魁!!テレビ塾 第22訓『マツコとマツコ』
テレビの異化装置・マツコを
異化させるマツコロイド
押忍!! ワシが当テレビ塾塾長の福田フクスケである!
2010年代前半のバラエティは、おおむねマツコ・デラックスと歩んだと言っていい。当初は、世間もまだ「また活きのいいオネエキャラが現れた」ぐらいの認識だったし、本人も「私は異形のバケモノだから何を言っても許されている」「どうせ長くは続かない」と、自分の状況を客観視するような醒めた発言を繰り返していた。
しかし、いつからかマツコは異形のマイノリティとしての違和感や戸惑いを口にしなくなった。テレビの世界にまるごと身を預け、自分はスタッフや視聴者の意志を投影される巨大な容れ物であると割り切ったようにも見えた。今や、テレビに出ていないときのマツコがどこでどんな風に生きているのかちょっと想像できないくらいに、マツコはテレビの中に“住んでいる”貫禄すら漂わせている。
そんな彼女の数ある冠番組の中でも変化球なのが『マツコとマツコ』だ。日本のロボット工学の権威・石黒浩が監修したマツコそっくりの精巧なアンドロイド“マツコロイド”がさまざまなチャレンジをするという、一見すぐネタ切れになるイロモノ企画かと思われたが、これがなかなかに深い。
本物のマツコと、本物そっくりのマツコロイドが並ぶシュールな光景は、「ふーん、アタシってテレビの中でこう扱われているんだ」と、マツコ自身が虚像としての自分を客観的に観察し、対話をしているようにも見える。マツコロイドに人生相談をしたり、マツコロイドにドッキリを仕掛けようとする人々の姿は、マツコとは誰か、どこまでがマツコなのか、人は何を見てマツコだと思うのかという哲学的な問いかけを、ワシらに突きつけてくるのである。
◆今月の名言
「世界初のアンドロイドバラエティー」と銘打ち、2015年4月4日から放送開始。カンヌライオンズという広告祭をはじめ、3つの海外賞を受賞しており、その技術とコンセプトは国内外で評価が高い。
(初出:学研「GetNavi」2015年11月号)
* * * * * * * * * *
【2023年の追記】
マツコ・デラックスって当初は、「テレビの中にいるのにテレビに対してどんな文句を言ってもいい異形のバケモノ」というスタンスだったよな、というのを当時のこの原稿を読んで思い出しました。他のどのタレントでもなく、マツコがアンドロイド化の対象として選ばれたのは、彼女のその異形性が、人間とそうでないアンドロイドとの境界を意図的にかき混ぜてくれる存在だったからでしょう。
全然関係ありませんが、マツコが「テレビのよそ者」ポジションをやめて「テレビの中の人」になることを引き受けた時期と、星野源が「サブカルシンガー」の立ち位置に踏みとどまるのをやめて、完全に「日本のポップスター」になることを引き受けた時期(テレビの歌番組で照れずに「こんばんはー!星野源でーす!」と言いきることに決めた頃)というのは、2人とも似たような心境だったのではないかと思うのですが、皆さんはどう思いますか?(急な問いかけ)
それにしても、この『マツコとマツコ』はロボット工学者・石黒浩先生の面目躍如のような番組で本当に面白かったのですが、案の定、その後放送は半年で終了していました。やはり、マツコロイドという企画もの一本でレギュラー番組として存続させるのは難しかったようです。でも、定期的に特番とかでやって欲しかったな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?