見出し画像

お前のバカで目が覚める! 第13回「俺の顔を肴に酒を飲め!」

【注記】
これは、ぴあが発行していた情報誌「weeklyぴあ」に2003年7月14日号〜12月22日号の半年間連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在のポリティカル・コレクトネスや倫理規範に照らし合わせて問題のある表現が数多くあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

俺の顔を肴に酒を飲め!

 いきなりだが、顔は力だ。見た目で人を判断するなとか、ニンゲン顔じゃないよとか、世の中にはうっかりするとそういう口当たりのよいメルティな論法がまかり通りがちであるが、私に言わせればバカも休み休みYEAH!

 今「言え!」を無闇にハシャいでしまったことは見逃してほしい。ともかく、顔は対人関係において、家にたとえれば門がまえであり、映画にたとえれば冒頭の十数分。その人のニンゲンとしてのテイストや味わいは、すべからく自ずと顔に出てしまうものだ。

 そんな観点でもって小泉第二次改造内閣の顔ぶれってヤツを眺めてみたときに、政策うんぬん以前に鑑賞に堪えうる「物語性のある顔」を持った人がいなさすぎるというのが、この内閣の実質的しょぼさを表してはいまいか。無理して語ろうと頑張ってみても、私の実力では石破茂のテリー伊藤のような視点定まらなさや、坂口力のスヌーピーの耳のような髪なでつけ具合に言及するのが精一杯であり、一歩間違えば竹中平蔵=きたろう説を今さら持ち出してしまいそうなほどに、彼らの顔にはイジりがいがない。

 それに比べて、いまだ抵抗勢力として踏ん張り続ける族議員たちの、わかりやすくパンチの利いた、もう「天ぷらラードで二度揚げ」みたいなバイオレンスな顔立ちはどうだ。江藤隆美の3D感あふれるアグレッシヴな眉毛には、よく勢い余った蚊や蝿が刺さっているし、古賀誠の顔の質感は、あたかも「らくだジャーキー」を彷彿とさせる。ていうか、ねぇよそんな食品。ないが、ない食品まで彷彿とさせるほどタチの悪い「顔力」があるということだ。

 そんな道路族に対して、眠い目を無理矢理セロテープでガビガビに貼り付けたようなヤバイ目つきの石原伸晃は、果たして立ち向かえるのだろうか。文字通り「顔負け」してる気がする。

 そんな顔面ウォッチャーの私が、実は今一番気になっている顔が「広末」なのである。今さらになって何故、と言われることを覚悟の上で告白するが、最近のヒロスエ、かわいくないか? マジで恋する……などと歌っていた頃の目も当てられないションベン臭さから脱皮し、奇行癖を囁かれたりしながらも、気がついたらなんだかキレイになっていた。

 仲間由紀恵や加藤あいのような一点の歪みもない純粋端整美人とは程遠い、アラ探し放題のスキのある顔立ちではあるが、かわいさっていうのはそういう欠落した不安定感に漂うニンゲン臭さにこそ宿ると思いません?

 椎名林檎、深津絵里など、私が「ホクロ顔の女」に弱いのも、隈なき美しさがホクロという一抹のノイズによって汚される、その背徳感にたまらないエロスを感じるからだ。たとえるにそれは流麗な文章に打たれた句読点。ごめん、今日の私は妄想全開。そしてなぜかちょっと文学的だ。それもこれも河相我聞の爆笑した顔が生理的に不快なせい。なんでだろう。

(初出:『Weeklyぴあ』2003年10月6日号)

* * * * * * * * * *

【2023年の追記】

時事ネタは鮮度が命ですが、鮮度にこだわるあまり「瞬間風速が強いだけ」の人をネタに選んでしまうと、色褪せるスピードも速くなって後からまったく意味がわからなくなる諸刃の剣でもあります。小泉第二次改造内閣とか、江藤隆美や古賀誠といった道路族議員の顔とかを、今さら誰が覚えているでしょうか。

それに比べて、20年経った今なお知名度・話題性ともにまったく衰えず、2023年7月現在、ギラギラにフレッシュな時事ネタの最前線にいる広末の息の長さは、さすがと言わざるを得ません。政治家も見習ってほしいです。

それにしても、第7回に続き、当時の私は人の顔を悪しざまにいじるネタが大好きですね。顔はもっともわかりやすい個性であり、ある意味その人の生きざまが滲み出てしまうもの。とくに有名人は顔を売る商売なので、人種や疾患といった特定の属性に結びつけているのでなければ、ある程度は「批評」してもいいと思っています。

ただ、それをどれだけ「おもしろ」の文脈に乗せていいかは、慎重にならなければいけない時代になりましたね。私は、関根勤が一般人を紹介するときの喩え芸、あれくらいはユーモアの範疇としてこれからも許されてほしいなと思っています。なんというか、あれはその人の顔を笑っているのではなくて、そこから喚起される関根勤の発想力を笑っているわけですから。

かくいう私も、本当はもっと人の顔をネタにしたくてしょうがないんですが、例えば「GENERATIONSの片寄涼太と、ラブレターズ溜口と、林家三平の3人が語り合う『ボクらの時代』が見たい」って言うのはセーフですか? 今日初めて会った人に「マカロニえんぴつを全員足して割ったみたいな顔ですね」って言うのは失礼ですか? ニッポンの社長のケツを見ると三浦大知を思い出すのに、三浦大知を見てもケツには似ても似つかないの、これってトリビアになりませんか?

誰か私に、現代の最新のコンプライアンスを教えてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?