その17 ◆ステップ9 天王星への旅 9. Thanks,Forgive(感謝と赦し)
◆ 魂のアンチエイジング 天王星への旅
ピカリィはクリオネのように羽ばたきつつ、ついっ、ついっとリズミカルにみんなの周りを飛び回ります。
まるで、ピカリィ自身、これから起こることが楽しみでしょうがないみたいです。
『ここからのふたつは、超強力な魂のアンチエイジングのレッスン。それだけに、すぐには実行できないカモ。でも、もしもこれを身に着けたら、死ぬまでタマシイはピカピカでいられるヨ。ぜひ、ためしてほしいナ。どう? やってみる?』
うーん、とママが額にしわをよせました。
「試すだけでも、なんて化粧品か健康食品の販売みたいねえ。なにか、そこまでお勧めする理由があるわけ?」
『うんとネ…………』
はずかしそうにピカリィはひらりと一回転します。
『地球の魂オーラが、澄んでくるから』
「地球の魂オーラ?」
『魂オーラはいろんなものにある。動物にも、植物にも、モノにも、場所にも。そして地球にも。ピカリィたちみたいなエネルギー体は、地球に近づくときには地球オーラを通過すル。さいきんは、いろんな電波が飛び交いすぎてる。キモチよくて、まろやかなオーラは減ってきた。ガサガサ、バリバリ。ザラザラで、みんなの声も聞こえづらいし、ピカリィたちの声も届きづらいハズ。できれば、もっと地球オーラには澄んでいてほしイ』
よくわからないながらも、みんなはうなずきます。
『人間の数がこれだけ増えたのだから、地球の魂オーラがよどむのも無理ないヨ。けれど、地球の魂オーラがよどむと、人間にもいいことなんてない。悪いオーラを薄めるために、いっぱい魂のアンチエイジングできる上級者コースも実践してほしいナ』
「ふーん。上級者コースは、ほかのとどうちがうの?」
ケンタがたずねます。
ピカリィは、ケンタのほうを向きました。
『今までのは、自分のタメ。つぎのふたつは、自分と、まわりのタメ。おおきくなると、地球、そして宇宙のタメ』
「うわあ。おおげさだなあ。上級者コースって、そんなに大変なの?」
『わからない。人によるヨ』
ふうむ、とケンタは考えこみました。
「ボク、難しいって言われると、燃えてくるんだけど」
「それに、アンチエイジングが超強力って言われちゃうと、気になるわよね。地球の魂オーラのことまでは、わからないけど」
「パパは興味あるな」
「そうよね。ママも、ここまできたら、やるだけやってみたい!」
「それじゃあ、乗った!! 行けるとこまでいってみよう!」
そういうわけで、みんなはさらにディープな旅へと向かいます。
宇宙船はスーッと加速を始めました。
今度は、とんでもない高速で移動しているみたいで、スクリーンにはSFのタイムトラベルのような抽象模様が映っています。
しばらくして宇宙船が静止すると、つるつるとした星がスクリーンにあらわれました。
うすいリングをまとったその星は、ガスと氷からできたオブジェのような美しさです。
見ているものの心を映し出すような、まさに宝石のような星、天王星。
傷ひとつないその美しさは、歓喜の涙のようにうるおっています。
マザーヴォイスが言います。
《次は、魂のよどみを抜き再生する、究極のアンチエイジングのレッスンです。呼吸のように自然に魂を活性化させていきましょう…………》
またたきをするように、宇宙船の中の照明がふるえ、そして、暗くなりました。
☆ ステップ 9. Thanks,Forgive(感謝と赦し)
《今・此処にあることに感謝し、思い通りにいかないことを赦します。
学びに感謝し、今、自分が生きていることを感謝します。
日々のさまざまな怒りや苦しみを手放していきます。
生まれるとは死ぬこと。欲するとは失うこと。
愛することは痛みをともなうこと。
それを、受容しては、吐き出していく時です。
Let it be,Let it go.
呼吸できること・生に感謝し、
死ぬこと、老いていくことを赦します。
ラッキーなこと、幸せなことに感謝するのは楽しいしかんたんですが
その逆はかんたんとは言えません。
ネガティブなことで、気づきを与えてくれたことに感謝して赦すのは、
エネルギーもいるし、難しいですが、そのデトックス効果は絶大です。
感謝と赦しのクセがつくと、うらんだり無感動だったり
ぶすっとしたりして過ごすのとは大違い。
カラダ的にも、タマシイ的にも
莫大なアンチエイジング効果があります。
何かの感情にとりつかれたり、
怒りがわいた時には、条件反射のように試してください。
感謝します、許します。
この世界に感謝し、この世界を赦すのです。
感謝と赦すのと、どちらが先でもかまいません。
感謝と赦しのクセがつくと、ほんの数日で、
魂のくもりが取れてピカピカになってくるのが自覚できます。
日々を過ごしていると、知らず知らずのうちに
いろんな汚れがエネルギーの通り道にこびりつき、
こぶのようになってスムースな流れをさまたげます。
これの魂の詰まりを治すパイプクリーナーのような作業が「感謝と赦し」です。
繰り返すごとに、魂の汚れや思い込みが取れてきます。
余裕のある時には、自分だけでなく周囲の人々にも、
この世界そのものにも魂をそそぎ、感謝と赦しをしてください。
そして、あなた自身も、この世界の一部として
感謝され、赦されていることを意識してください。
自然にそれが癖になり、魂は自浄作用を備えはじめます。
日々、みずから若返りつづけるのです』
ぼやあっ、と、宇宙船に明かりがもどってきました。
「なぁるほどね」とママが言いました。
