その16 ◆ステップ8 金星への旅 Adore,Love (憧れ、愛)

◆ステップ8 金星への旅


 その間も、宇宙船は旅をすすめています。
 しばらくして…………

 今、宇宙船の窓、スクリーンには、ほぼ地球とおなじ大きさで、黄金と琥珀色の艶をたたえた優美な星が映っています。
 見ているとなぜだか胸がざわつき、きゅっとしめつけられる感じがします。
 宇宙に浮かぶ花のような、そんなたたずまいの星、金星にみんなが見惚れていると、 マザーヴォイスが響いてきました。

《強力だけれど一方的に欲しがる、激しい炎のような欲望のあとには、
 魂に、もっと温かみのあるパワーをあげましょう。
 次の課題は、愛と憧れです》
 すーっと照明がリラックスできる乳白色になり、みんなは思い思いの姿勢で宙に横たわりました。
 うっとりと耳に響くマザーヴォイスが、八番目の内容を伝えてくれます。

☆ステップ8.Adore,Love (憧れ、愛)

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《魂のアンチエイジングのために必要な柔軟性
 それはこの「8.Adore,Loeve」から生まれます。

 子供の頃は、テレビで見たヒーローやアイドルになりきり、
 夢見て、ひたることができました。
 純真に愛する対象に近づきたい憧れは、
 すばらしいエネルギー源です。

 でも…… なにかを愛おしいと思う気持ち、素敵だなあと思う気持ちを持てなくなったら、
 魂の老化の進行度は、かなり深刻。
 目がかすみ、耳が遠くなり、感覚が鈍感になってしまい、
 愛や憧れの対象に出会っても、もう反応できなくなってしまうからです。

 魂のアンチエイジングのためには、
 ほんとうに愛するものや憧れられるものがないときにでも、
 ポテンシャルの維持のために、代替品でもいいので
 「何かを愛し、何かに憧れられる能力」を保ってください。

 憧れ、愛をそそぎ、愛を得たいと思う対象は、生き物でなくてもよいのです。
 研究や、美食、デザインの追及やコレクション収集など
 強い執着やこだわりも、あなたの魂を輝かせます。
 それがあたたかくまっすぐな憧れと愛であればあるほど、
 細胞レベルであなたを揺るがし、奇跡をうむのです。

 これが「欲望」と違うところは、愛の対象をあなたが尊重し、
 何かしてあげたい、守りたい、理解して愛をそそぎたい、
 愛し返されたいと思うところにあります。
 この強くて素晴らしい愛のパワーを魂に浴びせましょう。

 憧れや愛からパワーを受け取ったら
 今度は、あなたがちょっとした愛情のおすそわけで
 周りを気持ちよく、楽しくしていく番です。

 魂がカサカサな人は、人とすれ違うときに道をゆずろうともせず
 逆にわざとぶつかってきたり、悪態をついたりします。
 けれど、もし孤独であったとしても、魂に愛のぬくもりがある人は
 にこっと微笑み、キモチよくすれちがうことができます。
 魂に「愛や憧れ」という要素があるかないかで、
 日常は、一年は、一生は、大きく変わるのです。

 この愛のパワーを使えば使うほど、
 あなたの魂はどんどんやわらかくあたたかく、美しく若返っていきます》

 ぼんやりと、宇宙船に明かりが戻ってきます。

「愛や憧れって、あるのが当然みたいに思ってるけど。それがなくなっちゃうなんて、なんか、老化がどうとかより、きっついなぁ」
 マコは、スクリーンの美しい星を眺めながら言います。
「そういえば、高校のクラスメイトにいたよ。めっちゃ醒めてるっていうか、すさんでるっていうか、わざと人に嫌われるようなことしたり、自分を悪く見せてみたり。あからさまに、愛とか憧れとか全否定している感じでさ。なにか理由があったんだろうけど、見ていてつらいなあって。でも私、声とかかけられなくて。その子、途中から学校来なくなっちゃったんだよねえ。今、なにしてるのかなあ」
 ピカリィはやわらかく光り輝くカラダをぷくっとおおきく膨らませハート形になり、きらきらとまたたきました。

『その時のマコさんは、まだ、そのお友達の魂のケアを引き受けられナカッタね。自分を責めちゃ駄目デス』

 ハート形のピカリィのカラダから、おおきな愛の波動がひろがって、みんなを包みます。
 部屋に敵意をもった人がひとりいるとなぜかその場がピリピリするのの真逆で、そこに大きな愛を持った人がいると、その場の空気がほんわかなごみます。
 マコには、ピカリィがどんなに愛にあふれた存在か、どれくらいの愛をもってみんなにに接してくれているのか、いま、わかりました。


