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お前のバカで目が覚める! 第10回「分別を鼻から吸ってトリップしたい」

【注記】
これは、ぴあが発行していた情報誌「weeklyぴあ」に2003年7月14日号〜12月22日号の半年間連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在のポリティカル・コレクトネスや倫理規範に照らし合わせて問題のある表現が数多くあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

分別を鼻から吸ってトリップしたい

 ユニバーシアードがいつの間にか閉幕していた。結局テレビを観ていても競技や試合状況については何ひとつわからず、北朝鮮の美女軍団の動向にだけやけに詳しくなってしまった。

 それにしても「美女軍団」ってすごい言葉だな。なんか、テレビ東京で木曜の夜にやりがちな映画のサブタイトルみたいだ。「地獄の女囚コマンド~ブロンド美女軍団の復讐」みたいな。「ブス軍隊」とかでもすごいけど。ねぇよ、そんな軍隊! ブスだわ軍隊だわじゃ逃げ場がないだろ。

 まあ美女軍団もよくよく見ると美女でも軍団でもないんだけどね。「軍団」という言葉の圧力に、「ホントに全員美女なのか」という疑念は有無を言わせずねじ伏せられていくのだ。

 そんなうやむやな美女集団を積極的にフィーチャーしている日本のテレビ局は、完全に北朝鮮の仕掛けてくる情報戦争に負けているように思う。今ワイドショーとかじゃ、どこもかしこも北朝鮮の番組垂れ流しだもんな。ヘタしたら向こうの一般市民よりも朝鮮中央テレビを観てるんじゃないだろうか。だんだんこっちも洗脳されてくるもの。

 あれ、北朝鮮の子供番組に出てくる「物知りおじいさん」が「エンタの神様」に出てるぞ? と思ったら、松尾幻燈斎だったし。あれ、堤幸彦監督って芸能人の使用済み吸い殻コレクターだっけ? と思ったら、やくみつるだったし。あ、ごめん、これは全然関係なかった。

 なんかね、最近分別ないのよ俺。「荻」と「萩」よく書き間違えるし、「おざなり」と「なおざり」の区別もよくわかんないし。あん馬と鉄棒で金メダル獲った鹿島選手のことも、最初見たとき「フットボールアワー」のボケの人かと思ったもん。ごめんね、知名度微妙なネタで。なんなら「よゐこ」の濱口でもいいや。「でもいいや」ってなんだよ。そんなベタな一人ツッコミをしてしまうほどに、いまや俺もテレビ局も、そして世間全体までもが「分別」ちゅうもんを見失っておるぞと、私は声高に叫びたい。いや、人のこと言えないから声低にささやきたい。

 だっておかしいだろ、電車内のマナー。車内で焼身自殺しちゃダメだってば! 迷惑迷惑。焼身自殺ってのは、なんかもっとこう、テロとか抗議活動とか、大義名分しょって中東とかでやるもんでしょ。中央線じゃなに訴えたいんだかワケわかんないもの。少なくとも偶数車両ではご遠慮ください。奇数車両ではマナーモードで小さくお燃え下さい。

 あと、道歩くときのモラルもなってないね。暑いからって小学校教諭が全裸で道歩いちゃう時代なのだ。手にはトランクスを持っていたらしい。なんだろう。一応手には持つのが彼なりの全裸ウォークのマナーだったんだろうか。せめて覆面かぶって「全裸マン」と言ってほしかった。「ごめんね、知名度微妙なネタで」って言えば許してもらえたかもしれない。しかし一番分別がないのは、こんなことを書いている俺なのであった。

(初出:『Weeklyぴあ』2003年9月15日号)

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【2023年の追記】

崎陽軒のシウマイ弁当におけるアンズ。親戚一同が集まる新年の宴会におけるひじきの煮物。この回は、なんかそういう「箸休め」的な回だったのだと思ってください。

『ふしぎの海のナディア』における“島編”。『とんねるずのみなさんのおかげです』の休止期間中に半年だけ放送された『ラスタとんねるず’94』。半年のあいだ毎週連載していたこのコラムに、たまにはそんな「中休み」的な回があったっていいじゃないですか。

しかし、映画の最中に便意を催したとき、「ああ、しまった! ゆるやかなBGMのなか主人公の修行場面がカットバックされるさっきの回想シーンが、最後のトイレチャンスだったのか……!!!」と過ぎてしまってから気が付くように、連載当時の私もこれが中休みの回だとはつゆほども思っていなかったことだけははっきり言っておきたいです。

いつだって渦中にいるときは全力で、過ぎ去ってから初めてその意味を知るのが人生です。まさかこんなにグダグダな回があったということに20年経って愕然としている私の今の感情に、名前をつけて飼ってあげたいです。きっと夜中に無駄吠えしたりしない、しつけの行き届いたかわいい奴だと思います。

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