「これは、たしかに難しいわあ。生きてることや若さに感謝はしても、年とっていくことや死ぬことを赦すって、なかなかできないわよ。あと、ひどいこととかムカつく人をうらむのは簡単だけど、嫌な思いをしたのに、気づきに感謝して赦すなんてハードル高すぎるわよぉ」
「いや、パパはわかるな!」
小鼻をふくらませ、得意そうにパパが言います。
「入社したてのころ、パパはさんざんつらい思いをしたよ。こんな会社やめてやるって、毎日思ってたさ。毎回なんとかギリギリで危機をくぐりぬけて。あの日々があったから、今、ちょっとは偉そうに部下たちに意見なんて言えるんだ。だから、あの無茶苦茶な日々には感謝してるし、赦せるよ。人生ってマニュアル通りにはいかないから、臨機応変な対応力とメンタルとか、きちんと謝れる度胸とかって、試練の中からしか生まれないのかもね」
「そうねえ。あの頃のパパ、たいへんだった。帰宅するのも、いつも終電ギリギリで」
ママのため息で、パパはざわざわと当時の感情がよみがえってきました。
「そうだったな。リアルタイムではてんやわんやで、感謝と赦しどころじゃなかった。当時、何度、上司に辞表をたたきつける妄想で、自分をなだめていたことか…………」
ピカリィはカラダを細く伸ばし、くるりと身をひるがえし、宙返りをしました。
『ガンバッタんだね、パパさん』
うねうねと波動が流れ出す、やわらかなクラインのツボのようなカタチにふくらんだピカリィから、やわらかな白い光があふれだしました。
『つらいトキには、もう何も考えずに呼吸のように《感謝します、赦します》って言う。それだけでも、感情のパイプのつまりをなおす効果はあるヨ。でも、それが無理なトキは、まずはココロやカラダのメンテナンスのほうがダイジ』
ピカリィが柔らかな光をパパに向かって放ちながら言います。
「そうだよなあ、ああいう修羅場では、ほんとそれすら精いっぱいだよな。徹夜続きで会社に泊まり込んだり、ちゃんとベッドで眠ることすらままならないくらいだし」
『そう。感謝と赦しはいつでもだれでもできるものじゃナイ。難しいネ』
ピカリィが、あやまるように言います。
「ねえねえ、ほんとに何も考えずに《感謝します、赦します》って唱えるだけでもいいの?」
マコが興味津々で聞きます。
ただ身に着けて寝ているだけでヤセるとか、飲むだけでキレイになるとか、その手のラクチンなうたい文句には目がないマコなのです。
『そう。《感謝します、赦します》って唱えると、呼び鈴をおされたみたいに宇宙創造主から、返事のエネルギーが送られてくル。そのひとの魂の性質によって、送られてくるエネルギーの質や量はちがうけどネ』
「うーん。いくら簡単でも、そこまでくると、なんかうさんくさいなー。インチキ宗教っぽいっていうか」
『マコさん、魂のアンチエイジングや宇宙創造主のパワーは、宗教じゃナイ。宇宙や、星や、命があるみたいに、ただ、存在してル。でも何かを信じなきゃいけないわけでも、決まりもないヨ。感謝と赦しも、わかりやすく言ってるだけ。気持ちが同じなら、ぜんぜんアレンジしてかまわナイ。たとえば、ワタシはいまはピカリィと呼ばれているケド、名前は記号。別のトキに、ほかの名前で呼ばれてもイイ。それと同じ、宇宙創造主も、なんと呼んでもかまわナイ。自分のセンスで宇宙パパでもビッグマザーでもなんでも。ちゃんと呼びかけられるなら、名前すらイラナイよ』
「ふぅーん、ずいぶん自分アレンジ可能っていうか、フリーダムなのね。まあ、だったら気軽にできるかな」
マコはにっこりします。
「それに、唱えるだけで効果って、あれよね。コトダマ。美容テクニックでもあるのよ。鏡に向かって、毎日、私は有能でかわいいですっていうのと、私は無能でブスですっていうのとでは、半年後、ぜんぜん顔つきが変わってくるって。自分の深層心理にすりこみしてるって感じ?」
そうだよ、というように、ピカリィはふわっと光ってみせます。
「…………ボクはね、思い切って、ピートのこと、赦そうかな」
ケンタが口をひらくと、マコがハッとして振り向きました。
「あんた、まだピートのこと、ひきずってるんだ?」
「あたりまえだよ。幼稚園の頃から兄弟みたいにして育ってきたのに。長生きする犬もいるのにさ、先天性の病気で、たった五年でしんじゃったんだ」
「あのときは………私だってつらかったわ。みんな大泣きしてた」
マコの言葉が耳に入っていないかのように、ケンタはすこし頬を上気させながら話をつづけます。
「ボク、たくさん神様にお祈りしたのに、いっぱいいろんなこと誓ったのに、ぜんぜん祈りなんて届かなかった。だからボク、神様なんか信じないし、いっぱいうらんだよ。でも、ピートのことは大好きだし、感謝してる。とってもとっても悲しくて、今でもとっても会いたい…………、ピート。死んじゃったこと、ずっと赦せなかった。受け入れられなかったんだ。でも、もう、やっと、赦します。それで、とっても感謝してるよ。たった五年でも、うちに来てくれてありがとう。ボク、ほかの犬じゃいやだったもん」
言い終わったケンタは、気持ちを吐き出した後のほっとした感じで、緊張していた肩の力が抜け、それと同時にきりりとした表情を浮かべていました。
「そうか…………、ピートは、ケンタのおねだりで飼った犬だもんな。世話も散歩もぜんぶやりますって、誓約書まで書いて」
パパが当時を思い出し、しんみりと言います。
「そうだったわね。世話はほとんどママがやってたけどね」
うっすらにじんだ涙をぬぐいながら、ママが笑いました。
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