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ポジションではなく、各選手の役割を見る2

21/22 セリエA 第2節
ヴェローナ vs インテル

~インテルに見た、自陣からのビルドアップ~

 今回は、先日行われたセリエA第2節、エラス・ヴェローナvsインテルから、インテルのビルドアップについてチーム全体の戦術から各選手の役割や能力・特徴までを分析していきます。


スタメン(away : インテル)

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(home : ヴェローナ)

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結果 : ヴェローナ 1 - 3 インテル
( 前半 1 - 0、後半 0 - 3 )


インテルの攻撃
(自陣からのビルドアップ)

● 陣形とプレー展開
 インテルは自陣からのビルドアップ時、主に下図のような配置となる。具体的には、右WBのダルミアン、右CBのシュクリニアル、CBのデ・フライ、左CBのバストーニで4バックのように可変する。
 プレー展開としては、敵のマンツーマンプレッシングに対して、後方に立つGKのハンダノビッチやCBから前線へロングボールを送る「ダイレクトなビルドアップ」を行うことが多かった。敵のプレッシャーが弱くなった時など、状況に応じてショートパスによる「ポゼッションによるビルドアップ」も頻度は少ないが行っていた。

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 ここから、各選手の動作から読み取れる役割やプレーから見られる各選手の特徴に注目することで、ビルドアップの構造をより詳細に分析する。

① デ・フライ(CB)
 CBのデ・フライは、自陣からのビルドアップ時、下図のようにシュクリニアルと共にGKのハンダノビッチの脇に立ち、ハンダノビッチから斜め前方でボールを受けられるように立つ。

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 そして、デ・フライは敵味方の配置やスペースなどピッチ上の状況を読み取り、的確なタイミングで正確なパスを出す能力を持った選手である。そこで、GKからボールを受けた際には、攻撃のタイミングと方向づけを司るレジスタとして、敵の第1プレッシャーラインを越える前方へのパスを積極的に狙うというような役割が与えられていた。

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② シュクリニアル(右CB)
 3バックの右に位置するシュクリニアルもデ・フライと同様に、自陣からのビルドアップ時にはGKのハンダノビッチの脇に立ち、ハンダノビッチから斜め前方でボールを受けられるように立つ。

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 ここで、シュクリニアルの特徴として、的確なタイミングで正確なパスを出せるだけでなく、前方のスペースを認知し、そこへ自らボールを運ぶことのできる選手である。そこで、前方にスペースがある場合には、自らボールを運び、敵のプレッシャーラインを突破するという役割が与えられていた。
 下図のシーンでは、右WBのダルミアンがFWラインまで上がることによって生じたスペースへシュクリニアル自らがボールを運び、敵のMFラインの背後に立つFWのラウタロ・マルティネスへパスを送ったシーンである。このようにシュクリニアルの前方へのボール運びにより、敵のマンツーマンプレッシングを簡単に回避することができた。

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③ バストーニ(左CB)
 3バックの左に位置するバストーニは、自陣からのビルドアップ時、下図のように本来SBが立つ大外のエリアへ移動してプレーしていた。

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 バストーニの特徴としては、DFというポジションにも関わらず高い足元のテクニックと前方への推進力を持った選手である。つまり、滑降のプレッシングエリアのとなるサイドのエリアでプレッシャーをかけられたとしても、慌てずにそこから解決策を見つけることができる。そこで、バストーニには、左サイド大外の低い位置にポジショニングし、左サイドのルートから行うビルドアップの起点になるというような役割が与えられていた。

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④ ブロゾビッチ(CMF)
 CMFのブロゾビッチは自陣からのビルドアップ時、最終ライン(デ・フライ、シュクリニアル)の前方のスペースに立つ。ブロゾビッチは、このアンカーのスペースでプレーを行うことが多いが、敵のマンツーマンプレッシングにより、インテルは後方からFWへのロングボールを用いることが多かった。そのためこの場合は、敵MFを引き付け、その背後のスペースを空けるという役割が与えられていた。

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 ここで、この試合では敵のマンツーマンによるプレッシングに対し、ポゼッションによるビルドアップを行うこともあった。その際には、マークを外してボールを受けるために、最終ラインのデ・フライまたはシュクリニアルのポジションに下り、前を向いた状態でボールを受け、攻撃のタイミングと方向づけを司るレジスタとしての役割が与えられていた。

