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ネイキッドチャイニーズガールと散歩と僕
僕は散歩が好きだ。散歩には、道徳がない。
なにかの記事によると
1万歩、だいたい7kmくらい歩くと200kcalから300kcalを消費することができるらしい。
それは、例えば、お母さんに温泉旅行をプレゼントしたいと思いながら歩いても、道ゆく女子中学生をレイプしたいと思いながら歩いても
1万歩に対する消費カロリーが200kcalから300kcalであるということだ。
歩くのには才能がいらない。
勉強みたいに親の遺伝子が影響することもなければ運動みたいにチームメイトとの交流や特別な努力も必要ない。
ただただ、右足を出した後に左足を出していればいい。
どんな金持ちもヤリチンも貧乏も、みんな平等に1万歩のウォーキングで200kcalから300kcalを消費する。
身長や体重による違いはあるが、努力が報われないことは絶対にない。
僕はたまに、大久保公園付近を歩く。新宿歌舞伎町、トー横と呼ばれる広場から1、2本くらい裏に入った場所
そこには立ちんぼと呼ばれる野良の風俗嬢が突っ立っている。
突っ立っている女の子を周囲の男たちが品定めしていて、買いたくなったら女の子と価格交渉をする。交渉が成立すると2人でホテルへ向かう。それだけ。
援助交際の待機場所として、大久保公園は使われている。
遊ぶ金は欲しいが、風俗店に入ったりせず少しでも人間関係を簡略化したい娼婦と
サービスが悪くなろうが少しでも安く射精をしたい消費者が公園にたむろしている。
人間関係が一切排除されて経済が成り立っている、僕の理想郷がそこにはあった。
男も女も、どんな人間でも関係ない。思想も、態度も、趣味も、歩んできた人生も関係ない。
娼婦がスマホをいじりながら突っ立っている。彼女が何の意味もないスマホゲームをしていようが、高尚な文章を読んでいようが恋人とLINEをしていようが関係ない。
ただただ、膣価値と金銭が釣り合えばペアになってホテルに消える。トランプのような単純明快さが心地いい。
仕事ができない。ピンとこない。興味も持てない。普通に就業する能力もないから転職しようにも何をやっていいんだか分からない。
ジグソーパズルのなかに製造ミスで1つだけ紛れ込んだ小さいピースのような存在。
凸凹が噛み合わないどころか、そもそも規格が違うように思う。
自分の感覚が信じられず、
「普通はこうじゃん」が分からなくなったせいで。
子供の頃には出来ていた「ガキの使い」すら出来なくなっている。
普通はこうだよ。みたいな感覚や、思想や、能力。そんなものが関係ない場所を、月曜日から金曜日までずっと求め続けている。
そんな僕にとって、人間関係が一切排除されて経済が成り立つ「立ちんぼ」というシステムを眺めながら歩く時間に非常に心地がいい。ストレスがない。
大久保公園の周辺を歩いている。
この日は歩きながらマッチングアプリをしていた。仕事場で求められる能力と同じものを求められるのは辛いけど、彼女が欲しいんだから仕方がない。
どうせ僕なんて最後は孤独に死んでいくんだろうから。それなら、
「マッチングアプリもやってみたんだけどダメだった」
そういう栞を20代に挟んで、自殺する30代や、自然死する90代を迎えたかった。
30を過ぎた自殺なんて儚さもクソもないから、だったら、できることはやってから諦めるかどうか決めたかった。
社交辞令と「普通はこうじゃん」のみで構成されるマッチングアプリは辛くて、
部屋でひとりメッセージを返していると気が狂いそうになる。だから、立ちんぼ経済を眺めながらメッセージを返す。
無難な文章を組むのは苦手じゃないから、ネットの評判で言われているような、誰からも「いいね」が返ってこない。みたいなことにはなってない。
プロフィール文章と写真を作るのは上手くいったんだと思う。
反射的に言葉を返さなければならない人間関係が苦手なだけで、文章問題にして解かせてもらえば ある程度の点数はとれる。
ただただ、プロフの文章を読んで期待されている自分を裏切らないようなメッセージを考えるのが苦痛であるだけ。
サラリーマンとして働いておきながら、社会が嫌いだといったり。立ちんぼ経済が素晴らしいと言いながらマッチングアプリをやったり
どこにいても、そこにないものばかりを ねだる 中途半端でわがままな自分に嫌気が差す。
でも、生きていくためにはサラリーマンでなければならなくて
死んだり、街の名物おじさんになる前に、「普通の人間」に悔いを残さないためにマッチングアプリを頑張り抜かなければならない。
大久保公園にいる人間のなかで、僕だけが、その経済に入り込めていない。
膣価値と性欲と金銭だけで構成された世界のなかで、僕だけが、普通の経済をやちゃってる。
そんな自分が恥ずかしく、じゃあ女でも買ってみようかと思うけど、そんな風に性欲を使えるような性体験を僕はまだできていなかったし、カネもなかった。
恋愛経験のなさが、こんなところでも邪魔になった。
お笑い芸人をみて、俺は世捨て人はなれないなって思いながら、だからこそ憧れの目線でお笑いを楽しめているように
眩しいものとして、大久保公園にいる立ちんぼと消費者をみていた。
もちろん歯痒いし、情けなかった。でも、眺めてしまう。憧れてしまうくらいに、単純で心地がいい眺めだった。
マッチングアプリのメッセージを全て返し終わり、食事のアポイントを2件決め、来週もまた振られに行く。食事のアポイントをとることが、振られる前振りでしかないとも理解しているけど
それでも僕は、現世に悔いを残さないため、それだけのために、マッチングアプリでメッセージを交換する。
大久保公園で女を買っている誰よりも、僕は、生きることに固執しているのかもしれない。
こんなに悩んでいることが、正しいのか、分からなくなる。情けない気持ちでいっぱいになる。
スマホをみると、僕は、2万5000歩、歩いていたと書いてあった。
500kcalを消費した。その圧倒的な事実だけを握りしめて、僕は、休日を終えた。また明日から、「僕が正しくない世界」での日常が始まる。
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