男のコンプレックス Vol.20「ツンデル系男子のチェックメイト」
男のプライド鉄道は、
女性の敷いたレールを走る!?
「まだわかんないけどさあ……俺、ひょっとしたら結婚するかもしんない」
友人があやふやにそう言うのである。「俺、川原でカッパ見たかもしんない」くらいのオボロゲでヒトゴトなテンション。どうやら、彼女のほうは積極的だが、自分としてはまだふんぎりがついていない、という段階らしい。
ところが、詳しく話を聞くとどうも雲行きが怪しい。部屋にさりげなくゼクシィが置いてある、「ちょっと見てみたいから」と式場のブライダルフェアに連れて行かれた、来月彼女の故郷へ遊びに行き、“ついでに”実家へ寄って両親に会うことになっている、などなど……。彼の口から手品の万国旗みたいに次々とはためく結婚決定フラグ。
「ブライダルフェアで、『式のご予定は?』とか聞かれなかった?」
「うん……聞かれた。『来年の3月ごろです』って答えてた……彼女が」
それ、完全にチェックメイトですやん! はさみ将棋しかやったことない小学生でも“詰んでる”とわかるこの状況。誰がどう見ても『ロード・オブ・ザ・エンゲージリング完結編』だ。
それでも「結婚する可能性は80%」と言い張る友人に「残りの20%は?」と仕方なく聞いてみると、「だって、今から北川景子みたいなセクシィなツンデレ系女子と出会って、付き合えるかもしれないじゃん?」とのこと。うるさい、お前は目の前のゼクシィ持った女と向き合え、このツンデル系男子!
とうとう先日、「プロポーズはいつしてくれる?」と彼女のほうから日程をプレリザーブされたという友人。にもかかわらず、この期に及んでまだ「式場も日程も、最終的に決めているのは俺だから!」と“自立歩行”しているつもりの彼を見て、ハッとした。
男のプライドって、実は驚くほど女性の気遣いに守られていて、自分で決めているつもりで、女の思惑が敷いたレールの上を気持ちよく走らされてるだけなのかも……。女が優柔不断な男を嫌いなのは、きっとそのレールすら自分で走ってくれないからかもね。
(初出:『POPEYE』2011年9月号)
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【2023年の追記】
この回は、掲載後に当の友人から「彼女が読んでるかもしれないんだから勝手にネタにしてくれるなよ」という泣きのクレームが入ったいわくつきの回です。
こんなコラム、いくらだって「あいつの書いてることは妄想だから」と言い訳できそうなものだと思うのですが、さては「俺はまだ北川景子と出会えるかもしれない」と言っていたのが本当だったことを負い目に感じていたのでしょうか。
そんな彼も、今では結婚10年以上経つ、立派な一児の父です。
ところで、「男尊女卑とか言うけど、実際は男が女性の尻に敷かれているのだ」とか、「女性の手のひらで転がされているくらいが男はちょうどいい」みたいな言説は、体よく男尊女卑を温存するための言い訳に使われることが多い要注意フレーズです。
とはいえ、女性が男性のプライドを傷つけないよう先回りして過度に気を使うことで、実質的に男性の言動をコントロールしたり支配したりしている側面があることも、また厳然たる事実だと思います。だから、現代の日本は「いまだに男尊女卑がはびこっている」というよりも、もっと正確に言えば、とっくに耐用年数が過ぎて使えなくなっている男尊女卑というボロボロのシステムを、形式的に無理やり運用しないと世の中が機能しない状態、なのではないでしょうか。
女性は「男性を立てる」「わきまえる」「しおらしくする」という形式的ふるまいによって、実質的に物事を推し進めていくという特殊な能力を発達させ、逆に男性は、女性に気持ちよくプライドを立ててもらっているうちに、大事なコミュニケーション能力や感情の言語化能力、セルフケアの能力を奪われスポイルされている、とも言えるわけです。
かつて、ダメ男製造機と呼ばれていた友人は、「私がいないと何もできないくらいの男じゃないと、好き勝手されて捨てられそうだから安心できない」と言っていました。自分と付き合った男は垢抜けて出世する、とあげまん(この言い方も今となっては下品ですが)を自負していたまた別の友人は、「私のおかげで成長できたけど、私がいないと独り立ちはできないギリギリの状態をキープしたい」と言っていました。
2人の女性は一見真逆に見えますが、実は男に望んでいることはまったく同じです。彼女たちは、男にかしずいて献身的に尽くすタイプのようでいて、本当は形を変えたモラハラ気質なのではないかとも思ってしまいます。だからこそ、男女の差別構造ってねじれていて一筋縄ではいかないよな、と思うのでした。
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