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男のコンプレックス Vol.2「義理チョコ男子のリアクション対策」

【注記】
これは、マガジンハウス「POPEYE」2010年2月号〜2012年5月号に連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在では男尊女卑や女性蔑視、ジェンダーバイアスに当たる表現もあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

バレンタインのリアクションに
「熱湯風呂」のような正解が欲しい!

 たとえば、ダチョウ倶楽部の上島竜兵が入る熱湯風呂が、本当に煮えたぎるほど熱いと信じていられるほど、日本人はもはやウブではない。でも、竜ちゃんが見せる「仕事」としての熱がり方がおかしくて、やっぱり我われは笑ってしまう。

 2010年を生きる成熟した男子にとって、バレンタインデーとは、たぶんそんなイベントだ。本命チョコ、義理チョコ、友チョコ…と、チョコの付加価値は年々値崩れを起こし、女性が男性にチョコをあげるモチベーションは、今や「せっかく奈良公園に来たんだから、鹿せんべいでもあげとく?」くらいのぬるーい義務感でしかない。

 しかし、だからこそ問われるセンスもある。職場やクラスの女子一同が、お歳暮のような義理堅さでロマンスのかけらもない事務用品のようなチョコを配るとき。我われは前もって知っていたにもかかわらず、「わあ、まさか用意してくれてたなんて」といったテイストで「微妙に驚いた演技」をするでしょ。私には、あれがなんだかむずがゆくて、うまくできないのだ。

 あんまり喜びすぎて「今どきチョコもらって浮かれてる人」とも思われたくないし、かといって、妙につれない態度をとるのも逆に「チョコをもらい慣れてない人」みたいでかっこ悪い。もっとこう、「女子のみんなで気を利かせてくれた、その気持ちにありがとうね」みたいな、小粋なリアクションを教えてほしいのである。

 バレンタインは、普段モテない男子も疑似的にモテてる状況をロールプレイできる絶好の機会。だが、素人が熱くない熱湯風呂に入っても、ちっとも笑えずにスベリたおすだけだ。同様に、バレンタインの敷居が低くなったせいで、我われはチョコを前にして下手なリアクション芸をさらし、かえって「モテ慣れていないこと」を女子に見透かされるリスクを背負うハメになったのではないだろうか。

 熱湯風呂で「じゃあ俺がやるよ」と手を挙げた竜ちゃんに、すかさず「どうぞどうぞ」と切り返すリーダーとジモンのように、チョコを受け取る側にも、「これが正解」というリアクションのテッパンがあればいいのに! と切実に願う私なのである。

(初出:マガジンハウス『POPEYE』2010年3月号)

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【2023年の追記】

形骸化したバレンタインの職場チョコの風習によって、ウブでピュアな男心はもてあそばれてまごついちゃってるんだからね! という、ぶりっこおじさん丸出しのたいへん気持ち悪いコラムで申し訳ないです。

真にストレスを感じているのは、わざわざ自腹で男性社員のご機嫌伺いを強要されている女性社員のほうだというのに。

「女子のみんなで気を利かせてくれた、その気持ちにありがとうね」みたいな小粋なリアクション……と書きましたが、実際そんなリアクションをとる男がいたら、それはそれでイラッとするし気色悪いだろ、と今なら思います。

それにしても、年中行事やイベントをすぐに義務化・儀礼化させて、忠誠心や親睦、集団への同一化の度合いを図るための「踏み絵ツール」にするのは、本当に日本人の悪いくせですね。

当時はまだそこまで盛り上がっていなかったハロウィンも、その後SNSバズ狙いのITベンチャーなどによって職場に持ち込まれ、「女子社員は仮装して出社」みたいな気持ち悪い風習を生み出し、そしてあっという間に廃れた感があります。

本来の意味や目的を見失い、「やらないとカドが立つから」みたいな見えない圧力によってみるみる強制力を持ち始めるしがらみのめんどくささを、私たちはこの10年後、マスクによってさらに思い知らされることになるのでした。

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