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 特に、ブロゾビッチは足元のテクニックだけでなく、認知→判断→実行の戦術的インテンシティが非常に高い選手で、インテルがポゼッションによるビルドアップを行う場合、ブロゾビッチは必要不可欠な選手である。


⑤ チャルハノール(左IMF)
 左IMFのチャルハノールは、自陣からのビルドアップ時、下図のようにアンカーの位置に立つブロゾビッチの真横まで下りることで、ポゼッションによるビルドアップを行う際にはボールを引き出してビルドアップをサポートする。さらに、前線へのロングボールを用いたダイレクトなビルドアップを行う際には、敵MFを引き付け、その背後のスペースを空けるというような役割が与えられていた。

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 チャルハノールは非常に足元のテクニックが高く、敵を背負った状態から前を向くことのできるスキルを持った選手である。そのため、アンカーの真横まで下り、このエリアで敵を背負った状態で前を向くことが出来れば、たったこの1プレーでプレス回避成功となる。


⑥ バレッラ(右IMF)
 右IMFのバレッラは、自陣からのビルドアップ時、下図のようにWBのダルミアンが高い位置にポジショニングした際には内側のハーフレーンに立ち、一方、ダルミアンが低い位置にポジショニングした際には前線の大外レーンに移動するというポジショニングの役割が与えられていた。これは、前線の大外レーンに必ず1枚を配置することで敵SBをピン止めするという狙いがあるように思った。

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 さらに、バレッラがハーフレーンにポジショニングする際には、下図のような形でボールを受け、有効なエリアで前を向いてプレーするというシーンが見られた。バレッラは戦術的インテンシティが高い上に、相手の背後へ正確なスルーパスを出すことができるという特徴を持つ選手である。バレッラにこの位置で前を向かれてしまったら、相手にとって非常に危険となる。

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 ダルミアン(右WB)
 右WBのダルミアンは、自陣からのビルドアップ時、下図のように右サイド大外の低い位置にポジショニングすることで右サイドからのビルドアップのルートを確保するというような役割が与えられていた。

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 さらに、低い位置に留まるだけでなく、最前線の大外レーンまで上がることで、左サイドのペリシッチと共にFWラインに幅をもたらし、敵SBをピン止めするという役割も与えられていた。また、右IMFのバレッラとポジションが重ならないような振る舞いも見られた。

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 このように高いポジショニングを取った際には、後方からFWへのロングボールを用いたダイレクトなビルドアップでFWが競ったボールに対し、サイドから敵最終ラインの背後を狙うというプレーが多く見られた。

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⑧ ペリシッチ(左WB)
 左WBのペリシッチは、自陣からのビルドアップ時、常に左大外レーンの高い位置にポジショニングし、FWラインに幅をもたせ敵SBをピン止めするという役割が与えられていた。

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 そのなかで、下図のように敵のマンツーマンディフェンスに対し、敵最終ラインの背後を取るように内側へ動きマーク外すことで、ダイレクトなビルドアップを行う際のロングボールのターゲットにもなっていた。

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⑨ ラウタロ・マルティネス、ジェコ(FW)
 FWのラウタロ・マルティネスとジェコは、自陣からのビルドアップ時、後方からのロングボールに対して、下図のようにお互いが縦関係になり、ロングボールのターゲットになるという役割が与えられていた。特に、ヴェローナはマンツーマンによるプレッシングを行うため、一方が後方に下りることで敵CBを引き付け、その背後の最前線のエリアでもう一方が1対1となる。この状態で最前線に立つ選手がロングボールを収めることが出来れば、一気にゴール前まで攻めるチャンスとなる。

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 さらに、ジェコに関しては下図のように中盤ラインまで下り、ボールを引き出すというプレーも多々見られた。この際には中盤のチャルハノールやバレッラとポジションを入れ替えることで敵のマークを混乱させることが出来ていた。

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 現代のサッカーでは、配置やプレー選択の流動性が非常に高く、フォーメーションやシステムはもはや関係の無いものになってる。そのため、対戦相手を分析する際には、各選手のポジションよりもタスク(役割)に注目するべきである。
 さらに、これは自チームにおいても言えることで、選手がシステムに合わせるのではなく、システムが選手に合わせるべきである。つまり、タスクは選手に適合しており、システムや配置は個々の選手がそのタスクを無理なくこなせるように設計されるべきである。このとき、選手の特徴を引き出すためにはどのような機能やタスクを与えるべきかという発想が重要となる。

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