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だいじな大事なあなたたちへ 「已己巳己」(いこみき)

新緑の頃、旅番組に映る懐かしい顔。立派な肩書、整った髪に恰幅の良い体。あれからずいぶん背が伸びたのね。

穏やかな似たもの同士、突如現れた転校生を「だいじ」って栃木の方言で受け入れたふたり。落ち葉を集めて顔を描き、湖に糸を垂らし、色鮮やかな季節を過ごした。他にも転校したけど、今もつながっているのはあなたたちだけ。

華やかに彩られたいろは坂の途中、顔をのぞかせる小鹿、懐かしい湖。部屋に置かれたウェルカムフラワーには馴染みのある、けれどあの頃よりも丁寧な文字。彼と同じ苗字になったあなたの顔にも残る面影。

二十数年ぶりの白く濁る湯は、体の中心を割いた私の胸の傷を隠す。あなたはあえて口にしなければ分からない傷を発露する。チリチリと熱いお湯に刺激されたかのように。

紅葉が燃える季節、大切なものを失った「已己巳己」(いこみき)な三人。来年もまたここで会うと誓う。見える傷も隠れた傷も、この熱い湯で癒える日が来る。


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