魁!!テレビ塾 第23訓『じゅん散歩』
素人にはおすすめできない
高田純次のリスキーな話法
押忍!! ワシが当テレビ塾塾長の福田フクスケである!
『ちい散歩』『若大将のゆうゆう散歩』の後継番組を高田純次が務めると聞いて、ひそかに心躍った人は多いはずだ。あの芸能界随一のテキトーなトークが、街歩き番組の一般人との絡みでどれだけ発揮されるのか。ネット上でも、放送開始前から待望論が盛り上がった。
結果として、彼は68歳という年相応の善戦を見せていると思う。番組開始早々「今日から散歩します、純次クルーニーです」とかまし、喫茶店のメニューを見て「これ、お金と交換に食べられるの?」、道行くベビーカーの赤ちゃんに「かわいいね〜、高校生?」、カフェの店主に「お茶飲むとき小指が立つんだけど、なんでかわかる? 親指立てるとお茶が落っこちちゃうからね」など、期待に違わぬ手数豊富な“テキトー話法”を見せてくれる。
しかし、彼のこのボケっぱなしでツッコミを必要としない話法は、“適切な打ち返し方が存在しない”がゆえに、話しかけられた相手にもそれ相応のコミュニケーションコストを要求する。「君たちどう、お昼食べた? 食べてないの? じゃあ2人で行ってきなさい」など、“自分から聞いておいて突き放す”というボケを彼は多用するが、それに対してほとんどの素人は“戸惑う”か“苦笑い”でしかリアクションできない。そこには必然的に“ややスベリした”みたいな空気が発生してしまう。
彼には今後もこのスタイルを一切崩さないでほしいところだが、これを見て高田純次に憧れた世のおじさん&おじいさんたちがテキトー話法を猿真似し、全国各地で話し相手を困惑させないことを願う。これは“高田純次だから”許されるのであるからして!
◆今月の名言
『ちい散歩』『若大将のゆうゆう散歩』に続く散歩シリーズ。「一歩歩けばひとつの出会いがある」をモットーに、高田純次がほどよいテキトーさを発揮しながら、一週かけてひとつの地域を散歩する
(初出:学研「GetNavi」2015年12月号)
* * * * * * * * * *
【2024年の追記】
『じゅん散歩』って、初代・地井武男の『ちい散歩』を放送回数でも放送年数でもすでに抜いてるんですね。”散歩シリーズといえば高田純次”を完全に確立したもよう。正直、いま番組がどんな感じなのか、高田純次がいまだにちゃんとボケ続けているのか知らないのですが、ちょっと検索してみたら、年末のスペシャルでも「野球選手の誰かに似てるなぁ。誰だか分からないけど」みたいなことを関根勤と一緒に言ってたみたいなので、少し安心しました(笑)。
それにしても、2000年代後半に「適当」というコピーを掲げて起きた高田純次ブーム/再ブレイクとは一体なんだったんでしょうか。時代はまだリーマンショック前。適当やいいかげん、無責任といったスタンスに憧れることができるくらい、まだ人々の心に余裕があったともいえます。
今、私たちは高田純次のような軽率で無配慮なキャラクターを受容できるでしょうか。コンプライアンスやポリコレ以前の問題として、”何も背負わず気楽そうに生きている人”を見ているとしんどい/腹が立つ、というレベルにまで日本の閉塞感が進行している気がしてなりません。『じゅん散歩』は、あまり注目されない午前中の時間帯にしれっとやっているのが正解なのかも。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?