「うん。そうだったかもね。ありがとう…………」
 うつむくマコに向かってママが、
「そうよねー、そういうの、ママのころにも、いろいろあったわぁ。思春期って、毎日が台風みたいなものだもの。タフじゃなきゃやってけないわよね。でも、つらいことがあっても、好きなものとか熱中するものがあると救われるわね。ママ、今もドラマの俳優に恋してるし、ドラマのなかでステキなラブシーンがあると、ウキウキしてるもの。ラブシーンを思い返して、しっかりヒロインの顔は私で、ルンルン鼻歌うたいながら」
「えっ。あの、ママの謎の上機嫌は、ドラマの恋のおかげだったのか?」
 たじろぐパパを、ママは肘でつつく。
「なによぉ。機嫌がよくなるんだから、いいじゃない。バーチャル恋愛だし。だったら、パパの憧れや愛は、なんなのよぉ?」
「パパの愛や憧れ? そ、それはもちろん、ママです、ハイ」

『パパさん。もしかして、ママの前では、言いづらい?』

 ピカリィが、たのしそうに光をふるわせます。

『思っているコトをすべてシェアしなくてもイイよ。こうして、魂のレッスンをしていることだけで意味があるから』

「そ、そう?」
 パパは額の汗をふく。
「それじゃ、パパも、憧れとかのウキウキパワーは理解しているってことで。も、もちろん、家族への愛はたっぷりあるし、そこらへんはちゃんとしてます」
「あ、ボクも。憧れとか、そのへんのウキウキパワーは理解してるってことで!」
「あー。ケンタ、だれか、好きな人いるでしょう?」
 マコがひやかすと、ケンタは赤くなって、ぷいっと顔をそむけた。
「ち、ちがうよっ。好きなサッカー選手とか、そういうことだよっ」
「まあまあ。思っていることをすべてシェアする必要はないって、ピカリィも言ってるじゃないか。プライバシーの侵害だぞ」
「わかってるわよパパ。ちょっとからかっただけじゃん」

『…………ミナサン、ずいぶん仲よくなったネ』

 ハート形になったピカリィが、ふわふわと漂いながら言います。

『テラダ家、すっごく親和力たかまった。この場は、すごく愛に満ちてるネ』

「え、そ、そう?」
 嬉しそうにママがほほ笑みました。たしかに、そんなような感じがしていたからです。
『…………でも、もし、もしもいつか、ミナサンがナニかの理由でココロがぺしゃんこになって、穴が開いて、もう愛とかステキな気持ちなんて二度と持ちたくナイ、この世は闇…………なんてピンチのときには《ココロの救急箱》モードの登場だヨ!』
 ピカリィの不吉な言葉に、パパは眉をひそめました。
「えっ、ココロがぺしゃんこ? ふうむ。それは、たしかに《ココロの救急箱》が必要な事態だな」
『そうダヨ、パパ。まさに。救急車を呼ぶレベル。すぐに、止血して点滴しないといけない状態だヨ。カラダのケガなら見た目ですぐわかるケド、ココロのケガは見た目ではわからない。みとめたくなくて、必死にかくそうとするヒトもいる。ココロはカラダをうごかす原動力だから、絶望しそうになったら、生き延びることに集中。セイイッパイのリアルに、しがみつくんだヨ!』

 金星のしっとりした黄金のエネルギーが、しずかに宇宙船の中に満ちていきます。
 うつくしい流れるような鍵盤の音色がひろがってきました。
 ピカリィは、ゆったりとただよいながら歌っています。

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♪♪♪《ココロの救急箱》 8.Adore,Loeve (憧れ、愛)

 たんたんと、ただ、たがやせ!!

