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「コルタサル短篇集 悪魔の涎・追い求める男」 フリオ・コルタサル

木村榮一 訳  岩波文庫  岩波書店


君は口から兎を出したことがあるか? 


岩波文庫のコルタサル短編集の中から「パリに住む若い女性に宛てた手紙」(たぶんこんなタイトル)を読んだ。この不在の若い女性の家に住むことになった(という理由には触れられていないのは、こういう短編の定石だろうか?)男…
この男の特技というか癖というかなんというか…が、口から兎を出す、ということ。なんだか繊細な女性の部屋を少しでもかき乱すのはいやだ…なんて書き出しているくせに、そのかたわらではタンスに兎を飼っていたり、その兎が本をかじってたりする。 
十羽まではなんとか隠していたけれど、十一羽になったら、男は我慢できなくなって兎達とともに飛び降り自殺してしまう。 やっぱり兎は性欲の象徴ということらしいのですが、でもなんで十一羽なのだろう? 
(2010 05/12) 

「占拠された屋敷」の別解? 


昨夜寝がけに少しだけ読もう、と読み始めた「コルタサル短篇集」から「占拠された屋敷」。解説によると「占拠」の持つ意味はここでも?近親相姦とかいうような性欲関係らしい。確かにそんな臭いしているが(笑)、ここではあえて(自分なりに)別の読み方を。
例えば最初の「占拠」(といってもただ屋敷の半分から物音がし始めたということだけなのだが)は右脳を、次の「占拠」は左脳を意味している(順番には特にとらわれず)・・・あるいは、近代社会になるにつれて多くのものが視野から消え去って削れていった、と言う意味での「占拠」された場所、ということか? 
(補足:「占拠された屋敷」はのちに「ラテンアメリカ怪談集」で再読している)
(2010 05/18) 

メビウスの輪2篇


「夜、あおむけにされて」と「悪魔の涎」。キーワードは「メビウスの輪」。こちらから読んでいたのが、気付かぬ間にあちら側に取り残される。そんな2編。
メビウスの輪の「完成度」は「夜…」の方が高く、最初のさりげないほのめしから、2つの世界を行ったりきたり。アステカ族の世界で捕虜となって処刑される段になり必死に眠って現代の病院の世界に戻ろうとするが、もはや輪は閉じられてしまっていた…あーあ、こわ… 
「悪魔の涎」は写真のこちら側とあちら側なんだけど、ところどころに輪の破れがあって、それはそれで恐いんだわ(笑)。 
というわけで、とりあえず、交通安全と、知らない人を写真に撮る時は一声断ってからにしましょう(笑)。異次元に行かない為にも… 

「悪魔の涎」にこんな文章がある。

  まず、この建物の階段を降りて、一カ月前の十一月七日の日曜日まで戻ることにする。六階から階段を降りると、そこは日曜日で、いかにも十一月のパリらしい太陽が輝いている。
(p59)


位置表現と時間表現との交錯だが、先に述べた「輪の破れ」の一例ともなっている。結果は写真によって切り取られた過去とそれから現在が、写真の面を媒介にして行き来可能になるということ。写真の現代性と、上の分の「階段降りた所にある十一月のパリというのは位置情報であるけれど、2つの異なる時間現象を結びつけてしまうものでもある。他にこのような表現が可能な例は? 
(2010 05/26) 

エレベータと地下鉄の時間的つながり 


今日は「追い求める男」。ジャズサックス奏者の話なのだが、なんだかこの男、時間に関する考えにとりつかれている感じ。エスカレータでも地下鉄でもその乗っている時間以上の過剰な映像等が流れる。そんな「自己の中の時間」でみんな生きられればいいな。というのが、このジョニーという男の考え。 (そういう体験って、プルーストの水中花や、キリーロフの癲癇体験などと共通するのかな?) 
この短編は短編集の中でも一番長めの作品なのだが、うん、まだまだ序の部分…展開が読めない…コルタサルのことだから、このままの世界では終わらないだろうし… 

  つまり、スーツケースの中にもう一度詰めようとすると、今度は店一軒分に相当する何百着という服がそっくり入るんだ。
(p93)


前ページのエレベータの例や地下鉄の例をわかりやすく短文で言い表したもの。

  ・・・あらゆるものに穴があいていることは分かるはずだ。ドアやベッドはもちろん、手や新聞、時間、空気、あらゆるものが穴だらけなんだ。すべてがスポンジか、自分を濾過する濾過器みたいなものなんだ・・・。
(p128)


穴があいているから伸縮自在に時間を想起を収納できるのかな、you know? では、ジョニーが一分を十五分に感じている間、ジョニーの他の何かが身体から出て行ってるのかな?濾過されて。 
(2010 05/27) 

追い詰められた男が、逆に追い求める男になったという表現があった。うーむ、ここでも輪が… 
(2010 05/28)

おまけ

「ラテンアメリカ怪談集」に収録の「奪われた屋敷」(鼓直訳)は、ここでの「占拠された屋敷」とたぶん同じだと思うのだけど…この時読んだのとなんか感触違う気も…この「怪談集」、ここからパスの「波」、ビオイ=カサーレスの「大空の陰謀」と続くので、こういう再読に関する悩ましいエトセトラ?がまたあるかも?
(2019 04/02)

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