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魁!!テレビ塾 第10訓『きょうの料理』

【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

世の主婦のあり方に、自然体で
物申す自由なアナーキスト

 押忍!! ワシが当テレビ塾塾長、福田フクスケである!

 どんな役も器用にソツなくこなす若手俳優、高度にチームワーク化されたひな壇芸人が画面を占有しているテレビ界にあって、いまもっとも制約から自由なアナーキストは、ひょっとして平野レミかもしれない。

 先日の『きょうの料理』でも、彼女は安定の暴走っぷりを発揮してくれた。20分間で4人分の献立4品を作らなければならない時間勝負の企画。ただでさえ早口でせわしないレミに、ターボがかかる。ハンバーグの挽き肉をビターンと叩き付け「すごい音したわね」と自分で驚き、炊飯器の内釜を素手でつかんで「熱っ!」と豪快にご飯をよそうレミ。品の良さをばっさり切り捨てるのが彼女の流儀だ。

 解説の後藤アナからの質問を「ハ? なに?」と聞き返し、いつになく盛り付けが丁寧な理由を問われて「NHKだから。民放だったら雑にやっちゃう」と忌憚なく答えるレミ。調理場をむやみに右往左往しては、追いかけるカメラを困惑させることも忘れない。

 結局、最後はいつも通り葉っぱやトマトを皿にボトボトまき散らすように盛り付け、制限時間を余らせて余裕の完成。「リハーサルでは全然だめだと思ったけど」と恐ろしいことを言い放ち、次回は15分で5品作ろうととんでもないことを提案するのであった。

 一見、彼女の料理はズサンで乱暴だが、それは異常に手際がいいだけ。完成品は彩りや栄養バランスもよく美味しそうだ。必要条件さえ満たしていれば、家庭料理は効率重視。余計な手間ひまやこだわりなど要らない。主婦が楽をすることを手抜きと非難する世の風潮に、レミはその高笑いと圧倒的な自然体で、軽やかに抵抗してみせているのかもしれない。

◆今月の名言

「4歳とー、2歳とー、30cmくらいの孫がいるのよ」(平野レミ)

『きょうの料理』2014年9月1日(月)OA(NHK Eテレ)

20分の間に予備調理なしですべての献立を作る「20分で晩ごはん」という人気企画。今回は孫に評判のメニューだと紹介するが、3人目の孫だけ生後間もないのか、急にスペックだけで説明していた。

(初出:学研「GetNavi」2014年11月号)

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【2023年の追記】

平野レミについては、NHKがもはや自覚的に面白がって毎回ブロッコリーとか丸鶏とかを立たせはじめた時点で、言うだけ野暮というか、ツッコんだら負けというか、みすず学苑のCMのように触れたら火傷する領域に突入してしまったと思います。

それに、実はレミ本人も「料理はお母さんの愛情がいちばん!」みたいなことを割と無邪気に言うことも多くて、本稿で持ち上げたほど「母親の愛情神話を否定して見せる」みたいな主義主張のある人じゃないんですよね。ただ、彼女の場合、たとえ本人がそう思っていなくても、生き様が自然とそれを体現してしまっている、という天然力こそが強みだと思います。

最近、持ち前の「豪快さ」と、寄る年波がもたらす「老い」との区別があいまいになってきている感はありますが、どうか彼女には料理の神様から永遠の命を授かってほしいですし、100歳になってもトマトを手で握りつぶして入れたり、人差し指にホットケーキミックスをつけて油で揚げて「指ドッグの完成で〜す!」と言ったり、「コンタクトレンズは三杯酢をかけちゃえばギリ食べられるのよ!」とか言い出したりして、見る者をハラハラさせてほしいです。

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