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拝啓、3年D組にいたクソつまんねえヤツらへ


拝啓、という書き出しは何となく手紙やらアンジェラやらを想起させる。

拝啓、この手紙、読んでいるあなたは。どこで何をしているのでしょう。

この手紙とやらを書いた15歳の僕は

サンバカーニバルでエッチな衣装を着た女子大生を撮影するために朝の7時から現場で最前線を確保する僕や

ひとりでレジャープールにテントを張り水着の女子高生を観覧していたら警備員に補導されて遊園地を出禁になってしまっている30歳の僕を見て、どう思うんだろうか。

なにしてんだよ!と憤る気持ちもわかるけど。

怒る前にまず、大久保さんが鼻を噛んだティッシュをオマエが握りしめていることに疑問を持った方がいい。

そんな鼻水まみれのティッシュを口に含みながらガラの悪い声を出されても困る。

30歳の僕は、明らかに、15歳の僕が立ちすくんでいる道の延長線上を歩いている。

15歳の僕が好きなものはオンナの身体で、嫌いなものはクラスで騒いでいるクソつまんねえ奴らだった。

30歳の僕が好きなものはオンナの身体で、嫌いなものは職場で幅を利かせている資本主義の亡者たち。

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教室にいた僕は、当時、「おもしろいやつ」であることに必死だった。

面白い人間であることだけが、僕が、ここに存在していてもいい理由で

それがなくなって、また、あの頃のように虐められしまうのが怖くて。

僕は、頭のおかしい性欲の権化として笑われることに必死だった。

多分、動物園で、コンクリートで作られた丘をやたら登ったり降りたりドラミングをしたりしているゴリラは

他のゴリラが毛並みを褒められたりした場面を目撃しちゃったのではないだろうか


僕のような欠陥品は、檻の外から人間に指をさされて笑われることにすら「努力」が必要で

15の僕は、頑張って笑われようと

女生徒が鼻を噛んだティッシュを食べたり。

クンニリングスと落語を掛け合わせて教室の片隅で披露したり。

かなり大げさなドラミングを繰り返していた。

僕は必死だった。

そして僕は、間違いなく。教室という狭い世界で、誰よりも面白い人間であった。

赦されたという感覚が、強く、強くあり。僕はそれを自尊心と呼んだ。

15歳の僕は、サッカー部やら、バスケ部やら、タバコを吸っていたりする奴らが

「存在価値」で得た生存権を振りかざし、教室でクソつまんねえことを言いながら笑っているのを見ながら

強烈な嫉妬を覚えたものだった。

僕が必死に生き残ろうとしている、教室という場所を、ナメた態度で蹂躙する彼らに抱いていた嫌悪と嫉妬と少しばかりの憧れは

その居心地の悪さは、僕の学生生活の全てであり、青春であった

正確には、僕の脳がGoogleだったとしたときに、「青春」とキーワードで検索をかけ、誤表示としてヒットする記事が、あの、嫌悪と嫉妬と憧れであるのだと思う。

浦部君が、担任に指名されて席を立つ。

彼は教科書を目の前に掲げ、過度に低い声で英文を朗読。教室は笑いに包まれた。

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先日、映画版スラムダンクを見に行った。

大学生の頃に原作を全巻読んで。人並みに感動していた歴史があり。熱烈なファンというほどではないけれど、見といて損はないだろうと思いながら前売りチケットを予約した。

コーラとポップコーンを購入して、いそいそと劇場に入ってみると、老若男女、さまざまな客層が、かなりの期待を乗せて上映を待っている姿がある。

年齢にバラつきはあれど。劇場にいたのは、当時、3年D組を蹂躙していた、クソつまんねえ彼らの15年後であった。

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スラムダンクとは彼らの青春の象徴なのだと思う

そんな彼らが、中学生当時に自己投影をしていたのが、桜木花道だとか。赤木剛憲だとか。宮城リョータだとか。

バスケットボールをダムダムやりながら頑張って走っているスラムダンクの登場人物だったらしい。

スラムダンクの登場人物が映画館でヌルヌルと動いているのを見て。

僕は意外にも

頑張れ!!と手に汗を握っていた。結果なんて当たり前に知っているのに、それでも、頑張れ!と思った。

30歳の僕は、赤木剛憲だとか。宮城リョータだとか。彼らに、職場で必死こいて居場所を作ろうと藻搔いている自分自身を重ねていたことに気付いた。

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上映が終わり、映画館を出て。長細いエスカレーターを下り、外に出ようとする最中

あの時間にスマホを触るのは粋じゃないという感覚が自分の中に少しあり

ツイッターなんかを開くのを控える

車線が片道しかないというだけの理由で格段に落ち着きを纏ったエスカレーターに身を任せながら

クソつまんねえ中学生の彼らと、スラムダンクについて考えてみた。

もしかしたら、当時、彼らは、自身の存在価値を勝ち得ようと、グラウンドや体育館で、必死に走り回っていたのではないだろうか。

存在価値でグラウンドを蹂躙する先輩や運動神経のいい同級生を眺めながら

必死に、「たくさん走って、たくさん声を出して、たくさん頑張る」ことで存在価値を勝ち得ようと藻搔いていたのではないだろうか。

今日、彼らは、そんな中学生時代の自分との邂逅を果たしたのかもしれない。

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映画版スラムダンクを見た僕は、職場で、自分の居場所を作るのに試行錯誤している。しているが故に、手に汗を握った。

それは、彼らが、原作版スラムダンクに自己を投影した原理となんら変わらず

僕も、彼らも、本質的な部分では同じ人間であったのかも知れなかった。

僕が教室で勝ち得ようとした生存権は掛け捨て

彼らが部活動で勝ち得ようとした生存権は、そのまま社会に持っていけるもの

それだけの違いのように思えてならない。

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たとえば、もし

彼らに部活動のようなものがなくて

彼らも、教室で生存権を勝ち得なければならなくなったら

そういったレースに強制参加をさせられたら

どうなっていただろう。

僕と彼らは同じ人間ではあるが

そういったレースに参加させられていたとしたら。浦部君は、どのように教科書を読んだだろうか。

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浦部君が、担任に指名されて席を立つ。

彼は教科書を頭の上に乗せ、過度に高い声で英文を朗読。

苦笑いした担任は、後ろに座る僕を指名する。

僕は、ガリガリと椅子を引き、起立。平坦な声で次の文章を朗読

担任に促され、着席。

僕が制服のズボンにまっ茶色のクソを落書きしていることに気付いた数名の男子生徒が笑いを堪え

椅子をガリガリと引いた音に乗じて、「I'm a sex machine」と呟いたことに気がついた隣の席の陰気な男子は、堪えきれず。クスクスと笑う

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拝啓、3年D組にいたクソつまんねえ奴らへ

浦部あつし君へ

僕は、なにがどうひっくり返っても。君より面白い。君は、つまらない。

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