見出し画像

お前のバカで目が覚める! 第16回「パソコンに関白宣言」

【注記】
これは、ぴあが発行していた情報誌「weeklyぴあ」に2003年7月14日号〜12月22日号の半年間連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在のポリティカル・コレクトネスや倫理規範に照らし合わせて問題のある表現が数多くあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

パソコンに関白宣言

 サランラップの切れ目を見失っては途方に暮れ、木村屋のあずきバーの硬さに驚いては言葉を失うデリケートな私であるが、とりわけパソコンとのぎくしゃくと煮え切らない関係だけはどうにかならんもんかと切実に悩んでいる。レポート書くにも原稿書くにも今やパソコンは必需品であって、お互いの今後のためにもパソコンとはいい関係を築いていきたいと思っているわけ。姑とは別居するし、子供の送り迎えは交代でやろうねとか、いろいろ気も遣っている。なのに、なんだろうこのわかりあえなさは! って話なのだ。

 まずやめてほしいのが、あの「ジャンッ!」っていう警告音ね。大してこっちに非もないのに「ハイ、やっちゃった」みたいな感じで鬼の首取ったように嬉々として鳴らすのな。この得意げに「ッ!」ってなってる感じが威圧的で鼻につくんだよ。「メモリ不足のため、このプログラムを実行できません」って、それはむしろお前側の問題じゃないのか。なんでこっちが責められてる気分になんなきゃいけないんだ。もっと慎ましく「いやんっ!」とか「ひでぶっ!」とか「ホロッホー」とか言えないのか。

 しかも、最近うちのパソコンがなぜか「ふかわりょう」なみにテンパり気味なのだ。いきなり画面が全面すがすがしいブルーになったかと思うと「システムリソースが極端に不足しています」などと脅迫めいたことを口走り、農作物の盗難事件と同じくらいの発生頻度でマシンがフリーズを起こすのですわ。しかも、そのたびに華原朋美の「あきらめましょう」を歌いながら(古いよ)釈然としない思いで再起動や強制終了を押すんだけど、そうすると次回からまた何事もなかったように動き出すのよね。いいのか、そんな「たまごっち」みたいなアバウトな仕組みで。パソコンってのはもっとこう、フェミニーナ軟膏を塗りたくなるほどデリケートな、キングオブ精密機械のはずじゃないのか。わからないよ、お前のことが。窪塚洋介の言ってること以上にわからない。あと、「自分が今電車の何両目に乗ってるのか」とかもわからない。

 文系だからってナメられてるのかなぁ俺、パソコンに。こころなしか電磁波にも悪意こもってる気がするもんね。目はショボショボするし頭痛もするし、炭酸一気飲みすると涙目になるし、足の指の爪垢がめちゃめちゃ臭いし、リポビタンD飲んでから歯ぎしりすると寒気するし。これ全部電磁波のせいだと思って間違いないな。もはや目に見える気がするもん俺、電磁波が。悪い顔してヴーーーンとか言ってるよ。口で。胸に「でんじは」ってゼッケン付けてるよ。

 パソコンよ。お前とは四の五の折り合いつけてうまくやっていきたいのだ。ワードで打つとスペルチェックの赤い波線だらけになるような文章書いてる俺だけど。MSNメッセンジャーの「退席中」と「一時退席中」の使い分けがわからない俺だけど。ここはひとつ、お願いしますよ。

(初出:『Weeklyぴあ』2003年10月27日号)

* * * * * * * * * *

【2023年の追記】

恥ずかしながら、今読み返すとこの時期の私の文体は、松尾スズキにもろ影響を受けていることがバレバレで、ほとんど文体模写の域に足を突っ込んでいるそっくり具合で、見つかり方次第ではネットが炎上していたなと、今さらながら震え上がっています。

当時、まだ20歳。松尾スズキの書くコラムと出会ったばかりで、そのおもしろさに衝撃を受け、生まれたばかりの雛鳥が最初に見たものを親として付いていくように、息をするように真似していました。まだオリジナリティなど生み出せようはずもない若造を週刊連載に起用した、当時の「ぴあ」が悪いんだ、そうなんだ、きっとここから愛なんだ……そう責任転嫁させてください。

このときは、とりわけ松尾スズキ成分多めな私の文体ですが、若い頃はそのときどきによって、はっきりと文体に影響を受けた作家がいました。小学生の頃はさくらももこ、中高生時代は椎名誠、大学生になってからは宮沢章夫と松尾スズキ。社会人になってからのある期間書いていたmixi日記は、菊地成孔のキザでペダンチックな文体をもろに真似ていて、思い返すだにネットではなく私の顔が炎上するくらい恥ずかしいです。このまま永遠に、インターネットという宇宙のアカシックレコードに埋もれたまま誰の目にも触れないでほしい、と切に願っています。

パソコンといえば、最近私のMacbook Airの漢字予測変換がおかしくて、たとえば「出さないと」を「だsnaito」と打ち損じると、なぜか勝手に「だパパ活ないと」といかがわしい変換をしてくるんですが、それはまた別の話、ということで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?