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【読書記録】スモールワールズ/一穂ミチ

 風に漂う金木犀の香りを感じながら朝と夕方保育園の送り迎えの自転車を漕ぐ。ああ、大好きな季節だと思い、足速に過ぎ去ってしまうこの時期をしっかり味わいたいなと感じています。そして、読書の秋も満喫したい。この秋は、新たな本というよりも、これまで読んだ本をもう一度ゆっくり味わいながら記録をつけていきたいなと思っています。

 前回に引き続き、こちらも短編集です。
 一穂ミチさんの作品を読んだのは今回が初めて。本屋大賞へのノミネートで気になって手に取りました。この本は作品によって読後感が異なり、一穂さんの作風の多様性に息を呑みました。人間の欲望や怖さといった陰の部分でモヤモヤ、ゾワっとした感覚を残す作品もあれば(ネオンテトラ、ピクニック)、家族愛を描いたり、辛くても結末に明るい光が差し込むような陽の印象を残してくれる作品(魔王の帰還、愛を適量)もあり、そのどちらの要素も含む複雑な余韻を残す作品(花うた、式日)もあります。それらが良いバランスと順序で並べられていて、次はどんな世界観なんだろうとページをめくる手が止まりませんでした。
 実は最初の「ネオンテトラ」を読んだ時は、「これは、私の好きな作風ではないかもしれない..」と感じたのですが、次の「魔王の帰還」を読んだ時に「あれ、こういう感じの作品もあるんだ..」と心を動かされ、その後はどんな世界観なのかなと好奇心が芽生えていました。
 さらに、一つ一つの作品に繋がりがあり、それを見つけた時のハッとした感覚もたまらない。短編集ではあるけれど、それぞれの物語の繋がりは、家の灯りの数だけ様々な物語があるように、まさに私たちの生きる世界そのものなのでした。

 私の好きな作品は、「魔王の帰還」と「愛を適量」です。どちらも主人公は挫折を経験していますが、家族の愛に心が癒され前向きに歩いていくストーリー。個人的に「魔王の帰還」の主人公のお姉さんのキャラクターが大好きです。
 「魔王の帰還」はコミカライズされていて、「愛を適量」は光石研さんと土村芳さんの出演でPV化されているようです。

 講談社の書籍PRページもすごく充実していて、本編未収録の「回転晩餐会」という特別掌編を読むことができます。この作品も短い中で一筋縄ではいかない物語の展開に驚かされ、心が揺さぶられます。

 まだまだ引き出しがたくさんありそうな一穂ミチさんの作品、他にも是非読んでみたいなと思っています。

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