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Photo by
htohsaki
縁は異なもの味なもの 長野県
荷物を載せる後ろ姿、無造作に席に置かれた文庫本、思わず声が出る。
こちらを向いたその時、ブックカバーを外してみせる。
「珍しいですね、ベストセラーでもないのに」
私は初めての一人旅、あなたは故郷の友人の結婚式。
機内の隣同士、並んで同じ本を広げる人がいるとも思わず、見ず知らずの人に、似た思考の癖を感じてしまう。
「松本は大きな西瓜が有名なんですよ」
「旧松本高等学校も気に入るんじゃないかな」
「よかったら深志神社の湧水も」
普段は話すの得意じゃないんですけどって、故郷を愛する気持ちが溢れ出したのはこの本のおかげ?
準備してきた場所はすべて取り払い、会話に出た場所を辿ってみる。旅の感想を伝えるために。
連絡先も聞かずに別れたけれど、あの本を読む人なら、きっと帰りも同じことを考えているはず。
ほんの数時間、袖擦れが二度も重なったなら、今度は私が話す番です。偶然が何層も合わさったこの日、もうひとつの旅が始まる予感。
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