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『源氏物語』現代語訳テキストについて(上)

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 源氏物語を読むには、図書館で本を借りましょう。たぶん、どこの図書館にも源氏物語は置いてあるはずです。貸出、返却の手間がかかりますが、途中で挫折しそうな方は、この方法をオススメします。

どのテキストを選ぶか

 源氏物語の現代語訳は、その話だけでも何冊か書けそうな壮大な物語ですが、手に入りやすそうなものをざっと紹介していきます。

与謝野晶子 「全訳源氏物語」

 角川文庫など多くの出版社から出ています。また、1993年に著作権が切れているため、青空文庫で読むこともできます。(※青空文庫

 与謝野晶子の源氏物語の現代語訳は、1度目の「新訳源氏物語」と「新新訳源氏物語」があります。「新新訳源氏物語」は、1938年10月から1939年9月にかけて全6巻で金尾文淵堂から出版されました。

 主語を入れ、敬語を省いた短文で歯切れよく訳されています。与謝野晶子は、『源氏物語』の精神は生かしつつも、古風な女語りの文体かを近代小説として再生させるところにありました。その結果、文法解釈が独特な部分があります。

 その後の現代語訳のリファレンスとなる立派な訳ですが、抄訳になっていることと、文体の古めかしさは否めません。

与謝野晶子訳

谷崎潤一郎 「潤一郎訳 源氏物語」

 最初の与謝野晶子の訳が抄訳だったため、全訳を試みました。それは、1939年の出版から、最後は1965年10月まで3回の出版を行っています。谷崎は1965年7月に亡くなっていますので、25以上のライフワークでした。

 原文に忠実に訳してあるため、敬語や丁寧語を多用し、主語がなく、継ぎ目のない長文になっています。初心者がいきなり読むにはやや難しいかもしれません。しかし、読解力のある読者には、魅力ある訳になります。

 現在、中公文庫で全5冊が出版されています。定期的に増刷されているので、手に入りやすいでしょう。

 本文の上に簡単な注釈がついています。

谷崎潤一郎訳

円地文子 「源氏物語」

 円地文子は、1972年から73年にかけて全10巻の現代語訳を出版しました。国文学者の協力を得るなどして解釈を厳密に行い、主語を加え、注釈的な部分を文中に織り込んでいます。文体は格調高く、登場人物の内面の読み取りは鋭いものがあります。ただし、わかりやすくするため、円地の創作的な加筆が大胆に施されており、原文に忠実ではありません。

 新潮社の全10冊と新潮文庫版の全6冊は手に入りにくいかもしれません。比較的手に入りやすい集英社文庫版は、全3冊にまとめ上げており、儀式、行事、宴などの情景描写をできるだけ割愛し、スピード感とリズム感を重視しています。

円地文子訳

田辺聖子 「新源氏物語」

 新潮文庫で全3冊で出ています。田辺聖子は、「源氏物語」を題材にしたエッセイや諸作があり、長く深く「源氏物語」を愛した作家です。

 わかりやすさを重視し、田辺の解釈に基づいて記述が変えられたり、加筆され、会話を多用した現代小説のように仕立ててあります。それが後の源氏物語を題材にした作品に大きな影響を与えることになり、「原典をさしおいて《原典的地位》にある」といわれています。大和和紀作の漫画化作品「あさきゆめみし」にも田辺源氏からの影響が多く見られます。

新編日本古典文学全集 源氏物語

 『新編 日本古典文学全集』(全88巻)は、1994年2月25日から2002年10月18日にわたって出版されました。本文は選ばれた最良の底本の原文を載せており、原文の上には注釈、下に現代語訳をを載せており、3段組に配置しています。

 「源氏物語」は、全集の20~25冊目の6冊に収められています。訳・校正は阿部秋生、秋山虔、今井源衛、鈴木日出男と、最高の国文学・中古文学の専門家が行っており、古典の学習に最適なテキストとなっています。

新編日本古典文学全集


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