 その希望の星は、今はもう輝いていない
 悲しく冷え切っている
 みとめるのはつらい、なにもかも暗い、だからcry_cry_cry
 希望を取り逃がし絶望にとりのこされ、あなたは一人
 人はもともと孤独でロンリィ
 残酷なそのオンリィな事実は変わらない原理

 今できるのは、ココロをあたためるため
 すぎていった希望の思い出ににひたりカタルシス
 もしくは逆に記憶をぎゅっと封印し
 しめやかになにも語らず、ひたすら前を指し示す

 そして今できるのは、たんたんと、ただ、本能に従い
 ほんとうに大切な日常をたがやすこと
 ココロがかちかちに凍り付いてしまわぬように
 ふんわりと空気をふくませる
 すこしずつココロをときほぐし
 ふつうのことをひとつずつこなし
 こなごなに割れたきもちのカケラを日常に吸い込ませる

 傷つきぬいた今、ふつうに出歩き、ふるまい、ほほえむ
 そんなささいな日常のひとつひとつが
 どんなに困難であることか…………

 でも、摂理にしたがい、すこしずつ、たがやすしかない
 大地にひとつずつ鍬をいれるように、ココロをほぐす
 また、新しく何かがそこに根をはり育つ余地を
 なんとかして残す
 次の希望を信じられなくても、少なくともその余地を
 なんとかして未来に託す
 それが、自分への敬意
 失った希望へのせめてもの誠意
 
 自分が裏返るような運命のひどいしうち
 いっそ、もう何も感じたくない透明なキモチ
 でもままた、愛するココロを呼び戻して、リメイク
 柔らかさを、すこしずつ、取り戻していく
 
 凍てついたココロの地面を少しずつたがやし
 せめて、いやしになる萌えるなにかを探し
 ココロぬくもる何かを見つけられれば
 それが日常にひかりと水をあたえ
 つらさ耐え、あたたかいチカラをくれる
 暗さ越え、あたらしい世界を知れる
 あなたがなにかに萌えてほほえめば
 なにか芽生え、ほっこりとほぐれ
 ココロはきっとチカラとりもどす

 だから、たんたんと、ただ、日常をたがやせ 
 絶望と希望のあいだにまたがり
 暗がり抜て魂をあたため輝かせ』

しずかに音楽がフェイドアウトして、ハート形だったピカリィは、しずしずとクリオネ天使のカタチに戻りました。
「なんだか、しんみりしちゃうわね」
 ママが瞳をうるませます。
「愛は、たしかにすごいパワーをくれるけれど、喪失感の反動もすごいものね。欲望がかなえられない、っていうのとは次元が違うわ」
 すると、ケンタがおずおずと口をひらきます。
「ボク………、じつは、いまいちよくわからないんだ。大好きなゲームのフィギュアとか欲しくてたまらない欲望と、手に入れてからの愛情と。どこからどこまでが、どっちなの? 欲望は愛よりもわるいことなの?」
『ケンタくん、いい質問だネ。それぞれ重なるところもあるけれど、両方だいじなパワーだヨ。欲望はものすごく強くて、魂を燃やし、厳しい世の中を生きぬいていくのに必要なパワー。理性をこえた衝動。生き物からイノチをもらって食べ物をいただくことも欲望だし、人が生まれて生きていけるのは強い欲望エネルギーのおかげ。とても大事なエネルギーだヨ』
 神妙な顔でケンタはうなずきます。
 ピカリィは、先をつづけます。
『そして、愛は、ものすごく繊細なパワー。カラダだけじゃなくココロに届きうるおす、大切なエネルギーだヨ。そして、愛には、その相手の幸せを願うキモチが不可欠なんダ。相手が人であればもちろん、もしモノや何かであったとしても、それにふさわしいだけの自分になりたいと願うし、ちゃんと手入れもしたい。相手の魂と自分の魂が、どこかでつながっているんだネ。だから、相手がしあわせだと自分も幸せになれる。ほかのひとが相手をほめたら、自分をほめられたようにうれしいと思う。つらいときに相手のことを思い出すと、ぽっと心があたたまル。あたたかい愛情は魂の美味しいおやつ。魂のアンチエイジングの秘策だヨ』
 うーん、とケンタは考え込みました。
 わかったような、わからないような感じがします。
「でもさ。愛に裏切られたり何かに傷ついてやさぐれちゃうと、しばらくはココロを閉ざしちゃうのも、しょうがないよなぁ」
 ぼそりとパパがつぷやくと、ピカリィは、励ますようにぴかぴかと点滅しながら、元気にリズミカルに話しだしました。
『愛したら愛されたいし、むきだしの感情はとても傷つきやすいから
 傷ついて、二度とココロの損をしたくなくて、
 愛する価値があるのか疑ってばかり、批判してばかり、
 文句いってばかり、愛されたいのに努力せずふてくされていると、
 魂はエネルギーに飢えてひからび、汚く年老いていく。
 人生のかわいく美味しい楽しみが、悲しくどんどん遠のいていく。
 だからチャンスがあったらすぐ萌えて、ココロに栄養あたえて。
 栄養があればどんどんココロもあたたまる。気力もたまる。
 萌えは愛につながる、ココロのエネルギーチャージ!

