはどのように解釈をして・・・どう折り合いをつけて生きているのか少し気になりました。

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作品写真出典:IMDB

イヴァンの試練

牧師イヴァンはアダム達と違って罪を犯してないものの、コルベア医師曰く生まれた時から想像を絶する災難に見舞われてきており、脳に腫瘍があってイヴァンにとって不都合な不幸な真実に直面すると脳の腫瘍が破裂し耳から血が流れるという障害があります。 つまり脳内の大量出血で余命わずかになってしまうまで、アダムはイヴァンに不幸な現実を突きつけ度々暴力を振るっていたわけです。この作品の中で、猫が撃たれて死ぬ他に、私がこの物語でとても不快に感じてしまう部分です。 

 私の勝手な推測なんですが、アダムの様に思慮が浅く他人の心に土足で入ってきて散らかすタイプって人生経験が物凄く浅いか、あまり苦労をせずに生きてきた感じがするんですよね。
 例えばなんですけど、「お堅い仕事してて神みたいな胡散臭い幻想を説いて生きてるからって、なんの苦労も努力も知らない奴だ馬鹿だと勝手に決めつけてかかるような人間」のことです。

 イヴァンの様に障害があって極端に不幸な現実を認識できないわけじゃなくとも、カリドやグナーといった人前で不幸な現実を語らせたり認めさせたりするタイミングの決定権はアダムの様な他人にあるわけがないとも私は思っているので、他人の自己決定権をアダムが握ってる感じが物凄く不快に感じました。イヴァンとの議論を避けているカリドとグナーとの決定的な違いです。 

現実だと私にとってネオナチのアダムは距離を取って関わりたくない類の人間ですが、更生施設で役割上アダムみたいな人間を避けられないイヴァンを見てる私も辛かったです。

結論から言うとアダムは更生しイヴァンには神の奇跡のようなことが起こるのです。

 でも現実は映画のようにいかないので、アダムのように更生するか他人との関わり方を変えるしかないのかもしれません。
 物語の最後に「はきらめきの中に」(How deep is your love)が流れるのですが、キリスト教の聖書では日本語のにあたる部分は、性愛エロス・兄弟愛フィリア・家族愛ストルゲー・隣人愛アガペーという四つの単語で様々なを表現しているそうです。
 愛が人間関係をうまくやるヒントになりそうですね。


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出典:YouTube music 

私はこの曲はテイクザットだと思ってたんですが、テイクザットがカバーしたということでした。 

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出典:SPIS BEDRE Æbletærte med kanelsukker


 この作品にはアダムが焼いたアップルケーキというかパイというかというか、可愛らしいお菓子が登場します。
 調べてみると簡単なレシピがあり、私もそのうち作ろうと思うのでここにメモしました。  
 教会の庭のリンゴの木のリンゴって小さかったですが、このレシピのリンゴも小さそうです。

パイ生地
バター150g
シュガー150g
卵1個
小麦粉150g

酸っぱいリンゴ(恐らく小さいもの)小4個
シュガー大匙2
シナモン粉末(少々)
ホイップクリーム(少々)

パイ生地を作る
①バターを細かく切り、砂糖と混ぜる。
②卵と小麦粉を加え、滑らかになるまで生地を一緒にかき混ぜる。
(ここまでフードプロセッサーを使っても良いみたい)
③直径25センチくらいのパイ型に生地を均等に押し込む。底が抜けるタイプの型が良いみたい。
具を乗せる
④リンゴを洗い芯を取り除き薄切りに切る。切ったリンゴをパイ生地の上に並べる。 
⑤砂糖とシナモンを混ぜてリンゴに振りかける。175度に温めたオーブンで35から40分間焼く
⑥クリームを泡だてて、アップルパイ に添える。

美味しいと良いなぁ。

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