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【読書記録】ギフト/原田マハ

 私は短編集が好きです。育児や仕事に追われていても、短編集ならちょっとした隙間時間に手に取れる。読んだ後には新しい感情を湧き上がらせてくれて、日常が彩って見える。それが今の自分にとって、とても心地良いのです。長い小説を読むと没頭してしまって、他のやるべきことに支障が出てしまうこともあるので、十分時間が取れない期間は短編集を読んでいます。

 この本は、併録されている「ながれぼし」以外の20の物語はそれぞれがとても短くて、5分あれば読めてしまいます。一つ一つの物語の余韻は甘酸っぱかったり、温かかったり、爽やかだったり、どれも私の大好きな感覚。私の持っているのは文庫版ですが、紙の質感や美しいカラーの挿絵が文庫本とは思えない贅沢さで、本好きとしては、手に取るだけで癒されるタイプの本です。
 主人公はどれも女性で、年代はおそらく20代後半〜30代前半ぐらい。自分も今までに経験してきた瞬間や感覚が多く、共感できる場面が多々あり、やっぱりあの頃って楽しかったな、良かったな、と懐かしい気持ちになります。私が一番好きなのは4番目の「輝く滑走路」というお話です。

 バス停を降りてすぐ、赤い瓦屋根の自宅までずっと続く長い一本道。田んぼの中の畦道が、子供の頃、大好きだった。
 夏休み、友達と自転車で走るその道は、デコボコだけどまるで滑走路。
広々と明るい青空の真ん中へ、私は風をきって飛んでいった。

原田マハ:ギフト「輝く滑走路」より

 傷付いて、東京から久しぶりに実家に帰省した主人公。
 私も社会人になって5年位は何かあると帰省していて、子供の頃大好きだった風景や家族に癒されて、「また頑張ろう」と気持ちを奮い立たせて新宿行きの高速バスに乗ったものです。その頃の自分と重なり、最後もう一度飛ぼうと助走を始める主人公に「頑張れ!」とエールを送りたくなりました。

 同じ瞬間を別の主人公の目線から描いている「コスモス畑を横切って」「茜空のリング」「小さな花束」の3つのストーリーも良かったです。モチーフになっているお台場の観覧車がもうなくなってしまったというのがとても寂しいけれど。

 20代後半ぐらいの時期は、色々なことで揺らいだり、孤独もあったり、難しい年頃だと思うのですが、今思い出すとなんだか眩しい。そんな時期の様々な出来事が丁寧に切り取られ、爽やかに心の中に沁み込んでくる、そんな短編集(ギフト)でした。

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