 だから、栄養補給、愛情補充、
 もしもなにかチャンスがあったら、すかさず萌えて!!
 かわいい猫動画でも、服でも、音楽でも、アニメでも、
 タレントでも、雲や空の風景でも、庭の植木でも、
 ときめいたらすかさずココロのイイネ押して、とりあえず萌えて!!

 もしも萌えすらも枯れきってしまったら、マインド・メンテナンスとの合わせ技。
 いそいで、そんな自分に応援の愛をそそいで。
 自分ダイスキ。自分ダイジに。
 自分のなにか、どこかに萌えて、ちょっとずつ愛をそそいで。
 ぽっと心があたたまるまで、萌えのエネルギーをそだてて。
 魂がよろこび、きっと雰囲気かわってくるから。
 そしたらもっといろいろ関わり、愛のパワーがわかってくるから。
 あきらめずにずっと、そっと、HOTな試み、ココロから続けてみて!』

 マコとケンタはいっしょうけんめいに意味を考えています。
 すると、ママがひときわねっしんに拍手をしました。
「うんうん。わかるわー。ママ、思い出しちゃった!」
「え、どんなこと?」
 ケンタが興味津々で聞きます。
「あのね、むかしむかしね、恋人にふられたとき、ママ、しばらく食欲なかったのよぉ。このママがよ!? なんかのひょうしに涙はぽろりとこぼれるわ、夜は寝つけないわで、世の中真っ暗。とてもなにかに萌えるパワーなんて、なかったの」
「へえー、ママにもそんなことがあったんだ?」
「そうよぉ。ママってけっこうデリケートなんだから」
「で、どうやって立ち直ったの?」
「それは………リバウンドで、すごい食欲がわいてきて。ドーナッツにハマっちゃったのよ。通っていた駅前のドーナッツ屋さんに、すてきなヒトが働いていて。それで、ママもそこでバイトをはじめたの。なんとか振り向いてほしくてね。いっしょのシフトになれるよう周りに協力してもらったりして。けっきょくその人には恋人がいたんだけど。その人にときめいている間、すっごくウキウキできた。生きるエネルギーがわいてきたわ」
「ママらしいな。どうりで、うちのオヤツにはドーナッツが多かったわけだ」
「そうねえ。おかげで、ドーナッツを揚げるのはうまくなっちゃったわ」
「それじゃ、その店員さんに感謝しなくちゃね」
 みんなは宇宙船の中でくつろぎながら、楽しくお話ししています。
『テラダ一家、最初より、ずいぶんうちとけて仲良くなったネ。魂もすっかり柔らかくなって、つやつやしてる。ウレシイな』
 ピカリィがくるくると横に回転しながら、みんなの周りをまわります。
『それじゃあ、そろそろ、魂センサーで、みんなの魂のよどみがどうなったか、見てみよウ』
 ピカリィから青白い光のセンサーが放たれ、みんなを照らします。
「わあっ!!」
 みんなは一様に声をあげました。
 パパの頭のモヤも、ママの背中も、マコの胸のあたりも、ケンタのお腹のあたりにも、もうなんのよどみもありません。
『うそ、なんで…………こんなにかんたんに、魂のよどみってとれちゃうものなの?」
 ママが驚くと、ピカリィは楽しそうに光の波で笑いました。
『それは人それぞれだけど、ミナサンは前向きだったし比較的よどみが軽かったんだネ。あと、たくさん、宇宙のパワーをあびたから、魂がピカピカに若返った。ピカリィも嬉しイ。ここまで来たら、もう合格だネ。テラダ一家に魂エクササイズしてもらってよかったヨ。ミッション・コンプリート!』
 わーい、とケンタくんは歓声をあげます。
「ゲーム・クリアなの? ボクたち、もう、おうちに帰れるの?」
『そうだヨ』
「うれしい…………けど、ちょっと、なごりおしいな。こんな経験、もう二度とないだろうし」
 ママとマコは宇宙船の中を見回します。
「そうねぇ。もうちょっと、若返りパワー、浴びていたいかも」
 その言葉を待っていたように、ピカリィは踊るようにふわふわと浮かびます。
『じゃあ、じゃあ、もう少し、旅を続けて、上級者コースまで行ってみル?』
「え、上級者コースって?」
『それはネ…………』


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