モン・サン・ミシェルの引力
いろんなところを旅してきたけど、大地が持つ磁場に引き寄せられるって、あると思う。
いくつもあちこちにあるわけではない。思いつくところでは、インドのドンガルカル近くの山だったり、イギリスの湖水地方ケズゥィック近郊の丘。ブルターニュのなぜかたどり着いてしまった小さな村といったところが思い浮かぶけれど、強力なところがモン・サン・ミシェルだった。
思い返せば、ぼくがはじめて聖ミカエルの山=モン・サン・ミシェル寺院を知ったのは小学生の時。1970年代とかなり昔のことだ。
岩手の山あいの小さな町の本屋で手に入れた、一冊の遺跡や歴史的建造物の写真集。その中の一枚がその寺院だったのだけれど、その威容に衝撃を受けた田舎のコドモ(ボク)は、いつか絶対にこの目で見てやるぞ‥.と、写真を見ながら下手くそなモンサンミシェルを描いていたものだった。笑笑
大人になり、旅にふらつき、現地に立ったその時以来、描いた聖なる山の絵は数十枚をくだらない。
描くと嫁入り先が決まり、手元にあるのは大きなサイズの一枚だけだ。
昨今、聖地巡礼という言葉が、日本では本来とは違った意味で使われているけれど、「さまざまな良き出会いを引き寄せる場」と考えると妙に納得できる。
子供の頃のぼくを引き寄せた聖なる山の引力は、時間を越えてなお様々な出会いをぼくにもたらしてくれている。
そんなぼくの描いたモンサンミシェルの絵を見てくれた方から、「以前見た絵が忘れられない。描いてほしい」と、小さな絵=ちび絵のオーダーをいただいた。(感謝!)
その方からお聞きしたモンサンミシェルでのエピソードは「ああ、やっぱりあまたを引き寄せる所だよなあ」と頷くものだった。
先日そのお客様から架けられた絵の写真が届いた。
嫁入りしてかけられたお部屋の壁紙もなんと素敵なこと。
子供の頃からぼくの中に刻み込まれたモン・サン・ミシェルはこれからもいろんな縁を引き寄せてくれる引力磁場に違いない。
絵は小さな二次元の世界だ。だけど、絵の向こうは決して閉ざされた世界じゃない。見る人の経験という引力が働いた四次元空間が広がっているのだと思う。
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