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ハーフスペース潰しと狭い攻撃

20/21 プレミアリーグ 第9節
トッテナム vs マンチェスター
シティ

~トッテナムvsマンチェスター シティのあらゆる局面を分析します~

 今回は、先日行われたプレミアリーグ第9節のトッテナムvsマンチェスター・シティにて、トッテナムの守備とマンチェスター・シティの攻撃の攻防について分析していきたいと思います。


スタメン(home : トッテナム)

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(away : マンチェスター・シティ)

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結果 : トッテナム 2 - 0 マンチェスター・シティ
( 前半 1 - 0、後半 1 - 0 )


トッテナムの守備
(ブロック守備)

① 陣形
 トッテナムは自陣でのブロック守備時、下図のような陣形(4-4-2)となる。
 ここで、ブロックの横方向と縦方向のコンパクトネスは縦方向が約10~15m、横方向はペナルティエリアよりも狭い。
 また、守備の基準点は基本的にボールと味方。つまり、味方との距離をコンパクトに保ちながらゾーンで守備を行う。
※ 後ほど説明するが、ボランチのシソコ、ホイビュアーはハーフスペースに立つ相手をマークするというタスクが与えられていた。

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② サイド
 下図のようにサイドのエリアにボールが渡った時、ボールホルダーに対してSHのソン・フンミン(右)/ ベルフワイン(左)がハーフスペースへのパスコースを消すように立ち、ボールを外回りにさせる。
 このとき、ボランチのシソコ(右)/ ホイビュアー(左)はハーフスペースに立つ相手をSBとCBの間に入るようにしてマークする
 また、SBのオーリエ(右)/ レギロン(左)は大外に立つ相手(ウイング)に対してすぐにアプローチできる位置に立つ。

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 その後、大外に立つ相手(ウイングが多い)にボールが出た際はSBのオーリエ(右)/ レギロン(左)がアプローチする。
 ここで、ボランチのシソコ(右)/ ホイビュアー(左)はハーフスペースに立つ相手をマークしながらSBとCBの間のニアゾーンをカバーする。
 全体としては、ボールサイドにブロックをコンパクトに保ったままスライドする。

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③ ライン間
 DFとMFのライン間(中央)に縦パスが入った時は、下図のようにボールの受け手に対してCBのアルデルヴァイレルトあるいはダイアーのどちらかがDFラインから飛び出してアンティチポを行う。
※ アンティチポとは、パスの受け手を背後からマークし、その足下に入って来る縦パスを身体を前に入れて(あるいは足を出して)奪うプレー

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マンチェスター・シティの攻撃
(ポジショナルな攻撃)

① 陣形とプレー展開
 シティは敵陣でのポジショナルな攻撃時、下図のような陣形となる。
 具体的には、前線のラインにウイング(フェラン・トーレス / マフレズ)、インサイドMF(B・シウバ / デ・ブライネ)、CF(ジェズス)の5枚が5レーンに重ならないようにポジショニングし、SBのウォーカー(右)/ カンセロ(左)はMFラインでアンカーの脇にポジショニングする。
 また、プレー展開として、ショートパスでポゼッションを行うことで相手の守備組織を動かし、生じたスペースを使って相手の背後を取ろうとする。

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② ライン間を狙った攻撃
 シティはポゼッションを行う中で、相手DFとMFのライン間への縦パスを頻繁に狙っていた。
 ここで、ライン間への縦パスを使って相手の守備組織を崩し、相手DFラインの背後を取ったシーンを紹介する。
 まず、CBのラポルトから中央のライン間に立つCFのジェズスへ縦パスが入る。このとき、ジェズスは後方に下りながらボールを受けた。その後、ボールを受けたジェズスと左ハーフスペースに立っていたウイングのフェラン・トーレスとのスイッチ(ワンツー)で相手の背後を取った。

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③ サイド
 サイドのエリアでは、下図のようにボールサイドに密集して狭く攻撃する場面が多く見られた。
 このとき、逆サイドのSBとウイングは逆サイドのエリアに残り、アイソレート(孤立)することで広いスペースでフリーでボールを受けられるように準備していた。(かつSBはネガティブトランジション時の被カウンターへの準備)

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 ここで、ボールサイドに密集して狭い攻撃で相手の守備ブロックを崩したシーンを紹介する。
 まず、下図のようにボールサイドに密集する(逆サイドのSBとウイングを除く)。その後、ハーフスペースに立っていたB・シウバが大外レーンに下りることでハーフスペースを空け、そのスペースにデ・ブライネが入りボールを受ける。そして、ハーフスペースでボールを受けたデ・ブライネ、CFのジェズス、後方から上がってきた左SBのカンセロの3枚でテンポよくボールを繋ぎ相手DFの背後を取った。

