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馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法序説

横断歩道をいつでも安全に渡る方法

省略

飛行機に絶対に乗らない決心をする方法

省略

逃げて逃げて逃げまくる方法

 誰かがもしなんかの問題にぶつかったら、とにかくまずそれから逃げまくってみること、そしてもし逃げ切れればそれは結局どうでもよかった問題であり、それは逃げまくる力と比例して増えてくるはずで、つまり、逆にどんな問題にとっつかまってジタバタするかでそいつの力は決まってくる。だから逃げて逃げて逃げまくれ、そして、それでもどうしても逃げきれない問題があったらそれこそ諸兄の問題で...

庄司薫著「赤ずきんちゃん気をつけて」

 ぼくがこの本を最初に読んだのは、高校生くらいのときだったと思う。それ以来、とにかくぼくはこの本のことが大好きになっちゃって、今でも手元に2冊は置いているくらいなんだ。作者は1937年生まれだから、ご存命中なら85歳になるんだけど、お元気なのかしら。

 主人公の薫くんがとってもキュートで、幼なじみの由美ちゃんのことをとっても大切に思ってるんだというのが、スゴク伝わってくる話なんだけど、女医さんの白衣にドキドキしちゃうちょっとエッチなところもあるんだ。

 1969年に出版されているんだけど、とてもポップで、実に計算されたストーリーが展開していくところが、もう参っちゃった感じなんだ。本当にどこまで計算されているの、凡人にはなかなか読みきれないところもあるんだ。

 「逃げて逃げて逃げまくれ」なんて言う言い方は、浅田彰の「逃走論 スキゾ・キッズの冒険」みたいなんだけど、こっちは1980年代なので、時代を先取りしていると言えるね。

自らの価値観が崩れるとは

 「赤頭巾ちゃん気をつけて」で書かれている、逃げなきゃいけない状況というのは、東大進学率No.1の日比谷高校から東大・法学部に進学し、大蔵省あたりに就職するなんどという皆が羨む将来像が描かれていた世の中に、突如東大紛争などというものが起きてしまって、学歴社会のレールが幻想でしかなかったことに気がついちゃったことが問題なんだと思っている。

 「エリート=世のために役に立つ人」というのが、もはや鼻持ちならないものでしかなく、それまで何となくそれを信じて生きていた自分が崩れ落ちてしまうっていうのは、大変な出来事だったんだ。

 そんな価値観の大逆転を受け入れ、新しい価値観を作り上げようという大冒険の話だったんじゃないんだろうか。

現代の逃走論

 現代も、見渡せば逃げなきゃいけない問題というのがたくさんある。特に危ないのは、勝ちグセのついちゃった善人ズラの人たちだ。

 彼らは、うわべはとてもいい人なので、ついつい近寄ってくるのを許しちゃって信頼しちゃうんだけど、彼・彼女の頭の中は自分が得をすることしか考えていないんだ。どうしてそういう考えをしているのかというと、自分の内側に劣等感や欲求不満なんか、ネガティブな感情がたくさんあって、それを追い払うには他人を自分より劣ったものとしないといけないからなんだ。

 そういう人は、他人が自分の言う通りに動くように、不安や弱みを見つけ、嘘や噂で相手をコントロールしようとしているんだ。それで、一回うまくいくと、もうやめられなくなって、次々と犠牲者を探しているわけだ。

 例えば、「○○さんが、あなたのことを☓☓って言ってたわよ。でも安心して、私が△△って話しておいたわ」などと、自分があなたの味方であるアピールをしたり、誰かを敵に仕立て上げて仲間意識をもたせるようにしたりするんだ。

 一番ひどいのは、「周りは全部敵。信じられるのは私だけよ」なんて状況を作り上げる、ネタバラシがない「ドッキリ・バラエティー」なみの恐ろしいことを仕組んだりする人達もいる。弱っているときほど、やられちゃうよね。

 他人を疑うように仕向けたり、他の人から孤立させようという働きかけをしてくる人は、とにかく疑ってかからなければならない。いい人っぽいからって、自分のことを任せたりすると、とんでもないことになるから気をつけないといけない。少しでもおかしなことがあったら、しつこく問いただすようにしないといけない。

 それから、一番大切なのは、あなたが周囲から孤立しないことなんです。1つだけじゃなく、複数のグループに参加するようにして、多くの視点を持てる環境にいると、相手は手を出しにくいんです。だって、コントロールしようとしている相手の考えてることを全て知ってないと、優位に立てないからね。

 自分に自信がなくなったとか、相手に傷つけられたという感情は、決して普通のことじゃないんです。自分のせいだと思わないことが大切です。本当に。なぜなら、そういう感情は自然に湧き上がったものじゃなく、そういう感情にさせた相手がいるんだから。

最期に

 とはいえ、全然反省しない人生も、心が貧しくなりますよね。ちょっとは反省しながら、前を向いて誰かと新しいことにチャレンジしていくといいと思う。孤立しないことがとても大切なんだ。そして、いちばん大切な人を守るという気持ちを大切にする姿勢が、きっと正しい生き方なんじゃないかな。

「赤ずきんちゃん気おつけて」の口調は野崎孝訳版、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』の影響があると言われてます。

「赤ずきんちゃん・・・」より新しく、1970年に出版されたものですが、世相的な共通点を感じます。

書かれたのは1930年なんだけど、日本語訳になったのは1971年頃みたいだ。ぜんぜん違うといえば違うけど、雰囲気が近い部分もあるかもしれないと思ってる。


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