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 この試合のトッテナムのブロック守備の大きな特徴はボランチのホイビュアーとシソコがハーフスペースに立つ相手を予めマークしていたことだった。
 しかしながら、シティはボールサイドに全体が密集し、そのエリアで人が流動的に動くことによりハーフスペースやライン間を空け、そこにまた人が入り込んでボールを受けることで効果的に相手守備ブロックを突破していた。



トッテナムの守備
(プレッシング)

① 開始点
 トッテナムはプレッシング時、主に下図の黄色エリアがプレッシングの開始点となる「守備的プレッシング」を行っていた。

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② 陣形
 プレッシング時の陣形は、下図のようにトップ下のエンドンベレがCFのケインと横並びになり「4-4-2」となる。
 このとき、DFラインを高く保ち全体をコンパクトにする。

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③ スイッチと追い込み方
 トッテナムは守備的プレッシングを行う時、サイドのエリアでプレッシングを行っていた。ここで、左右のサイドで対応の仕方が多少異なっていた。
 まず、左サイドでの対応の仕方を説明する。
 プレッシングのスイッチはSHのベルフワインで、下図のようにハーフDFの位置に立つ相手SBにボールに入ったところを縦方向のパスコースを消すようにアプローチする。このスイッチを起点に全体をボールサイドにスライドさせ、ボール周辺のエリアでマンマークとなりアグレッシブなプレッシングを行う。このとき、特にボランチのホイビュアーはハーフスペースに立つ相手インサイドMF(デ・ブライネ)を常にマークするというタスクが与えられていた。

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 次に、右サイドでの対応の仕方を説明する。
 プレッシングのスイッチはSHのソン・フンミンで、大外レーンに立つ相手(ウイングのフェラン・トーレスが多い)にボールが入ったところをアプローチする。このスイッチを起点に全体をボールサイドにスライドさせ、ボール周辺のエリアでマンマークとなりアグレッシブなプレッシングを行う。

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マンチェスター・シティの攻撃
(ビルドアップ)

① 陣形とプレー展開
 シティはビルドアップ時(ミドルサード)、下図のような陣形(3-2-5)となる。
 具体的には、右SBのウォーカー、CBのR・ジアス、ラポルトの3枚でDFラインを形成し、MFライン中央にはアンカーのロドリと、内側に入ってきた左SBのカンセロが立つ。また、FWラインの5枚はそれぞれが5レーンに重ならないようにポジショニングする。
 プレー展開としては、DFラインの3枚+MFラインの2枚で左右にボールを動かすことで相手の陣形を動かし、生じたスペースを利用して前線の5枚へ相手のプレッシャーラインを越えるような縦パス(あるいは斜めのパス)を配給する。

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② プレス回避
 ここで、試合中に見られたプレス回避→シュートまでのシーンを紹介する。
 まず、後方のDFライン+MFラインの3+2でボールを動かし、DFラインのサイドの位置に立つラポルトから前線の大外レーンにたつウイングのフェラン・トーレスへ斜めのパスを送る。
 このとき、トッテナムはサイドのエリアでアグレッシブなプレッシングを行うが、フェラン・トーレスは相手のプレッシングのスイッチである右SHのソン・フンミンと1対1の状況になる。

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 ここで、フェラン・トーレスが質的優位(スピードとドリブル技術)を活かして、ソン・フンミンを抜き去る。このとき同時に、ハーフスペースに立っていたインサイドMFのベルナルド・シウバが大外レーンへ斜めに走り出すことにより、フェラン・トーレスの内側に大きなスペースが生まれ、このスペースへドリブルでの侵入が可能になる。

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 そして、上記で生じたスペースへフェラン・トーレスが斜めにドリブルをしながら侵入し、最終的にシュートで終わった。

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 トッテナムは試合の序盤からハイプレスは行わず、ミドルプレス(守備的プレッシング)と自陣に引きこもるブロック守備を軸としたゲームプランを遂行していた。個人的には、ボール保持を得意とするマンチェスター・シティ相手にこのようなゲームプランはあまり得策ではないように思えたが、結果的に無失点でゲームを終えてしまうトッテナムの守備力には驚きを感じた。
 尚、トッテナムの2ゴールはセットプレー(スローイン)とポジティブトランジション(厳密には、ビルドアップ→ネガトラ→ポジトラ)の局面でのゴールだった。特に2点目の、相手DFとMFのライン間でボールを受けたケインを起点としたカウンターは見事だった。

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